第21話 俺たちの爆散

 生徒会室を出て屋上へと向かった俺たち5人はどこから入手したのかわからない屋上扉の鍵を使って屋上に入るとその時を待った。

 暫くしてターゲットであるカップルが一緒に登場。

 そこから数分経って最後の役者も揃った。


「全員揃いましたし始めましょうか」


 それぞれ違う理由で呼び出しを喰らっている三人に隙を与えないように妃衣さんがこの場の主導権を握る。

 疑う暇も貰えないまま始まった爆散は察しの悪い黒幕のセリフから続いた。


「何か知らない人いんだけど、誰これ。一年と……生徒会長? 聞いてた話と違うんだけど橘ちゃん。説明してくんない」


「えっと……」


「それは私から。初めましての方は初めまして、たまやと申します。今回お集まり頂いたのは皆さんの中の薄汚い隠し事を開示させてそこの馬鹿ップルを爆散させるためです」


 いつになく上機嫌に質問を制する妃衣さん。

 登場は二回目の偽名も駆使しているが今回は制服のため嘘だとすぐにばれそうだがいいのだろうか。


「は? 意味わかんないんだけど」


 自分のペースで話し続ける妃衣さんに黒幕さんはお怒りの様子だ。

 彼女は2年1組の大林久美おおばやしくみ

 妃衣さん曰く勘違いビッチをそそのかしたグループのリーダー的存在のようだ。


「あんた確か……昨日図書室に来た」


 睨み合う二人をよそに勘違いビッチは俺の存在を認知する。

 釘を刺しておいた相手が翌日こうもノコノコと姿を現したのだ。黒幕程とはいかなくても彼氏の前とは思えない権幕を披露している。


「昨日ぶりですね先輩」


「首突っ込むなって言わなかったっけ?」


 これから行われることに気づいてしまったのか、勘違いビッチは何か言い切れぬ様態でその場に立ちすくむ。

 始まって早々雰囲気は最悪だ。


「ちょっと僕だけ置いてけぼりかい? サプライズって聞いてたんだけど」


 自分の思い人の張りつめた空気に耐えかねたのか彼氏である残念眼鏡のとうとう語りだす。 

 こうして主演全員がセリフを吐いたのを確認すると予定通りといった具合に妃衣さんは黒幕から目を逸らす。


「心配は無用です霧島尚弥きりしまなおやさん。これからあなたがされた仕打ち、あなた達の関係に対する真実を語りたいと思います」


「それって……」


 この中で唯一本当に心当たりがないであろう彼は名前を知られていた事も含めて謎だらけのこの状況に困惑する。

 ここまで言葉にされてようやく自分たちのした胸糞悪い悪行をバラされると知った黒幕は熟考するそぶりだけ見せ直ぐに高笑いを始めた。


「何だそういうこと? 告白が罰ゲームだったってこと言ってなかったんだもんね。罪な女だねぇ桃園ちゃんも。あんた達が誰だか知んないけど別に言いふらされてもどうともねぇよ。ほら言ってやりなよ桃園ちゃん、ほら」


 煽るように顎を揺らす黒幕は煽ってるのはお前だぞと妃衣さんに目線だけ向け笑う。

 先輩からの予想以上の煽りを受けた妃衣さんはというとそんなことには目もくれず勘違いビッチの反応に目をやる。

 残念だが彼女は微塵もあなたに興味がないのだ。


「知佳ちゃん。罰ゲームって何……?」


「…………」


 何も呑み込めていない残念眼鏡は自身の彼女に確認を取る。

 返答が帰ってくることはなく、静寂と高笑いとが交差し夕空には一筋の涙が流れた。


「どうして否定しないんだい……。やっぱりあの告白は嘘だったのかい……」


 放心状態の残念眼鏡。それでも何かを話すでもない勘違いビッチ。笑いを抑えない黒幕。

 分かっていたことだが主犯格だけいい思いをしているこの現状はとても胸糞悪い。

 他人の気持ちを弄ぶだけの外道は誰かに糾弾されることもなく上機嫌のまま。

 傑作だと自分の演出したシナリオを評価し屋上にその笑いを響かせる。


「随分と品のない笑い方ですこと。地獄の管理者でももっとましな笑みを零していたというのに」


「は? 何言ってんだテメェ」


 混沌を切り裂いたのはシュガーさん。

 突如首を噛まれた黒幕は標的を帰るかのように挑発者に向き直る。


「あまりはしたない姿を衆目に晒すのはどうかと思うわ」


 そう言った彼女に続くかのように屋上階段から何人かの生徒が顔を出す。

 どこから聞こえていたのか声を大にして自分の悪行を語っていた彼女に軽蔑の目が向けられる。

 このギャラリーは流石に予定外だったが顔をしかめる黒幕。

 俺の行動は予想内でもこれを仕向けたシュガーさんの独断は想定外だったのか妃衣さんも驚いた顔を見せている。


「まさか佐藤さんがこれを仕組むなんて。三永君の影響かな」


「私は私の天命を全うしたのみ」


 いつもの構文も忘れて左眼の眼帯を弄りながら少し得意げな彼女に妃衣さんもそれ以上の追及はしなかった。

 俺たち同好会の規約ではカップル以外、今回の黒幕のような人をどうにかすることは出来ない。

 だが他人の影響、例えば占い師の噂につられた野球部なんかがたまたま現れて当人同士で勝手に暴露し暴露されされあうのは知った話ではない。

 今朝の間に俺がシュガーさんに話して、シュガーさんが橘先輩に伝えた秘密の鉄槌は上から目線で高笑いを決め込んでいた彼女を馬鹿ップルと同じ地べたまで叩き落した。

 

「ちなみに、この後のことも考えているんですか?」


「まさか。妃衣さんみたいに他人の考えや思考を操れるほど人間観察に秀でてないよ俺たちは」


 自分の気持ちエゴを通して場に更なる混乱を招いた俺は後は任せたと無責任に両の手を挙げる。

 やれやれと聞こえてくるような溜息一つを吐いた彼女は再び馬鹿ップルの方を見つめ爆散を始める。


「言い逃れは出来ません。見せてはないですがあなたと大林久美が裏で話している証拠も持っています。ですが、私の友人の気持ちを汲んでそれは出さないこととします。自分の口で決着をつけてください」


 前回の全て妃衣さん自身で関係をぶち壊した手法とは違い彼女はあくまで自己解決をうながす。

 周りの目線。彼氏の目元に観念したように勘違いビッチは既に詳細を話すまでもない事の真相を語りだす。

 黙々と、彼女の友人が吐露した脅されていたという言い訳を使わずに。


「そんなのって……あんまりだ…………」


 ギャラリーはいてもただただむせび泣く彼を慰める存在は居ない。

 それも盲目に疑わずに桃園知佳への好意で正当化させていた関係の末路なんだろう。

 勘違いビッチが最後に隠した理由と気持ちをを知る権利はこの男にはないのだと俺は思ってしまった。


「騙していてごめんなさい。別れましょう」


 言葉にされたそれは勘違いビッチと残念眼鏡の関係の終わりを告げる。

 全てが終わりその場に残されたのは俺とシュガーさん、桃園知佳。そして全てを見届けた彼女の友人だけだった。

 

 


 



 

 

 

 



 

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