第26話 入試トップの被害女性

 俺たち同好会メンバー四人は小岩戸麗こいわとれいストーカー事件の真相を探るべく被害者のいる教室、生徒会室を目指していた。

 無論今回は中に人がいるためいつもの抜け道は使えず正面から正々堂々と入るわけだが。


「そういえばちゃんと生徒会室に入るのは初めてだな」


 不法な侵入でしか中を拝むことのなかった俺はマジマジとは見てこなかった生徒会室の扉を見てそんなことを思う。

 他の扉よりも少し新しく綺麗に見えるのは手入れが行き届いている証拠だろう。


「じゃあ入るが、くれぐれも同好会の話は出さないようにな」


「「分かりました」」


 俺と妃衣さんは会長の念押しに首を縦に振る。シュガーさんの無言は同意の合図だ。

 会長が念を押した理由は、今から会う人物にはカップル爆散同好会という怪しすぎる名前の組織が存在していることは知られておらず、そこで一悶着起きると話がややこしくらるからだそうだ。

 俺もそう思う。


「小岩戸待たせたな。さっき言ったこういった事に少々強い人物たちを連れて来たぞ。さぁ入って」


「1年2組の三永未来です。左にいるのが同じクラスの妃衣花火。右が5組の佐藤姫華です。話の概要は会長さんから聞いてます。お力になれれば幸いです」


 俺と会長は脚本通りに会話を展開する。

 ここに来るまでにある程度作戦会議をしてきた。 

 その中でも問題になったのが同好会のことを明かさないのなら俺たち三人は一体どこの誰なのかというところ。

 会長の知り合いですで済むなら話は早かったが、噂になることを恐れて先生や警察とは関わりたくない小岩戸さんが納得するとは思えない。

 ともかく妃衣さんには裏を取られて怪しまれないようたまやの姿を封印してもらい、事前にここに来るまでにいつもの妃衣花火に戻ってもらった。

 部室では三度手間だと少しなげいていたがこればっかりは仕方がない。


「女性の方々の名前は今日掲示板で見ました。確か佐藤さんは学年二位とかなり頭が良かった記憶があります」


 それなら話が早いと俺は案内されるままに席に座る。

 いろいろ考えた結果、確かな証拠として賢さを武器にできる二人が会長の知り合いということにして話を進める予定だった。


「真ん中のあなたは……すみません存じ上げないのですが」


 クラスが違うから仕方ない、あと64位だから仕方ない。

 おおむね好調の滑り出しだ。

 会長曰く一番の難所はここで、そもそも協力に応じなければそこまでだからだ。


「小陽会長の人選理由がよく分かりません。私はあまり人に言いふらしてほしくはなかったのですが……」


「この三人を俺が推薦したのは以前俺が三年の男子生徒の他校間のトラブルを解決した件があったと思うがその時にも少しばかり協力をあおいでいたからだ。 元々知り合いで問題ごとの解決に向いているからと頼ってみたら小岩戸も知っている通り事が悪化する前に生徒指導にまで話を持って行けた。戦果としては十分だろ?」


「なるほど」


 会長は竿だけの件をかなり脚色して俺たちの実績として語る。

 嘘が苦手なのか顔が引きつっている下手な愛想笑いになっているが小岩戸さんは考え会長の方を見ていないので問題ないだろう。


「そうですね、実績があるということは理解しました。それと解決を求めている立場で少々失礼な態度でした、申し訳ございません。小陽会長の推薦ということであればきっと言いふらされたりも無いでしょうしご厚意を受け取ります」


「それは、良かった」


 一安心といったように会長は伸ばしていた背筋を少し崩す。

 俺も生徒会室にあった張りつめたような空気が和らいでいくのを感じて安心する。

 今回は脇役に徹するつもりの妃衣さんの方を一度確認すると自分で先導して会議を進める様子はないので俺は漸く話の本題へと切り出した。


「ではさっそく。まず小岩戸さんは今回の件、分かりやすくストーカ事件としてこの事件のを望んでいると会長に聞いたんですが小岩戸さんが考える事件の解決とはなんですか?」


 俺は被害女性に対してゴールの設定を行ってもらえるよう質問する。

 普段の心情度外視、カップルの破局がゴールの爆散とは違い明確な目標がないのでこれは最優先事項だろう。

 セリフが敬語交じりになっているのは妃衣さんの影響かもしれない。


「ストーカー事件ですか……そうですね。私は正直犯人が誰だとかを知りたいわけではありません。むしろ知りたくないまであります。ですので私の言う解決とは私に対するそういった行為が無くなるといったことになります」


 一瞬戸惑いながらも要点をまとめて質問を返す彼女からは優等生が滲んで見えていて入学二か月で生徒会の椅子を勝ち取ったのにも納得がいく。

 確か今回の中間テストはシュガーさんに次ぐ学年三位。

 入学式の入学制代表挨拶を務めていたので入試はトップ通過と優等生街道まっしぐらな彼女も含め何とも成績優秀者で固められた空間だ。


「では、犯人の動機などにも興味はないんですか?」


「フューチャー、犯人という呼び方は抽象的。Xえっくすとしましょう」


「じゃあそれで」


 いつもターゲットを別称で呼んでいる名残なごりかシュガーさんは手で顔を隠すポーズで犯人をXと呼ぶことを決定する。

 俺たち四人は慣れているがそこに合理性はあるのかというように疑念視する小岩戸さんはやはり優等生だと思う。

 考えて今それに言及することの意味の無さを悟ってか彼女は俺の質問に対して軽く同意を示すと俺は話を続けた。


「俺たちも会長に話を聞いた後少し考えたがやっぱり犯人の手掛かりは少ない。だから当面は情報の整理と、そのための釣りが必要だと思う」


「釣りですか?」


「そうですね。小岩戸さんがXの正体に興味はなくともやっぱり根本を叩くのが効果的です。少なくとも俺たちは正体を知る必要があると思っています。小岩戸さんへの配慮が足りていないことは重々承知ですがXを見つける最も単純な方法は現行犯で確保することです」


 俺は被害女性を前に効率だけを重視した作戦の立案を試みる。

 自分でも非情で軽薄だと思うが小岩戸さんの性格上回りくどいやり方よりも結果優先の方がいいのではないのかというのが俺の考えだ。


「私をおとりにするということですね。分かりました一先ず請け負います」


「ありがとうございます。その間生徒会で一緒になる事も多いでしょうし会長が護衛役を担ってください」


「任された」


 想像してたよりあっさりと俺の提案を受け入れた小岩戸さんは会長にも護衛よろしくと一礼する。

 こうして俺たちは最後に連絡用のグループを作ると生徒会を後にした。


 

  



 




 

 


 

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