第17話 戻れど地獄、進めど地獄

 生徒会室へ出戻る通路は四人で通るには少し手狭く感じる。

 ここの暗い道も何度か通ったが未だにこの不気味さに慣れる見込みは見えない。


「正直妃衣さん的にはどれくらい推察が当たってると思ってるの?」


 俺は目的地までの時間稼ぎにそんな質問をする。


「そうだね……個人的に結構いい線言ってると思ってるけど言質を取るまでは何とも言えないかな。予想通り出会ってくれた方が動きやすいからありがたいはありがたいんだけどね」


 あくまで推察だと押し切っているが俺の目に映る彼女は自信に満ちている。

 他の二人も妃衣ひごろもさんを疑う様子はない。


「もう着くわ。まずは先輩から入ってください」


「了解」


 先輩の背中を追うよう目的の場所に降り立った俺たちが辺りを見渡すとそこにはまだ来客の姿は見えない。


「少し早かったか……。いや、そもそも勝手には入らないか」


 基本無断でどこかに侵入するということが増えていた俺は自分の考えの変化を改める。普通は無許可で立ち入ったりはしないのだ。


「外の様子を見てくるから、みんなは適当に椅子に掛けといてくれ」


 そう言って背中を向ける会長が生徒会室の扉に手を伸ばす。

 廊下を暫く眺めた会長は目的の人を見つけたらしく軽く手招きすると中に見知らぬ来客が訪れた。


「手紙、呼んでくれてありがとうございます。ここに来たということはあなたが占い師さんでお間違いないですね?」


「その通りです……」


 いつの間に会長の特等席で足を組んでいた妃衣さんは怯えた様子の彼女を迎え入れる。

 最も、その圧の出し方は逆効果だとは思うが。


「2年4組、橘哀歌たちばなあいかです。手紙の内容……秘密をばらすというのは私が占い師だと言いふらすということですか?」


 手紙の内容はやはりというか脅迫じみたものだったか。怯える彼女で薄々感じてはいたが面識のない人にでも容赦はないらしい。


「貴方の正体を言いふらしたりなんかしませんよ。でも、あなたのご友人の悪評なら流してしまうかもしれません」


 妃衣さんは自身の考えが真実の如くカマをかける。

 そのセリフに心当たりがあったのかビクッと肩を揺らした制服姿の占い師さんは、図書室で見た時より心なしか小さく見える。


「友人……ですか……」


「あなたを問い詰めたいわけじゃないんです。あなたは友人である桃園知佳ももぞのちかさんに頼まれていただけなんでしょう?」


「それは…………」


 あくまで言葉を濁す橘さんに対してその反応から確信を掴んだのか更に勢いを増す妃衣さん。

 室内でサングラスをかけるお決まりのルーティーンも済ませると再び彼女への尋問を開始した。


「そんなに怖がらないで下さい。全部男性をだまして交際を申し込み、人の気持ちを踏み遊んだ桃園さんの責任です。そんな彼女が多少悪いうわさを流されようと自業自得でしょう」


「知佳も脅されてやっただけで!」


 思わず声に出してしまったのだろう。咄嗟に口を覆ってはいるが時すでに遅し。

 知りたかった最後のピースを見つけたようにあの不敵な微笑みを見せつける妃衣さんは先輩への無礼を謝罪する。


「すみません、高圧的な態度で迫ってしまって。ある程度予想はついていましたがあの告白を罰ゲームという解釈で測るのは間違いだったようですね」


 妃衣さんの言葉に観念したのかその後先輩は事の発端を赤裸々に語りだした。


「元々知佳はあのグループに断れ切れず入っていた状態でした。それも図書委員という彼女の立場があれば自由に図書室を使えるというためだけに仲間に数えられているだけ。私がもっと強く縁を切るように説得できていればこんなことにはならなかったかもしれないのに」


「放課後の図書室は無人ではなかったのでどうやって図書準備室にあなたを誘ったのか疑問でしたが……図書委員の友人なら一緒に鍵を開けて入り込んでも何ら疑問に思われないですね」


「告白も強制的にさせられて……。知佳もすぐに振ってしまう予定だったみたいだけど思っているよりも本気な彼氏さんに罪悪感が芽生えたみたいで」


 告白は罰ゲームではなかったがおおむね妃衣さんの推理は当たっていた。

 それを聞いたシュガーさんの眉が動いたような気もするが彼女は何かを発することはない。

 友人を庇うように説明を続けているが俺たちは黒幕を探すためでも成敗するためでもなく、馬鹿ップルである彼女たちを爆散させるためだけにここにいるのだ。


「例え始まりに彼女の非が無くても私たちは彼女たちを別れさせます」


「それはどうして? 生徒会的にもこういうことは見過ごせないからですか? 私としても円満に分かれてくれるならそれで……」


 俺たち側の動機はムカつくからなのだが流石にそこまで言葉通りには伝えることは出来ない。

 それを一番理解している妃衣さんは理由の部分を隠しながら話を終着点へと向かわせる。


「残念ながら円満に、というのは厳しいかもしれないです。私たちは彼女たちを救い出すために行動している訳ではないですから、必要とあれば、彼氏側にこの告白は全部演技だったと伝えて両方にダメージがいく形で終わらせます」


「それは……」


 俺たち四人ともがそうするつもりだと気づいたのだろう。

 彼女がそれ以上何かを語ることはなかった。

 これも生徒会長を表立てた脅迫のようなものだが先輩としても否定はできないだろう。

 ここで反乱しても遅いか早いかの違いで勘違いビッチの悪評は流れてしまうのだから。


「なるべく長引かないように即刻決着をつけるつもりです。橘さんにも協力してほしいです」


「私は何をすれば……」


 意気消沈したようにただその言葉を呑み込む。

 俺たちの活動方針では例え黒幕に嫌悪感を持っても行動には移せない。

 だから先輩が黒幕への復習に期待していても、それに応えてあげることは出来ないのだ。

 どちらも踊らされて生まれたカップル。

 そんな勘違いで残念なカップルをとむらえるのは純粋な悪である妃衣花火だけなんだろう。 

 俺は部外者として他人の関係を引き裂くことの意味も覚悟も、もっと理解すべきだとそう感じた。

 

 


 

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