第35話 強制参加とは言わせない
「夏休み。カップル爆散同好会は隣の県、福井で合宿を行いたいと思います」
「何だって……?」
「ですから、福井で合宿です」
それは分かっているのだがと反論したい俺だったが流石に詳しい説明があるだろうと一旦妃衣さんの様子を窺う。
その間俺たち非公認同好会に合宿をする意図はあるのかと至極真っ当な疑問を投げかけたのは生徒会長小陽洋介。
何だろう。県外で爆散でもするのだろうか。
「今回わざわざ福井での合宿を提案したのにはちゃんと経緯があります。我々の存在を認知している数少ない教員の一人である生徒指導の森中先生から、最近目立ち気味で隠し通すのは難しそうだから二学期からは正式に同好会として認めたいと申し出がありました。それに際してこのままの名前で通すのも無理があるのでこの学校にはない風紀委員的な様式にしたいそうです」
「確かに……目立っては、いるのか? 生徒会内でも話題に挙がったことはあったが……。それと合宿に何の因果関係があるんだ妃衣」
俺の疑問を先立って解決しようとしてくれる小陽先輩。
妃衣さんと森中先生が言いたいことも分からないでもないが、わざわざ夏休みに合宿なんてしなくても二学期に入ってからでもいいだろう。
「先輩も知っての通り同好会といっても正式な手続きには活動実績が必要なので誤魔化そうとしても二学期からでは時間がかかってしまいます。ですから夏休みにボランティアを行うことでその活動実績を無理やりクリアさせるんです」
「つまり福井にはボランティアに行って……合宿っていうのもそれっぽい活動内容にするための建前って感じ?」
「その通りです」
妃衣さんの補足に俺も付け加えて確認を取る。
どうやらこの校内非公認団体は晴れて本物の同好会へと昇華できるらしい。
「なる……ほど。急な話だが生徒指導も絡んできているのなら断りずらいな。俺も生徒会との予定を調整し直さないとな」
「それに関しても、生徒会から先輩のほかに二名ほど参加するようなので問題ないかと」
「俺の知らないうちに話が進んでいる……」
毎度のことながら話が早く進みすぎて困惑する暇もない。
生徒会長でありながら役員に通達されていた予定を知りえなかった小陽先輩はポカンとしていて可哀そうだが、以外か以外シュガーさんはどこか楽しげな様子だ。
「皆難しく考えすぎよ。合宿……なんて
「佐藤さんの言う通り。折角の夏休みだからちょっとしたバカンスとでも思ってもらって。ボランティアと言っても先生の知り合いの海の家の手伝いで、海を横目にとてもいい合宿になると思います」
女性陣は嫌にノリノリだがそんなお祭り気分で終わらないと思うのは俺だけなんだろうか。
まぁ元々早海と行くかもしれなかったから、それが学校関与の慈善事業に変わったとでも思えば気は楽か。
「断れそうにないし断る理由もないから別にいいんだけど、具体的にはいつから何日くらい滞在するんだ? 合宿と銘打つからには泊りなんだろうし」
「良い質問です。それも今から説明しようと思ってましたが出発は7月30日から。滞在期間は三日です」
それはまた随分急な、と言えないほどに埋まっていない俺の夏の予定が寂しい。
正直お盆の里帰り以外はオールフリーなので問題がない。高校一年生の夏という観点では予定の無さが大問題かもしれないが。
「流石に皆さんにも予定もあるでしょうし強制参加とは言いません。出来る限り参加はしてほしいですが、もしも参加してくださるなら私か同好会のグループチャットで教えてください」
「事前に生徒会のメンバーに声がかかってるってことは俺はほぼ強制だろ」
「それはその通りです。諦めてください」
生徒会長として致し方なしと納得する小陽先輩。
シュガーさんも依然乗り気なので俺だけ参加しませんとは言いづらい空気だ。
「コバルトブルーが私を待っている」
「海につられすぎじゃない!?」
一学期の間でこの中だと見た目に反して最も理性のある子だと思っていたシュガーさんも我を忘れて目を輝かせる。
冷静になろう。俺にはあの妃衣花火が画策無しにこんな大それた企画を持ってくるはずがないと思うのだが。
この場で唯一未だ疑いの目を残している俺に対して、予想通りと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた妃衣さんは最後の追い打ちをかける。
「ちなみにですが、追加で参加される生徒会の二人は小岩戸さんに会計の
この人こんな脅し方も出来るのか。
改めて言葉にされると情景が浮かんできてちょっと楽しそうだと思ってしまう。
そして確信する。
この合宿には妃衣さんなりの何かが隠されていると。
見え見えに、強引に俺の思考を合宿へと引っ張っていこうとしているところからも、返事を待つ彼女の表情からもそれがひしひしと伝わってくる。
伝わってくるが特別予定が埋まっているわけではないのだから仕方がない。
妃衣さんが何か隠していそうな事には目を瞑ろう。
生徒会長を外堀から丸め込み、シュガーさんを海でつり、俺には他責も含めた色仕掛け。
妃衣花火、恐るべし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます