第24話 最下位だからなんだ

 放課後を迎えた俺は同好会の部室を目指す。

 爆散の予定がない日でも名目上同好会ではあるので部屋に集まって世間話や情報共有を行うのだ。

 変装に時間を要する妃衣ひごろもさんと生徒会の仕事がある会長は来れない日もあったりするが、招集がかかった日以外でも結構集まりは良かったりする。


「322人中の64位。全然悪い方だとは思わないけど」


「順位が問題なんじゃなくて早海に負けたことが問題なんだよ」


 現在部屋にいるのは会長を除いた三名。

 俺とシュガーさんより少し遅れて登場した妃衣さんは部屋に着くなり昼休みの会話を蒸し返す。

 会話に入ってこなくても同クラスなら内容が聞こえていても不思議じゃない。

 不思議じゃないからあまり触れてほしくはなかったが。


「そういう妃衣さんは順位表は見に行ってなかったと思うけどやっぱり興味ない感じなの?」


「順位とかには興味ないけど、一応さっき来る前に確認しましたよ」


 シュガーさん同様順位に執着心はなさそうなのが表情からうかがえる。

 俺は怖いもの見たさに彼女にも順位を尋ねることにした。


「ちなみに何位だったの」


「15位でしたね。もう少し低いと思っていたので以外ではありました」


「15位…………」


 この時、三永未来のカップル爆散同好会一年生メンバー最阿保が確定した。

 中学時代は文武両道と自分を謳っていたものだが何事にも上には上がいるものなんだな。

 勝ち誇ることも特別視することもなく淡々と結果だけ語った彼女は次の瞬間には終わったことと話を続けない。

 俺の周り無意識系賢い人多くない?


「あとは会長だけ……」


「三年生と比べても意味ないのでは?」


 ボソッと放った一言にも的確に突っ込まれる。

 席の配置的には俺から一番遠いはずなのに何て地獄耳だ。

 正論を撃ち込まれた俺はツッコミ役を認定してきた相手に突っ込まれ余計にダメージを負う。

 その間シュガーさんは一切興味のない素振りで茶菓子を食べていた。


「会長と言えば。ここに来る前に生徒会室を覗いたんですがなにやらいつになく騒がしかったんですよね。何かあったのかも」


 俺の独り言から記憶を辿る妃衣さん。

 ようやく終わった敗北感からの解放に喜ぶのも束の間、始めった新たな話題で部屋は染まっていった。


「生徒会……。この小世界を収める者達」


「確かに会長来るの遅いしな。普通に生徒会で会議してただけかもだけど」


 舞い降りた新たな話題にシュガーさんも食べていたクッキーを飲み込んで興味あり気な様子だ。

 普段も今日くらい遅れて来るのは珍しいことではないのだが、妃衣さんは何かが引っかかるようだ。


「三永君、どう思いますか?」


「どう思うも、分かるわけないよ。会長が来た時にでも確認すればいいだろ」


「だから64位何ですよ」


 え? 今の会話で俺のテスト順位が弄られる要素あった?

 受け身な感情のことを64位と称すのはやめてほしい。

 妃衣さんの一言に昼休み屈辱を思い出したかのように顔をしかめる俺だったが、早海の顔も思い出し妃衣さんとも軽口を言いあえる仲になったのかと無理やり前向きな思考に至る。

 この三人の中で最下位だからなんだ。64位万歳だ。


「でも実際本人に確認取らないと分からなくないか? 妃衣さんの推測もまだ情報量が少なすぎるでしょ」


「それはそうですけどね」


 それはそうだと思ってはいるらしい。

 だとするとあれはどんな無茶ぶりだったのか。

 ジト目で妃衣さんを見つめる俺に向けて今度はシュガーさんが語り掛ける。


「フレイはあなたの勘の良さを試したのよ。あなたの才を見出すことも、フレイの役目の一つ」


 左腕に巻かれた包帯をプラプラさせながらシュガーさんは決め顔でそう言う。

 段々俺の扱いが雑になってきている気もするがこれも仲が深まった証拠だ、きっとそうだ。


「会長が来る前に真相を覗くというのも一興……」


「ん? 俺がどうかしたのか」


 シュガーさんが立場を口にするとタイミングよく表れたのはその生徒会長である小陽洋介こはるようすけ先輩。

 特段普段と変わったようには見えない会長は部屋に入るなり自席で茶をたしなみ始める。


「真相を覗くとか言ってたけど、何かあったのか」


 お茶を啜り落ち着いた声で話す会長。 

 どうも何か問題があったようには見えない。


「何かあったのか聞きたかったのは私たちの方なんです。先程生徒会室の前を通ったときやけに煩くしていたように思いましたから」


「あぁ~~あれ聞こえてたのか」


 思い当たる節があったのか一つ手を叩き肯定した会長はそのままお茶を飲み干してその時のことを話した。


「新生徒会役員の子。一年生なんだけどな、なにやらトラブルに巻き込まれてるっぽくて」


「トラブルですか?」


「そのこともちょっと相談しようと思ってたんだ。生徒会の中の問題ではあるが同じ一年生のお前たちの方が解決に持って行ってくれると思ってな」

 

 一年生の俺たちも5月の頭にどこかしらの委員会に所属することが義務付けられている。

 ちなみに俺は早海に強引に入れさせられた文化祭実行委員だ。

 一年生の頭から生徒会に入れるのは入試などの成績優秀者でほとんど先生の推薦だけだと聞く。

 優秀だからこそ何かと目を付けられやすかったりするのだろうか。

 俺は話を聞く前に部屋にいる二人の女子生徒を見てそんなことを思う。


「爆散とは少し違うが異性関係のトラブルではあるんだよ」


そうして会長は自分のポケットからその生徒に聞いたメモ的なものを取り出す。

それと同時に一緒にポケットに入れていたであろう紙切れが床に落ちる。


「会長、何か落としましたよ」


「あぁすまんな」


 落ちた紙を拾い上げ俺は会長へと返す。

 その時見えたのは318人中7位という文字。

 …………最下位だからなんだ。




 


 

 

 


 

 

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