第15話 メンバーの覚悟。部外者の覚悟

「いかれ野郎とは随分な称号を付けてもらえて嬉しいです三永君」


 扉を開け眼前の席に立つ妃衣ひごろもさんは開口一番俺にカウンターを仕掛ける。

 どうやら通路での会話は筒抜けだったたらしい。


「えっとあれは何というか……ジョークみたいなもので」


「私の封印されし左眼もあなたの言動を捕えていたわ」


「その……ごめんなさい」


 女子生徒二人に言い寄られ逃げ場なく謝罪する。

 悪意があったわけではないが聞こえていたのなら謝るほかないだろう。

 

「何だなんだ? 三永、早くも何かしでかしたのか」


「いえ。また一段と私たちの仲が深まっただけなんで問題はないです。そうだよね? 三永みえ君」


「仰る通りです」


 分かってはいたがここでの俺の立場は凄く弱い。

 部室棟側から現れた小陽会長も二人の態度から俺へのフォローを諦める。

 普段だったら絶対に思わないだろうが今は会議が早く始まってほしくて仕方ない。


「と、三永君いじるのはこの辺にしておいて。みんな揃ったわけだし、早速会議を始めます」


 一人動揺の顔を隠せない俺を置き去りに俺自身二回目の会議が始まった。

 前回は作戦途中からの参加だったため最初から爆散に加わるのは実質初めてだ。


「今回ターゲットとするのは本校二年生の霧島尚弥きりしまなおや。そしてその彼女である同じく二年生の桃園知佳ももぞのちか。我々のターゲットである以上例外なく彼ら恋人通りであるわけですがその成り立ちは少しいびつです。彼女である桃園さん、以降勘違いビッチは内輪乗りの罰ゲームで霧島さん、以降残念眼鏡へと告白をしています。残念眼鏡はそれを承諾しすれ違いのままの恋人生活はもう少しで一か月を迎えるようです」


「何か、うちの学校って色恋の不祥事多すぎない? 俺が言えた口でもないかもしれないけど」


 俺の中では劇的だったあの一件からまだ一か月と経たずこれだけ濃い情報が入ってくる。

 話題に事欠かないとはこのことだろう。

 このままでは男女の不順異性交遊禁止みたいなジジくさい校則でも出来てしまいそうな勢いだ。


「実際多いとは思いますが私たちにとっては好都合です。今回の件の問題点は残念眼鏡は本気であるということ。それを利用して勘違いビッチもなぁなぁで関係を続けているということです。これは爆約の第2項と第5項に抵触します」


 どれどれ第2項に第5項。俺は俺用に刷られたカップル爆散同好会規約を広げる。


[第2項]片思いはいい。何か青春ぽいから。ただそのままなぁなぁで付き合うな。無理やり感が気持ち悪い。

[第5項]片一方が主導権を握っている恋人関係は総じてクソ。死ね。


 これはまた手厳しい。書き始めということもあってか随分と荒々しい文字となっている。

 別称でも感じるが妃衣さんって本当にカップルに容赦ないんだな。

 少し引き気味の俺は前に座る彼女の憤る顔を見て今触れすぎるのはマズいと悟った。


「この手のカップルは毒のように周りをむしばみながら最終的には消滅していくことが多いです。どうせ破局するなら周りに迷惑をかけないうちに私たちで壊してしまいましょう。みんな、聞いておきたいことなどはありますか?」


「俺はまだ爆散初心者だからわかってないだけかもしれないんだが、俺が今回ムカつくと思ったのは第5項に抵触している勘違いビッチだけなんだよね。残念眼鏡は実際悪いことしているように思えないし……」


「そう思われるのが普通だと思います。ですが私たちは爆散同好会。誰かを好きになるということはそれなりの責任を伴うと考えています。なぁなぁで付き合った彼も自分の気持ちしか見ようとしない臆病者の馬鹿ップルです。私はむしろ残念眼鏡の方がムカつきます」


 この意見に関しては俺以外でも反論を覚える者もいるだろう。

 部外者から見れば完璧なヒールである勘違いビッチだけを標的とする方が綺麗に見えるかもしれない。

 だが、彼女の言った通り俺たちはカップルを爆散する。連帯責任と言えば使い方を間違ってしまっているかもしれないが妃衣花火にとってはそういうことなのだろう。

 

「ちゃんと理解できた。俺はもう反論はないよ」


 俺は妃衣さんがムカつくと言い切った理由に納得し首を縦に振る。

 善意ではなく悪意で。

 救済でも断罪でもなくただのエゴ。

 先の俺の質問はまだ俺にその覚悟が足りていない証拠だろう。


「ありがとうございます。二人も反論がなければここから計画を練っていきたいのですがどうでしょう」


「反論なし」


「左腕が解放を叫んでいる……。力の行使をする時が来たようね」


 二者別々の同意を示して会議の決は採られた。

 間違いなくここからが本番なのだろうが初めて部外者として参加する俺にとってはここが一番の鬼門だったと言えるだろう。


「計画と言っても今回は前のような大それたものを用意する必要はないと思っています。というのも今回は彼女側とは既に連絡を取れているといっても過言ではないですから」


 妃衣さんが語ったその自信に俺はこの会議で出るはずだったとある話題を思い出す。


「もしかしてそれが占い師と関係してるの?」


「占い師? 何だそれ」


 恐らく一人だけ占い師の存在を知らない会長は首をかしげる。

 対照的にその存在を知るシュガーさんは俺の質問を聞いて合点が言った様子でほくそ笑んでいる。


「ご明察。そこら辺の説明……というか考察もしていかなければなんですけど……。まずは頭にハテナマークを浮かべたままの先輩のためにも順を追って話していきましょうか」


 そうして会議は謎の占い師の噂話へと舵を切っていった。




 

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