見守り見られるということを……

第23話 何か今までで一番屈辱的だよ

 三永未来みえみらいは6月が嫌いだ。

 俺が特段この月を嫌っているのは梅雨だからという安直な思考からなるもので、雨でジメジメした鬱陶しい空気がどうも合わない。

 そしてそんな6月である本日、俺は一枚の紙切れによって更に気分を害されるのだった。


「322人中……64位」


 一年生の8クラスが並ぶ西上せいじょう高校三階廊下中央にはこの間行われた中間テストの一年生上位100名の名前が書かれた順位表が張り出されており、そこには俺の名前も書かれている。

 5月の最終週にかけて行われた中間テストの結果は既に貰っていた。

 カップルを爆散していましたという言い訳にならない言い訳は置いといて、遅れてテスト対策に望んでいる自覚のあった俺は短期間に詰め込む形で勉強を行った。

 シュガーさんのアドバイスも貰いのぞんだテストは正直勉強量の割には上出来だった、と思っていた。

 

「未来が64位~? まさか中学で俺とは比べるまでもなく賢かったお前より高い順位になれるとは何が起きるかわからないな」


 昼休みの開始と同時に張り出された順位表を突いてくる形で確認しに来た早海はやみ

 そう、俺の気分が害された原因はこいつである。


「27位……。こそ勉してたのか…………」


「てっきり未来なら10番代には入ってると思ってたけど。まさかまさかだな」


 俺の悔しがる表情にニタついた嘲笑で返す早海。

 クソ。西高に入学するギリギリのラインだったくせに初回で27位だと。部活もあったくせに。解せない。


「まぁそう悔しがるなよ。珍しく忙しそうにしてたし仕方ないって」


 散々コケにしといて今更慰めか?

 俺個人としては64位という順位に満足はしてなくとも納得はしていた。

 こいつが予想以上の躍進さえみせなければ……。

 

「二人とも……昼餉ひるげの時。時間は有限よ」


 しかめっ面が取れない俺を呼びに来たのは別クラスのシュガーさん。

 俺と俺を笑う二人にやれやれといった様子の彼女とは勉強を教えてもらった際に流れで昼飯を一緒に食べる関係となっていた。

 持っている弁当箱は女子生徒といった感じの少し小さめに見えるものだがそこはかとなくお家の良さが出ている。


「そうだな……。過去の結果になんて価値はない。さっさと昼飯を食べるとしよう」


 そうして順位表に背中を見せようとしてふと気になった。

 そういえば成績優秀を謳われているシュガーさんの順位はどれほどなのだろうか。

 下から見た時には名前はなかったので俺よりは順位が上なのは確定している。


「うぇぇ~~。佐藤さん学年二位!? 凄くね」

 

 今度は逆に順位表を上から見てみれば一瞬で佐藤姫華さとうひめかの文字は見つかり、早海が叫んだのもほとんど同時だった。


「シュガーさんも爆散に参加してたのに……何だこの差は……」


「フューチャーの言う通りそれは過去の私の記録に過ぎない。そんなものに価値なんてないわ」


 同じセリフを言ったはずなのにこうも格好よさが異なるとは。

 本当に何とも思っていない様子のシュガーさんに俺は再度心が折れる音を聞く。

 俺の中でいつ面となりつつあるこの三人の中で俺が一番馬鹿だったなんて。


「良いことあったら余計に腹減ってきたよ。さっさと飯にしようぜ」


 これまた同じセリフのはずなのに心象は正反対だ。

 一人だけモヤモヤを抱いたまま1年2組に戻った俺たちは各自の弁当箱を鞄から取り出すと昼食へとありついた。

 その間横目に見た妃衣さんは自席を立った形跡はなく順位表を見に行ってなかったことが伺える。

 思えば彼女も順位など気にしそうにないな。

 どうか会長だけは立場を気にして学年順位に執着するような人物であってほしい。


「ほうした未来。まら気にしてんおか」


「口に食べ物入れたまましゃべるな。こんな阿保面あほづらより順位が下だったと思いたくないから」


「やっはり……やっぱり、気にしてんじゃん」


 自分のプライドのため会長に呪いをかける俺に早海は突っかかる。

 お前こそいつまでも上機嫌で煽ってくるのをやめてほしい。


「過去を気にしすぎて現在いまを見失っては本末転倒。次回は私がもっと教授するから問題ない」


 裏表のないフォローをしてくれるシュガーさん。

 そんな彼女は無言でお手製のカツサンドを渡してくる。

 ありがちだが気持ちがこもっていて嬉しい願掛けだ。


「だな。終わったことだし」


 湧きあがった悔しさに折り合いを付けようとする俺にシュガーさんもそれでいいと二三頷く。

 そして彼女から貰ったエールを口にする。

 

「このカツサンド相当旨いな……」


「それはそうよ。私が創造したのだから」


 思わず本当に悔しさを忘れて感想が出る。

 褒められたシュガーさんはさも当然の如く振舞っている。


「マジか。俺も一口欲しかったぜ」


 ドヤ顔で誇り顔のシュガーさん。

 同じ同好会メンバーで勉強できて料理も出来て俺より優秀。

 俺は密かに期末テストへの闘志を燃やすのだった。

 









 

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