第29話 滲んだ見えた動機
四人揃った爆散同好会部室。
俺たちはそれぞれXについての見解を語った。
「結局Xは誰だったのやら。俺もかなり注意して周りの生徒を見てたつもりだったけど怪しい人物すらいなかったしな」
顎に指をやり悩み顔の会長は生徒会室でも話されたこの一週間の成果の無さを嘆く。
小岩戸さんに被害が出ていないことは喜ばしい事ではあるが、一切の手掛かりがなかったのは不自然だ。
「そのことについて以前シュガーさんとも話したんですけど、もしかしたらXは中間テストが終わった先週の段階で目的を果たしたのかも。だから今週はその陰すら見えなかった」
「テスト期間にストーカー行為……。妨害目的とかか?」
「それもあると思います。他には理由は分かりませんが6月までストーキングする意味があったとかですかね」
三永家リビングでの会話。Xの目的の推察を俺は妃衣さんと会長に説明する。
それを聞いて一理あるという反応の二人。
妃衣さんが情報整理で証拠を集めて犯人を追い詰めるスタイルなのに対して、俺は出ている情報からあり得る動機を推測して情報収集にかかる正に対局のやり方だ。
「俺が考えられたXがストーカー行為に及んだ動機ですが、大きく分けて3つ。一つが会長も仰った妨害行為。現に入試トップの小岩戸さんは中間テストで順位を二つ落としています。彼女は気にしてなさそうでしたが、それが目的なら例えば一年生中間テストの上位者は候補に挙がります」
「そんなに順位に拘るもの?」
具体的な数を示すことで後の言及から逃れようとする俺の意思など無視して俺の見解に別角度の疑問を返す妃衣さん。
拘っていた生徒があなたの目の前にいるんだからあんまりチクチクしないでほしい。
「人によるんじゃないか。俺も生徒会長って立場的に悪い順位は取れないなってくらいには意識するし」
「生徒会に入って忙しくなったところをあわよくばって考えの人はいても不思議じゃないだろ?」
俺と会長の程度は違えど順位に拘ったコンビの説明によって妃衣さんは納得する。
もう一人の順位気にしない派のシュガーさんとは事前に話していたおかげかラグは生じなかった。
俺は軽く咳払いだけすると再び話し始める。
「それで二つ目は生徒会へのアピール。会長がさっき言ったみたいに本人は気にしてなくとも推薦した先生方は少しは小岩戸麗の学内での世間体というのは気にするはずです。入試主席というのが生徒会に入れたきっかけではあるでしょうし。これに関しては一つ目の妨害目的で挙げられる候補も含めて、他には上級生も候補に挙がります。これまで成績優秀でも席が無く入ることが叶わなかった生徒にも彼女が
「確かに西高の生徒会に入るのは結構厳しいが、そんなことでどうにかなる問題でもないぞ」
「それに関しては選考の基準が分からない生徒側なら思い至る可能性はあると思いますよ。馬鹿だなとは思いますが」
今度は妃衣さんが賛同し会長へ説得をする。
これもシュガーさんと話した時からあまり変わらなかった答えの一つだが彼女も同意するように首を動かす。
「以前私と話した内容の完成版ね。私も大方同意。やっぱり実行時期が肝と考えているのね?」
「そうだな。これは三つ目のその他……というか単純に小岩戸さんへの行き過ぎた恋愛感情での執着という説を否定するためでもあるんだけど、最もシンプルなそれが動機ならこの一週間音沙汰がなかったりするのはおかしい」
「確かにストーカー行為が始まったタイミングと急に終わったこの時期に類似性はあるから何の理由も無いとは考えずらいわね」
俺とシュガーさんの説明に妃衣さんと会長は同意する。
あくまで予想に尽きなかった犯人像も不幸中の幸いか犯行がピタリと止んだことによって現実味を帯びてきた。
今話せる仮説はこの三つ。
俺は前の二つの説に当てはまるXの候補を絞っていく方向に舵を切ろうとする。
「フューチャー。まだ貴方が先刻語った違和感の話を聞いていないわ」
意図的に仮説を一つ隠そうとしている俺を見逃すまいとシュガーさんはその眼帯越しの瞳で俺を見る。
生徒会室で小岩戸さんの地雷を踏み抜いてしまった発言を覚えていたらしい。
「確かXの正体を考えるうえで見逃していることでしたっけ? 今の段階ではあって当然だと思いますが、あくまで推測ですし」
「そうだな。それに三永の仮説もかなり的を得ていて問題ないと思うぞ」
俺が隠し事をしているのを知ってか知らずかフォローに入る妃衣さんと会長。
少し無理やり話を次の段階に持っていこうとしていた俺の意図のままに今後の方針についての話に乗ろうとする二人。
対照的にシュガーさんは俺から視線を外そうとしない。
「貴方が心を
「影響を受けていないと言ったら嘘になるけど……。話さないのは俺自身もこの仮説は当たってほしくないと思ってるからかな。前述した説が見当違いだった時まで俺の中で留めておきたい」
「理解したわ。それで納得してあげる」
言葉を終えてもなお視線を外さずいたシュガーさんは俺が嘘をついてはいないことを見抜くと前に向き直った。
人に鋭い鋭い言ってくるが俺からしたらあなた達の方がよっぽど鋭いと思う。
「まぁ私は三永君に今回の件は預けると言っていますし三永君の方針に任せます。まるで私のやり方が悪いみたいな言い方は釈然としませんが」
思わぬ飛び火を喰らった妃衣さんもシュガーさんの言及で明かされた俺の隠し事には触れようとしない。
会長も普段通り
過去の生徒会志願者でその望みが叶わなかっと者の洗い出しを会長に、妃衣さんには小岩戸さん周辺の人間関係の情報収集、シュガーさんには連絡網を駆使してこの中間テストの順位に拘っている様子が見受けられたものがいないかの調査を頼んだ。
そうして俺たちは正体不明のXの姿を収めるべく各自行動を開始するのだった。
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