第40話 男部屋での休息

 神奈先輩からの衝撃発言は直前の妃衣さんからの報告を忘れさせるほどで、伝えるだけ伝えて海の家に戻った先輩からは説明をしてもらえなかった。

 代わりに帰って来てから詳しく話そうとだけ残して去っていた彼女は俺の動揺など気にしないように一方的に厄介事を押し付けて言ったのだ。


「いろいろ考えている内にこんな時間……。元々今日は妃衣さんの付き添いでいいって北川先生も言ってたけど流石に一度も顔を出さないのはマズかったかな」


 15時を示す時計を見てそんな感傷に浸る。

 一日目からほとんど何もできなかった俺は色々な意味で明日からの心配をする。

 このままでは生徒会の二人にばれないように爆散未遂を行いながら、小陽先輩と妃衣さんに勘付かれないように小岩戸さんと小陽先輩の恋模様に首を突っ込まなくてはいけなくなりそうだ。


「この二つに比べたら明日の気まずさ何てかわいいもんか」


 独り言を進めながらもう一度時計を確認する。

 確か予定ではそろそろ皆が宿に戻ってきてもいい時間だろう。

 どこから出た信頼なのか完全に眠りについた女子高生との相部屋を許されている状況だが、そろそろ要らぬ罪悪感が芽生えそうなので早いところ戻ってきてほしいものだ。


「休息の地。明日からのため灼熱に焼かれたマナを回復しなければ」


「大丈夫~~? 日焼けしたの~~」


 噂をすれば何とやら。遠くから聞こえてきた知り合いの声は微妙に噛み合ってない気もするがまぁいいだろう。

 時計を見ていた視線を妃衣さんへと、そして襖へと向けわせたのとほとんど同時に部屋に人が押し寄せてきた。


「すまんな三永、妃衣のこと任せっきりになって。昼飯食ってなかっただろ。ほら、焼きそば」


「おかえりなさい皆さん。先輩もありがとうございます」


「お昼に顔出した時に持っていけばよかったね。ごめんね~~」


 一瞬にして人口密度の増えた和室はさっきまでの静寂を壊す。

 一変した部屋の忙しなさに目を覚ました妃衣さんだったが、その顔色は随分と回復して見えてこちらも一安心だ。


「うるさかったか? 起こしてしまったな」


「いえ、随分気分も楽になったので大丈夫ですよ。私こそ一日目から倒れてしまって申し訳ありませんでした」


 妃衣さんも回復し本来の女子部屋の住人も帰ってきたことなのでこれ以上俺がこの部屋に居座る理由もなくなる。

 俺に続いて妃衣さんへの気配りも忘れなかった小陽先輩を連れて部屋を出ようと立ち上がる。


「俺たちも一旦部屋に戻りましょう。焼きそばも食べたいですし」


「そうだな。一旦休憩して集まるならまた時間を少し置いてにしようか。ちねみにその焼きそばは佐藤のお手製だからちゃんと感謝して食べるんだぞ」


 最後少し怖い事を言われた気がするんだが……。

 言動とは裏腹に何でもこなせるイメージが定着しつつあるシュガーさんだが料理となると彼女の独創性がいかんなく発揮されてそうで味の想像ができない。

 視線を送ったシュガーさんがとても満足げに誇張されすぎない胸を突き出しドヤ顔をしているので、邪推しすぎて彼女の優しさを無下に扱うのは良くないだろう。

 

「それじゃあまた後で」


「三永君、ありがとうございました」


 最後に俺に感謝を伝えた妃衣さんの目はそれ以外の意味もこもっているようで、後で行われるだろう同好会メンバーのみでの作戦会議を予告するようだった。


「それで、二人っきりの和室で何を話してたんだ?」


「変なからかい方しないで下さいよ。妃衣さんも現状の俺もそういうのと無縁なのは見ていたら分かりますよね先輩」


 部屋を出て男二人になるなり不躾ぶしつけな勘繰りを入れてくる生徒会長だったが、すまんと謝ると話の本題に入った。


「さっき女子部屋に入ったときまた三永が考え事してそうだったからな。俺たちがいない間に何か聞いたんだろ」


「まぁそれはそうですが。先輩に隠すことでもないしおいおい知らされると思いますが、この合宿も例に漏れず爆散が目的だって話です」


「妃衣が同好会を認めさせることに注力するとは思えんかったし納得ではあるな」


 俺の説明を刹那に呑み込んだ小陽会長と俺は用意された男部屋の戸を開けてそのまま中へと入る。

 同じ部屋のつくりでも二人だけな分広さを感じる。

 立ち話もあれだと腰を掛けた俺たちは呼び出しが来る前に話の整理を始めた。


「それで、ターゲットは誰なんだ」


「北川先生です。それとお世話になってる海の家の店主さん」


「なるほど……これまた厄介そうだな」


 実際昼間にターゲットを確認できた先輩からはそんな感想が出る。

 既婚者ということを直接聞いたのか今回の件が不倫者予備軍への爆散だと理解した先輩はどうしたものかと頭を悩ませている。


の目もある。大胆には動けそうにないか」


「妃衣さんはあくまで爆散する相手たるかを確認するのが目的って言ってたんで、そもそも爆散刷ること決定って訳じゃないみたいですよ。その辺の話は直接聞いた方が分かりやすいと思いますが」


 俺もまだ詳しい内容は聞かされていない状況なのであくまで分かっていることだけを先輩に伝えた。 

 一旦話し合えることは話し終えたので後は妃衣さんから来るであろう招集命令を待つのみ。

 部外者が二人同じ部屋にいる状態でどうするのかは見当もつかないが。


「それにしても、俺たちの周りは色恋の話題に事欠かないな」


「ソウデスネ」


 あなたもその域に片足突っ込んでます……そう言いたくなった気持ちをぐっと堪えながら神奈先輩のセリフを思い出した俺は、想像以上の美味しさだったシュガーさんの焼きそばを頬張ると彼方を見つめるのだった。

 

 



 


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