第27話 赤面する放課後

 俺は家に帰る電車の中で先程までの話をまとめて、考える。

 方向が同じシュガーさんも同じ電車に乗車しているため彼女にも見える形で会長が書いていたメモの写真をスマホに映し出す。


「ストーカー被害に気づき始めたのは最近で、それこそ中間テストのテスト週間。思い返せば生徒会に入った時点であった気もする、か」


「Xの動機がそこにあると考えているの?」


「今の情報で出せる仮説はそれぐらいしかないしね」


 俺の推察に大方同意を示すシュガーさん。

 現状は手掛かりが無さ過ぎてXが誰かを特定するのは極めて困難だが、仮説でも候補を絞っておこうとするのは大事だろう。」


「ストーカーの目的……。シンプルに小岩戸さんへの過度な恋愛感情ってこともあるだろうけど、何か違う気がするんだよな」


「同感ね。タイミングなども考慮すると以外とおかしな点は多いわ」


 思考を続ける俺たちは夢中になりすぎたせいか電車内の視線を集める。

 まぁ公共機関でストーカーの話をする高校男女がいたら気になるか。


「シュガーさん、電車でこれ以上この話すのはやめておこう。知らない人たちからの冷線が痛い」


「私はそんなもの気にならないけど、そうね。大衆へ知れ渡ることは避けるべきだわ」


 そう言いわざとらしく距離を少し開けた俺を許さぬように彼女は距離を保ったまま俺に囁く。


「話と方針をまとめておきたい。今回はフレイの力は制限がかかっているから私たちの限界を試すとき。可能ならばフューチャーの作戦室での続行を希望」


「それって俺ん家で会議の続きしたいってこと?」


 思ってもみなかった提案に俺は少し戸惑う。

 女子を自室に入れたことはあるがこうしてフリーな身となった今改めて面と向かって言われると来るものがある。

 まぁシュガーさんはそんなこと気にせず本当に会議の続きを望んでいるんだろうから俺もよこしまな気持ちは抱かないようにしよう。


「…………」


「問題、ないと……思うけど……」


 シュガーさんといえど花の女子高生。無意識ではないらしい。

 少し照れた様子のシュガーさんに流石に俺も無反応ではいられなかったがこれはあくまで作戦会議。

 邪な気持ちなど一切ない。

 そうしてあまり会話を続けないまま流れに乗るように俺の家の前までたどり着いた俺たちは三永家玄関前で立ち止まる。


「多分母と妹がいるけど、気にしないで」


「分かったわ」


 起こるとは思ってもみなかったベタな突発的ラブコメイベントの開始の合図に俺は扉を開けた。


「ただいま」


 そうしてちょっかいをかけられぬよう最低限の挨拶で済ませた俺は自室へ向かおうとする。


「おかえり未来。あらその子は?」


 捕まった。


「あぁ……委員会一緒の一年生で、文化祭のことで宿題みたいなの出されたから家でやろうかって話になって」


「一学期から文化祭のことって随分と準備がいいのね」


「準備なんてすればするだけいいだろ……」


 俺の咄嗟の穴だらけの嘘を母は見逃す。

 何か察したような眼をしているが断じてやましいことはない。


「何? 騒がしくして。お兄の友だt!? なるほど……」


 こちらも何か察した風の妹、未空みくは降りてきていた階段を戻って自室へ消えていく。

 周りが気まずくなるような雰囲気を出すのはやめていただきたい。


「なんか変な勘違いしてそうだから逆にリビングで会議するか。みんな基本自分の部屋にいるから聞かれることもないだろうし」


「承知」


 俺の自室へは行かず一階リビングへと案内した俺はお茶だけ用意するとテーブルに着いた。

 しばらく家の家具などを見るように辺りを見渡して緊張をほぐしているようだったシュガーさんも直ぐに適応して俺との会話を開始する。


「Xの足跡を辿るには犯行の時期が重要になってくる。箱舟で話していた内容の続きね。私は小岩戸氏が生徒会に入ったというところがターニングポイントな気がする」


「俺も同じだな。一年で生徒会に入れるのは実力的な側面もあるがそもそも枠が限られている。例えば生徒会に憧れていた一年生、入れなかった上級生の逆恨みという可能性もあるな」


 公共の場からプライベートな空間となったことで俺たちは気兼ねなくストーカー事件についての互いの考えを述べていく。

 リビングがプライベート空間と呼べるのかは一考の余地はありそうだがそんなことはこの際気にしてられない。


「Xが俺たちの罠に嵌ってくれたら話が進展できるけどそう簡単にもいかないだろうし……」


「日直。過去の書に記されてあった日直の仕事が勝手に終わっていたというの。フューチャーは関係あるかわからないと言っていたけど調べてみる意味はあるかも」


「確かに手掛かりが少ない以上潰せる眼は潰しといたほうがいいかもな」


 お茶を人啜すすりすると俺は今まで出た話を頭の中で整理する。

 Xの特徴として小岩戸さんに対して現状心情的ストレス以外の肉体的被害だったりは出る見込みすら見えないというところがある。

 それはストーカというよりもまるで厄介なファンみたいな感じで、悪気がないようにすら思えてしまう。

 だとするならXの目的、メリットはあるのだろうか。


「……これは憶測の域を出ないけど、今回の定期テスト。小岩戸さんは三位で結果だけ見れば入試主席の彼女は順位を落としていることになる。それによって得をしたと思える存在はいるかもな」


「中間トップが怪しいと言いたいの?」


「例えばだよ」


 俺は当てつけにも程がある仮説を吐き出す。

 だが、現時点で俺に推察できるのはここら辺が限界だろう。

 俺たちは日直の件の調査だけすることを決め、後は一旦釣りの方の成果待ちということにした。

 二つほど視線を感じたまま家を出てシュガーさんを最寄り駅まで見送ると俺はヒソヒソ話の聞こえる自宅へと引き返す。

 ……その後一週間。小岩戸さんにストーカー被害が及ぶことは一切なかった。

 











 







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