第25話 盲目なプライド

 会長は机の上に書き殴ったメモを置くと生徒会室で聞いた後輩のトラブルについて語りだす。

 

「まず。妃衣が聞いた生徒会室での荒事だがあれは相談をしてきてくれた後輩への対応が至らなかったから起こったことで、今回のトラブルとは直接関与していない」


 妃衣さんの疑問を解消しつつ本件と関係のない事を即座に排除する。

 流石は生徒会長という進行力だ。

 話を聞く限り会長、あるいは生徒会のメンバーに何かしらのトラブルの相談をした方はその対応に納得がいかず激昂した。その声が妃衣さんの聞いた騒がしさということろう。


「そして本題なんだが。今回相談をしてきてくれたのは生徒会1年、1年3組小岩戸麗こいわとれい。彼女から聞いた話は端的に言うとストーカー被害についてだ」


「ストーカーですか」


 開幕異性間のトラブルと聞いていたためある程度想定出来ていたがストーカーか。

 俺は机にあるメモを再び確認するとそこには小岩戸さんから聞いたであろう被害の内容が書かれている。

 

「校内で最近視線を感じる、特に花摘みなどの一人の時。学校に忘れた教科書が自宅の郵便箱に入っていた。中間テストの順位が張り出されるより前の朝のうちに自分の教科書に紙に書いた状態で挟んであった、しかもあっている……」


「メモを見る限りはストーカーと言われればそんな感じもしますね」


 メモの内容から気になった点を声に出した妃衣さんに続いて俺も状況の理解にかかる。

 他に書かれている内容もいかにもといった内容が多いがところどころ変なものも交じっている。


「この、日直の仕事がいつの間にか終わっていたとかは誰かが善意でやったことかもだからストーカー被害と関与あるかが疑問だけど……会長が聞いたのはこれが全部ですか」


「彼女が俺たちに話してくれたのはこれで全部だな」


 俺は告げられたすべての情報を精査してそこで行き止まる。

 この内容だけでは誰が行っているのかを断定するのは難しい。

 本校だけでも各学年300人以上で計900人以上の生徒がいる。つまり男子生徒は単純計算でもその半分の450人はいるわけで、ストーカーという行為だけなら言葉にしずらいが男性教諭でも可能で更に候補は増す。


「学校内で視線を感じるって言ってるから犯人は西高内の人物だとは思いますが……男性で絞っても結構な数がいますね」


「フューチャーそれは早計よ。今までの話を聞く限りでは女性も犯人候補に入るわ」


 しばし静寂を貫いていたシュガーさんの言葉を受け俺はハッとする。

 ストーカーと聞いて勝手に異性間でのトラブルという思考に陥っていたので盲点だった。


「と、するなら更に難しいな。会長は小岩戸さんから犯人の心当たりとか聞いてたりしませんか」


「残念ながら彼女も全く心当たりはないらしい。彼女も犯人が男だと思っていたから女性なら話は別かもしれないが」


 メモに書かれた内容が全部と聞いた時点で分かっていたことだがいよいよ俺たちで対処できる問題なのか分からなくなってきた。

 爆散とは違っても会長からの頼みということで妃衣さんも頭を悩ましている。


「先輩。小岩戸さんがどうしても気になるというなら先生や、それこそ警察に相談する方が先決では」


「俺たちもそう言ったんだが……。それが彼女と揉めた理由でもあるが、彼女は大事にはしたくないらしくてな。万が一にも噂が広がって将来の進路に影響が出ることを危惧しているらしい。説得に応じる感じではなかったな」


 いかにもといった思考だ。

 会長も相談者の意思を尊重して内内で解決することを望んだのだろう。

 だが大事にしたくないとなれば手当たり次第に聞きこむことも叶わなそうだし、厄介だ。


「聞き込みとかも大っぴらには出来ないってことですよね」


「そうだな。ある程度は仕方ないとは思うが」


 俺の質問に会長は困り顔で答える。

 生徒会室での一悶着を考えれば俺に浮かんだ案なども出たうえで却下されたのだろう。

 妃衣さんは再三メモを手に取り確認している。

 そして俺たちの会話が止まると彼女は俺の方にメモを渡してから声を上げる。


「今回の件は私の得意分野ではないですね。私は事実をひたすら抑えて詰めていくタイプなので、その情報収集作業に枷がつくとなると解決は困難かと」


「だよな……」


 期待していた返答が来ず下を向く会長。

 だが妃衣さんの話はまだ終わらない。


「ですが先輩がわざわざ私たちに相談してきてくれたのにバツで返すのは同好会メンバーとして好ましくありません。ですので今回の件は三永君主導で進めていきたいのですが三永君、どう思いますか?」


 先輩が来るまでの会話がなければ俺はこの言葉を丸投げされたとだけ感じ取っていただろう。

 シュガーさんは妃衣さんが俺を試していると言っていて、それが何のためかは知らないが今俺の名前を挙げたのもそういうことなんだろう。

 俺を見る妃衣さんの視線からは白旗は見れず俺に解決しろと、むしろ俺なら解決できると訴えかけているようだ。


「俺も会長が困っているなら力になりたいと思う。正直いつもの爆散みたく順序良くことを進められる自身は微塵みじんもないが妃衣さんの苦手な内容ってことも理解できる。だから引き受けるけどみんなちゃんと俺を助けてくれよ」


「もちろん」


「肯定」


「すまんな三永」


 三人とも俺の心配に被せるように同意の意思を謳える。

 妃衣さんのあの目は卑怯だ。

 拒否を許さない、それを考慮していないあの目に何度も支配されてる気がする。


「オペレーターの変更。作戦Σの発令ね」


 シュガーさんもいつになくテンションがあがった様子で眼帯を触る。

 承諾した理由が同じ同好会メンバーを助ける以外に、俺のプライドも含まれているということは妃衣さんには見透かされてそうなので口にはしないでおこう。





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