第30話 Xを追って
同好会でのストーカー事件二度目の会議の翌日。
さっそく俺はクラス内で関わっていても違和感を持たれないほどには関係を進展させたシュガーさんの手伝いをしていた。
手伝いと言っても誰でもできる学内順位上位者の書き出しと、対象者への彼女の鮮やかな質問攻めを眺めているだけなのだが。
「第一の試練を上位で突破しその名を轟かせた雛鳥たち……。貴方達はその地位に満足しているのかしら」
「えっと、彼女は中間テストは成績上位だったけど実際のところ自分の順位には満足しているのかと聞いてます」
時刻は15時50分、放課後。
方針が決まった昨日から今日が訪れる間に持ち前のどうやっているのか分からない連絡網で中間テストの順位上位者とのアポを取り付けたシュガーさん。
昼休みに10位の男性に聞き込みに行ったところ彼女の言葉が全く理解されず短い時間を無駄にしてしまった失敗から今は通訳を引き受けている。
現在は4,5,6,7位の方が一斉に集まっているということでこの四人に裏事情を隠してインタビューをしている。
「十分満足しているさ。一位を目指したかったとかそういう感じ? 二位の君はまぁ悔しいかもだけど僕は別にそんなにかな」
「私も。自分の勉強の成果ですし」
真っ先に答えてくれたのは4位君と5位さん。
四人ともクラスが違うため正直誰だかわからないという失礼極まれりな状況だが気にしてどうこうなる話でもないので心の中で謝る。ごめんなさい。
続くように自分の意見を述べてくれた他二人もシュガーさんの煽りにはノーで答える。
「そう。私も過去の記録には固執しない。次を
物の数分で成績上位者+64位の会は解散された。
今回も昼休み同様収穫はないらしい。
「嘘はついてなさそうだったし、こっちの仮説は外れか……」
「本命の一位がまだだからそう悲観的なるには早すぎるわ」
早くも自分の仮説の立証が危ぶまれ怖気ずく俺に激励の言葉をかけるシュガーさん。
彼女の前を見る目は見習わないとな。
「確か一位の人ってここ二日は風邪で休んでるんだっけ」
「そうね。私と同じ5組ね」
シュガーさんが言った本命という言葉には、俺の仮説に補足して日にちは足りないにしろ彼がいない間は小岩戸さんへの被害がなかったという事実から来るものもある。
正直朝方この事実を知った時は皆一位の彼への疑いを強めた。
「話が聞けない以上推測の域は出ないから今日はもう妃衣さんと会長の結果待ちかな」
そうして調査から帰宅へと行動をチェンジしようとする俺にタイミングよくスマホは鳴る。
『情報共有。
成績上位者(20位まで)の中に特別小岩戸麗と接点のあるものはなし。
小岩戸麗を生徒会に推薦したのは1年3組の担任。
小岩戸麗と親しくしているのは同クラスの女性一人。ただ成績はお世辞にも良いとは言えない。
要約:進展はあまり見られない』
「妃衣さんのLINE見た? 妃衣さんの方も
「それなら尚更一位の疑いが強まるだけ。何もなかったと知れたことは大きな手掛かりよ」
見慣れたかしこまった文字列への見解を語るシュガーさん。
そのまま流れるように帰路に立った直ぐ後に会長から知らされたのも実質進展はなかったという事実だけだった。
メールで短く目ぼしい人はいなかったとだけ伝えてきた会長に俺は自分の推察の破綻を感じ始める。
それと同時に昨日思い浮かんだもう一つの仮説への疑いが強まった。
「……昨日みんなには隠してたこと。要点だけ伝えるよ」
「それは逃げではないかしら? まだ全部を探り切ったわけではない。これしきで音を上げるなんて私の眷属として許さないわ」
漏れ出た弱音に似た何かにシュガーさんは反論する。
その
「逃げた……わけじゃない。ただ、今のLINEで当たってほしくないって言った説が少しだけ現実味を帯びた」
「…………」
俺の弁明を聞いて少し眉を直した彼女は気を紛らわすように自身の前髪を弄る仕草で少しだけ考え黙る。
そしてもう一度俺の目を捕えると質問を返してくる。
「貴方の想像する結論では誰かが嫌な思いをするの?」
熟考された彼女の質問に俺は本心で答える。
「小岩戸さんは良くは思わないと思う。妃衣さんとシュガーさんも、一考の余地ありかな。俺は……当たってたらちょっと自分が嫌になりそう。会長は…………」
俺はそこで押し黙る。
会長はどう思うのだろう。いや何を思ったのだろうか。
こうやって核心に触れないことこそシュガーさん言う逃げなのかもしれない。
シュガーさんもここで黙れば俺が考えている仮説の一端に感付いてしまうだろう。
俺の最後の仮説とはこのストーカー事件を根本から否定するような内容で、小陽洋介を疑うという蛮行そのものだった。
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