第18話 長い一日の終わり

 占い師、もとい橘先輩との話し合いを終えた俺たちはそれぞれ帰路に立つ。

 方向が違ったり用事があったりで何だかんだ現在電車を待つのは俺と隣に座るシュガーさんのみとなった。


「シュガーさんは今回の件どう思う?」


 おもむろに浮かんだセリフだったが空を舞う。

 妃衣さんは黒幕に対してアクションを起こすことはないし俺もそのつもりはない。

 ただ他のメンバーも彼女ほど爆散だけに向き合えるものなのかシンプルに気になった。


「どう思うって、無慈悲な支配者がいたということかしら? フレイなら意図せずとも傀儡を超えてその心臓を貫けるわ。今までだってそうだったから」


 シュガーさんが妃衣ひごろもさんにかける期待はどこか諦めの色が見え、心無しかそう言った彼女瞳はいつもの輝きを少しだけ失っているようにも思えた。

 俺としてもこうも他に黒幕がいる状態というのはモヤモヤするところもあるが、それがあっても今回の爆散を止めたり変更しようとは思わない。


「まぁ……俺たちは俺たちなりの理由で爆散すればいいんじゃないかな」


 こんなことを妃衣さんに聞かれれば口を尖らせそうだが、全員が悪意だけで動かなくてもいいじゃないかと思う。

 どちらかと言えば俺も俺は振られたのに何だこいつらというとんでもない八つ当たりの怒りが原動力となっているところがあるが、一人くらい善意の押し付けで爆散するメンバーがいてもいいんじゃないか。


「心配は感謝するわ。でも、私もそんなにぬるい気持ちで彼女の隣にいるわけではないわ」


「!?」


 妃衣さんとも重なるその自信に俺はたじろぐ。

 あの会議中幾度か曇った眼を見せていたシュガーさんに俺は勝手に辛い思いもあるのではないかと勘繰かんぐっていた。

 これまでの活動がどうだったかは分からないが、今回のような明確な犯人を無視して自己中心的に責任をカップルだけに押し付けるというのは思うところがあってもおかしくはない。

 隣にいるシュガーさんとの距離は遠く、何をもって自分のエゴを貫く強さとしているのかは分からないが俺は彼女の確かな覚悟を感じた。


「箱舟の到来ね……。私の限界も近づいている…………」


 いつも通りで話を再開した彼女に俺も余計な心配を忘れて電車を待つ。

 タイミングよくポーズをとる彼女に合わせるように電車は動きを止める。

 光を反射させながら開く扉に吸い込まれるように足を動かすと俺たちは空いている席に横並んだ。


「先程の話。フューチャーはどう思っているの」


 電車に揺られて間もなく至極真っ当な逆質問が飛んでくる。

 今日一日でかなり彼女に踏み入った質問をしたので、そろそろ俺の番にならなければ一方的過ぎてむしろ関係が悪化してしまう恐れがある。


「俺も黒幕はいけ好かない奴だと思ってる。でも俺たち同好会にとってはそれはそれ、これはこれって感じで切り離すべきだと思っているから。今回のターゲットはそれ抜きにでも爆散してしかるべきだと思う」


「そう」


 同調しても何が変わるわけでもないが俺は自分の意見を述べる。

 その後の俺たちは適度な世間話と爆散に関する話を繰り返して互いの最寄り駅までの区間を繋いでいた。

 その間シュガーさんが中学時代は校内トップの成績の保持者だったという衝撃のカミングアウトも聞いた。

 会長が言っていた自分よりも頼りになるというのはあながち間違ってはいないのかもしれない。


「じゃあ俺駅ここだから。また明日……は会うかわからないど」


「えぇ……。きたるべき時、涙の流れる夕空の下で再開しましょう」


 去り際にそんなこと話残した彼女に頼むから電車ではもう少し抑えてほしいと願いながらホームを後にする。

 初めて共に下校したあの日よりも確実に近づいた仲に感慨深さを感じながら俺は夕日の下を歩きだした。


「今までだってそうだった……か」


 一人になった俺はもう一度電車を待つ間のあの空気間を思い出す。

 俺の知らない二人の関係とは何なのか。


「今度会長にでも聞いてみるか」


 三人の中で一番話してくれそうな生徒会長の姿を思い浮かべてそんなことを呟く。

 

「俺にとっての爆散……」


 私怨全開とはいえ今回はムカつくという理由があって爆散に出向く。

 ただもしそれが無くなれば。それが変わってしまえば。三永未来みえみらいは何をもって爆散を遂行するのか。

 そんな疑問が巡る。

 それはきっとカップル爆散同好会をもっと知ることで何か見えてくるのではないだろうか。

 俺はそんな他責で自分を見つめない怠惰を抱いたまま自宅へと到着するのだった。


「ただいま」


「おかえりなさい、随分と遅かったのね」


 こんな典型的な日常会話が久しく思えたのも、今日の長さの証明だろう。

 

「最近いろいろあってね」


 自分の母に対してどっちつかずの回答だけで部屋へと向かった俺はそのままベッドに横たわると聞こえる音も静かになっていくのを感じた。



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