カップル爆散同好会ですがなにか

第34話 一学期最終日

 高校入学から二度目となる定期テストを終えると校内の雰囲気は目前に迫ったへの高揚感に染められていく。

 各々おのおのが一学期の出来事でも思い返す時間とも捉えられる長ったるい校長の話が始まればいよいよといった所だろう。


「え~。皆さん、夏休みだからと言って羽目を外しすぎないように。9月にまた皆さんの元気な顔をこの場で見られることを楽しみにしています」


 学園代表の挨拶は西上せいじょう高校だからといった特別感などはなく締め括られる。 

 諸注意を語る強面生徒指導の熱弁も聞けば夏の熱気も帯びた体育館は静けさを増していった。


「それにしても校長先生の話は高校になっても長いんだな。中学の時よりはましだったけど」


「俺らの中学は合コンの失敗談とか語られてたし例外だろ」


 1年2組へと向かう廊下の最中で、高校より前の記憶も掘り出しながら文句を垂れるのは早海はやみ

 学生なら待ち望まぬものなどいないであろう大型連休を明日から迎える俺たちも例外なく少し浮かれていた。


「俺は部活とかあって日にち限られるけど……どうする? 去年みたくまた海でも行くか。ほら、福井の海水浴」


 早くも夏休みの予定の提案をしてくる早海。

 所属している野球部は夏休みでも結構なハードスケジュールだと耳にしたが、昨年俺と早海とその他数人の友人で行った海水浴の誘いを申し込まれる。

 部活に所属している訳ではない俺にとっては本来断る理由のなかった誘いだが現段階では承諾することは出来ない。


「あ~、もしかすると夏休み暫く滋賀から離れるから今は返事できないな。海行きたいけど」


「家族旅行かなんかか?」


 具体性のない返答に早海は具体的な質問で返す。

 答えはNOなのだがこの用事とは俺が所属している非認可同好会、カップル爆散同好会での予定のため都合の良い勘違いを肯定する。

 そう、それは今朝唐突に送られてきた。

『終業式が終わった後夏休みの予定について大事な共有事項があります。なるべく部室へ出席してもらえると助かります。』

 メールで伝えてこないところからも直感的に面倒事と悟った俺だったが、妃衣さんからの招集を拒否できるわけもないので早海には悪いが海水浴の予定はこの緊急会議の後にしかわからないということだ。


「……夏休みにも爆散するとか言い出さないよな」


「何か言ったか?」


「いや別に」


 嫌な予感に小言が漏れた俺に追及してくる手をさっと払う。

 そうこうする内に教室へと辿り着き、それぞれ着席をすれば一学期最後のホームルームも終了した。


「俺はこのあと野球部のミーティングがあるから。夏休み一日ぐらいは開けとけよ未来」


「一日開けてもお前のために使うかは俺次第だけどな」


 慣れた軽口の言い合いをすると早海は小走りに教室を出ていく。

 それと変わるように教室に入ってきた眼帯姿の少女は別クラスとはいえ1年2組に入る回数の多さから周りからもあまり違和感を持たれていない。


「シュガーちゃん三永君のお迎え?」


「眷属……なんだっけ?」


 ここ最近シュガーさんと呼び続けながら昼食を共にしていたせいか、クラス内での彼女は少しだけ有名人となっている。

 俺のことを眷属と言っているところも面白がられ今ではこんな感じにいじられるようにもなってしまった。


「呼応するざわめき。夏が来るのね……」


 相変わらずのシュガーさんの受け答えにクラスの連中も満足げだが、俺はとても居た堪れない気持ちなので彼女を連れて足早に教室を離れた。

 背中から在らぬ噂をかける声も聞こえるが聞こえぬふりをして事前に通達されていた生徒会室。の中の裏通路へと向かう。


「急な連絡だったけど何の話だろう……シュガーさんはどう思う」


「ああいう書き出しの時は予想外の有事のことが多い。爆散ではないのかも」


 俺よりも妃衣さんを知っているであろうシュガーさんは彼女の呼び出しにそんな見解を持っているらしい。

 予想外の有事とかいう爆散より厄介事の匂いが漂ってきているのは気のせいだと信じたい。

 手慣れた手つきで生徒会室への不法侵入を果たした俺とシュガーさんはそのまま互いに雑談でも挟みながら部室への狭い道を歩く。

 俺たちが教室を出る前に気づけば教室からいなくなっていた妃衣さんが恐らく先に入っていつもの姿に変身しているのだろう。


「まぁ厄介事なんて今に始まったことじゃないしな」


 一学期を思い返し、自分に出来た穴を埋めるようにしてきた毎日が俺に謎の自信と諦めをもたらす。

 なるようになるだろうと甘い考えのまま部室に入った俺の目に入ってきたのは夏休み同好会大合宿と描かれた張り紙。

 一瞬思ったより楽しそうだと思った俺は妃衣さんの手のひらの上だったのだろう。

 妃衣さんのあのしたり顔は何か裏があるときだから。

 



 


 



 

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