第16話 秘密の占い師

 会議も佳境に入ると妃衣さんは占い師の噂と今日の俺とシュガーさんの行動の説明を始めた。

 どうやら占い師の噂が流れ始めたのもつい最近のことで、それも特に二年生を中心に回っていたらしい。


「初耳だったが占い師というのがいることは分かった。だがその人が今回の件とどう関わってくるんだ?」


「それも順に追っていって説明としたいと思っています」


「妙な言い回しだな」


「私もまだ全部把握できているわけではないので」


 俺が気になっていたところまで戻った議題は、妃衣さんの含みのある言い方にて疑惑をさらに加速させる。

 

「まず今回ターゲットと件の占い師には接点があると考えています。それを紐解いていくには占い師の目的を知らなければいけません」


「占い師の目的?」


「目的、動機。行動理念など言い方は何でもいいですが突然占いをやり始めた理由です」


 確かに言われてみれば謎ではあった。

 俺たちですらカップルに対してムカつくというものではあれど動機はある。

 占い師の動機がただ占いがしたかっただけなら中間テストも近づく今のタイミングから始めるというのも、姿を隠しながらやっているというのも頷けない。


「……シュガーさんが占い師の居場所を知っていた理由…………とか」


「流石、鋭いですね」


 俺は今日の出来事また一から思い返した。

 恐らく言い方的にシュガーさん本人が居場所を当てたのではなく、その心当たりがある人に連絡を取ったのだろう。

 どうやって連絡を取ったのかなんてもう今更気にしない。

 大事なのは聞いた人が何故占い師が図書室にいると知っていたのかだ。


「本来占い師の占いは不特定多数に向けたものではなく、暗号か何かで伝えた一部の人に向けたものだったとか?」


「私も似た考えです。補足をするなら条件を満たす者を釣りだすためですね。実際今日は三永君含めて三人で訪ねましたが、誰でもいいといった様子だったでしょう」


 妃衣さんの言う通り占い師は俺たち三人の誰かを占うといった。

 それは見方を変えれば誰でもいいという解釈もできるわけか。

 だとしてもまだ占い師の目的はすけ来ない。


「ここからは私の推測にすぎませんが、占い師が釣ろうとしていたのは残念眼鏡です。二年生を中心に噂が回り始めたのはターゲットが二年生の中だったから。佐藤さんに連絡を取ってもらったのも二年生の生徒で、その人も二年生のクラスが並ぶ二階で暗号……というには稚拙な文面を拾ったそうです」


「ターゲットが二年生の生徒だったとして、それだけで残念眼鏡に焦点を絞るのは飛躍しすぎじゃないか」


 同じ疑問を持ったまま聞き入っていた俺の代わりに会長が割り込む。

 二年生だけでも生徒は300人近くはいて一人に絞り込むには無理がある。


「ですからこれは私の推察です。占い師が出始めたのは勘違いビッチが告白をした5日後で約二週間前です。承諾される気のなかった告白が成功してしまい、向こうからは気があると知った彼女は今更罰ゲームだったと言い出しづらくなったのでしょう。だから間接的、もしくは残念眼鏡本人から別れを切り出してもらえるように仕向ける方向に舵を取った」


 彼女の考察は筋が通ている部分もある。予想だったとしてもとても納得できる内容だが決めつけるにはまだ足りない。

 だから俺はいつものように自身に満ちた笑みで俺の目を跳ね返す彼女の瞳を信じて押し黙る。


「時に今日三永君たちを導いた暗号が稚拙だったと言いましたが、佐藤さん。あなたが今日連絡を取った相手はどなたでしたか」


「残念眼鏡ね。あと、その名は捨てたと、」


「私が佐藤さんから聞いた内容は誰が見ても図書室だと一発で分かるもの。ではなぜそんなものが残念眼鏡の手に渡っていたのか。それは首謀者が事を急いたからね」


「事を急いた?」


 シュガーさんの構文を切り裂き彼女は続ける。

 シュガーさんの連絡を取ったのがターゲットの一人というのは驚きだったが、話が見えてきて違和感が薄まる。


「これまで姿を隠し、場所を変えて、占いに来た人もあなたの友人のようにたまたまの人が多かった占い師さんが急にほとんど居場所を教えるような真似をした理由。それは後一週間も経てば二人の一か月記念日が来る。そこで残念眼鏡の盛大に祝われでもすればそでこそきりだしにくくなるでしょう」


 妃衣さんの推察通り占い師と勘違いビッチが繋がっているならこのタイミングで強行に出た理由にも頷ける。


「当初は暗号を彼が拾えば何かに察して占い師を訪れると思っていた。恐らく告白の真実を教えるとでも書いていたのでしょう、今回もあったし。でもそうはならなかった……それは、残念眼鏡は盲目にも歪な告白に心当たりがなかったから」


「だから本人に直接渡すっていう最終手段に出たのか」


「まぁ、そこまでしてなお彼は気づく様子はなかったようだけど」


 ここまでの推理の上で残念眼鏡と命名したのか。

 確かに残念だ。

 どれだけ思っていてもそれは一方的で、拒絶のサインを見ようともしていないのだから。


「あくまでこれは私の推察。全然見当はずれな場合も考えられるわ。だから手っ取り早く占い師様本人に聞くことにしたの」


「それがシュガーさんの渡していた封ってことか」


「なるほど。そのために生徒会室を開けさせたんだな」


 ここまでの妃衣さんの行動に意味を見出せた男二人は彼女にその最終確認を行う。

 静かに腰に手をやりドヤ顔で肯定した彼女は、そのもも席を立つと生徒会室へと繋がる通路へと歩みだす。


「話に乗ってくれるのなら17時には生徒会室に現れる。急ぎましょう」


 部屋の時計の針は16時45分。

 改めて妃衣さんのスケジュール管理能力は恐ろしいと知らされた。

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