第39話 恋と不安と疑念の種と
滋賀から福井へ抜ける道には
車酔いが激しい人にとっては厳しい曲り道が続き、例外なく妃衣さんもその対象になってしまったらしい。
目的地に到着するなりグロッキー突入の彼女と、着替える羽目になった俺は他の皆に先に海の家へと向かってもらい二人で宿の中にいた。
「すみません三永君。高校生にもなって他人にぶちまけてしまうとは……」
「気にしないで。車酔いは仕方ないよ。妃衣さんにこんな弱点があったのは意外だったけど」
布団に横たわり
見晴らしがよく海を一望できる和室にいるとは思えない苦い雰囲気に俺は思わず頬を掻く。
「まぁ皆も心配いらないって言ってたしゆっくり体力回復させていこうよ」
「すみません」
声で聴かなくとも失敗したと思っていることが感じ取れる妃衣さんの気を紛らわせようとするがどうやら上手くはいかなかったらしい。
俺のフォローにも謝って返す妃衣さんは申し訳なさそうに顔を背けるとそのまま目を閉じた。
「何か合宿には目的があったんだろうし、出鼻を挫かれたらいい気分はしないか」
「目的……気になりますか?」
眠りに入ったと思い漏らした独り言を聞かれる。
「体調戻ってからでいいよ。先輩とシュガーさんにも話さないとだろうし」
「いえ、タイミングもいいので今話しておこうと思います。体調に関しては横になっていればしんどくないので大丈夫です」
そうして俺の心配を他所において妃衣さんはこちらに向き直る。
やっぱり同好会設立のための合宿という目的の裏には何か思惑が隠されていたらしい。
「わざわざ県外で爆散するの?」
「今回は爆散とは少し違います。そう成り得る芽を先に断っておくかどうかを見極めるのが目的です」
妃衣さんにしては遠回しな言い方に俺は疑問を抱く。
爆散とは少し違うというのは分かるし、事前に馬鹿ップルになりそうな候補を叩くというのならそれもそれで妃衣さんらしいと言える。
ただその芽を先に叩くか見極めるのが目的というのは引っかかる。
それでは彼女のムカつくからという信念の前に行動してしまうことになるから。
「それは妃衣さんがムカつくと思ったからなのか、ムカつくと思いそうだからなのか……いずれにせよ妃衣さんらしくない言い回しだね」
「そう思われても仕方ないです。今回は特例、森中先生の頼み事ですから」
浮かんだ違和感に彼女は他者の介入があったと弁明する。
むしろ俺の中にもやもやとした気持ちが残る言い方をした妃衣さんはそれに補足し付け加える。
「三永君は、私がムカつく以外の動機で爆散を行おうとしていると疑念を抱いているんですね? そう捉えられても仕方が無いと思いますが私は爆散に私情以外は絶対に持ち込みません」
「じゃあ今回も気に入らないから、ターゲットが爆散するに足る人物か見極めるってこと?」
「そうですね……。今回はカップルとして成立してしまうと私たちでは手出しができないから…………すみません。やっぱり少し気持ち悪いので話のまとめは夜、二人が来てからでもよろしいですか」
「それはいいけど」
気になるところで止めた彼女を追い建てることは出来ない。
今度こそ眠りに着こうとする彼女は最後に今回のターゲットだけを伝えてきた。
「今回のターゲットは北川先生……と、海の家店主である先生の大学時代の先輩。店主は既婚者で森中先生の従姉妹…………。では、私は少し眠ります」
簡潔に伝えるべきことは伝えたと言わんばかりに背中を向ける妃衣さんは本格的に休息を取り始める。
妃衣さんから聞いた情報。彼女はこれで自分の言いたかった続きを当てて見せろと言いたいんだろう。
「ヒントというより答えな気もするけど」
ターゲットである北川先生。恐らく先生はもう一人のターゲットの店主さんと片方からなのか両方にか恋愛的な矢印が向いている。
店主の従姉妹でありカップル爆散同好会を知っている森中先生が妃衣さんにこの情報を伝えたのだとしたら、森中先生の中で怪しい段階で終わってるその関係を探ってほしいといった所だろうか。
「妃衣さんがムカついたって言うんなら不倫一歩手前……。両想いの線の方が硬いか」
「何が硬いって~~?」
「神奈先輩!?」
考え事をしていると意識の外からの介入に俺は思わず声を上げる。
驚いた声で眠りについた妃衣さんを起こしてしまわなかったのは幸いだが、何故宿に神奈先輩が。
時計を見てもまだ正午を少し回ったところで手伝いを終えるには早すぎる時間だ。
「どうして先輩がここに? まだ仕事中じゃ」
「二人が心配だから~~休憩の時間に見に来たんだよ~~。うち、後輩思いやから」
「そう、なんですか。ちょっと前に妃衣さんも眠ったので暫くしたら元気になると思いますよ」
「それは安心だね~~」
話の内容をどこから聞かれていたのか心配する俺とは裏腹に神奈先輩は質問を続けようとしない。
本当に俺たちの見舞いのためだけに来てくれたのだろう。
「ところでね~~、小陽君と
「何ですかいきなり……。小岩戸さんに関しては知り合いになったばっかりですが」
唐突に現れ相談事を持ち掛けようとする彼女は俺の表情の変化なんか気にも留めずまぁまぁと軽くあしらう。
そのまま妃衣さんが眠っていることを覗き込むようにして確認をした先輩は俺の耳元でこう囁いた。
「あのね。麗ちゃん、この合宿で小陽君に告白するつもりらしいんだよ~~」
入ってきた情報の多さに俺は一瞬固まる。
そして思考も纏まらない中、ただ妃衣さんに聞かれてなくてよかったとそう思った。
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