第28話 状況は変化し現状維持し

 生徒会での顔合わせから一週間と数日。

 会長は付きっ切りでないにしろ存在感を出していたおかげか小岩戸さんへのストーカー被害は一度たりとも起こらなかったという。

 会議と息巻いて事態の収拾に取り掛かろうとしていた俺にとっては少し拍子抜けする結果となっていた。


「結局あれから何もなかったんですね」


「私が気づいていないだけかもしれませんが、前のように視線を感じることもなくなりましたし」


 俺たち同好会メンバー四人は経過報告のため再び正規のルートで生徒会室にいる。

 もちろん被害者である小岩戸さんも同席しているわけだが彼女から直接被害が収まったと聞かされてしまってはこれ以上調査を続ける必要性があるのかどうかも分からない。


「何個かメモの中で気になった点は確認したんだけど……、例えば日直の件とか。1年3組の担任に確認した感じそれは担任の先生がやってたらしい」


「そうですか」


「引き続き会長は気に留めてもらうのは変わらないとしても、犯人探しに興味がないなら特段これ以上何か出来るでもないんだよね」


 報告、と言うには少なすぎる情報共有を終えた俺たちの出した結論は疑似的な事態の収束。

 つまりなし崩し的な現状維持だ。


「でもこのまま終わっても再び被害を受ける可能性もあります。今の状態は被害を抑えているともXに逃げられた状態とも言えます」


 わざとらしく視線を合わせないまま喋る妃衣さんの言うことも一理ある。 

 もしもXの動機が小岩戸さんの成績悪化なら中間テストが終わったこのタイミングで逃げの選択を取っても何ら疑問はない。

 むしろここで油断させて次の期末テストに照準を絞ってくる可能性だってある。


「何か盛大な勘違いをしている気すらするんだよな」


「私の気のせいだとでも?」


 考えながら考えなしに出てしまった俺の妄言に小岩戸さんはこれまでで最も怪訝けげんな表情で睨む。

 会長に聞いた話だと生徒会室での騒動の原因の一端は同じ生徒会メンバーが彼女の話に対して気のせいだろと半信半疑の姿勢を取ったことが原因らしい。

 無意識に地雷を踏んでしまった俺はすかさず謝罪すると訂正する。


「ごめん、そういうつもりで言ったんじゃないんだよ。勘違いっていうのは俺のXが誰かという推察の部分で、Xの正体を考えるとき何か見逃していることがある気がしたから言っちゃったんだ。気に障ること言ってすみなせん」


「いえ、そういうことなら。私も不愛想な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした」


 俺は自分で創り出してしまった張りつめた空気が緩んでいくのに同調して息を吐く。

 話が通じるとはなんといい事だろうか。彼女の人のさに感謝する。


「フューチャーの懸念点は分からないけど、Xの捜査を打ち切りにするのはどうかと思うわ。これで終わったという確証もないわけだし」


「そうだな。ただ事実として被害は止まったから急ぎすぎないでおこう。今後も生徒会の仲間として俺は気にかけておくから。小岩戸もそれでいいか?」


「私は構わないです。むしろ初対面でここまで協力してくださってありがとうございました」


 俺の考えと同じ考えかXの捜査の続行を提案したシュガーさん。

 それに同意しつつもあくまで現状維持を打診する会長の意見に教室の空気は賛同した。

 一旦表面上休止を迎えたストーカー被害への協力に会長を除いた俺たち同好会メンバー三人は、会長の知り合いではなくカップル爆散同好会としてどう動くか話し合うために部室へと向かった。


 「三永君はこの後もXを追いたそうな顔をしてますね」


「まぁな。顔突っ込んでおいて正体を見ないままはい終了ってのも気持ち悪いし。それにシュガーさんも言ってたけどこれで終わった確証もないからね」


 部室へ着くなり俺の核心を突いてくるサングラスモード妃衣さんに俺は答える。

 形態の変化が多くいつもより髪のまとめ方などは雑に思えるが女子の手入れ事情は首を突っ込まない方がいいと学んだことがあるのであえて触れはしない。


「ただ、爆散でもないし同好会としての活動とも言えないから今後は俺の自己満足だ。無理に付き合わせる気はないんだけど」


「フューチャー、このままでは眠りにつけないのは私も同じ。貴方が進軍するのなら私はそれに手を貸すのみ。何故なら貴方はこの私の眷属なのだから」


 遠回しに協力の続行を伝えるシュガーさん。

 眼帯に隠れていない方の瞳も心無しかいつもよりやる気に満ちているように見える。


「私もこそこそ続行するなら今後はこっちの姿でも関与できるから、生徒会の手伝いとしてよりも三永君の駒としての方が幾分か動きやすいわ。それと個人的に三永君がどういった結論を出すのか気になりますし」


 期待というよりも面白さを帯びた表情に俺は少し顔を引きつらせる。

 何故そんなに俺を試したいのかは知らないし、またも妃衣さんに乗せられているようで癪だが俺としても乗り掛かった舟を降りる選択肢はない。

 

「あと、俺の自己満足という表現をするなら普段の爆散も私の自己満足ですよ? それでも三永君たちは参加する。それはあなたにも思うところがあるから。つまりはそういうことです」


「それもそうだな。じゃあ引き続きよろしく頼むよ」


 巻き込んでしまうという俺の懸念をフォローする妃衣さん。

 流石は同好会のリーダーといったメンタルケアだ。

 そうして俺たちは同好会として自己満足に浸るためにXの調査を続けることを決定する。

 遅れてやってきた会長にも事の顛末を説明し同意を貰うと俺は再び思考を始めるのだった。

 



 

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