第14話 距離は遠く
図書室を離れた時点で時刻は16時を優に回っていて、グラウンドから聞こえてくる声も徐々に熱を増していた。
結局正体の分からなかった占い師との接触を終えて早海と別れた俺とシュガーさんは妃衣さんに呼び出されるままに部室へと向かっていた。
「俺ってあんまり信用されてなかったりします?」
「そんなことはないわ。フレイはあくまであなたの素に期待しているの」
今回も何も知らされぬまま事が運んでいたことに自虐的になっていた俺はシュガーさんにそんな八つ当たりともとれる質問を投げる。
当のシュガーさんは特別なことはなくそれを否定した。
あまり考えてもいなかったそのセリフに俺は思わず驚きの表情を示す。
「今回は生徒会室からか。この時間だったらまだ生徒会役員の人たちはいそうだけど、どうなんだろう」
「それは会長がどうにかしてくれているようだから心配無用。私たちはただ定められた時を守るのみ」
小陽会長のことは普通に会長って呼んでるんだ。
ともかくそういうことなら心配はいらないだろう。
こういう時に生徒会長が味方側として動いてくれるのは実にありがたい。
「さっきちょっと気になったんだけど、図書準備室の鍵は外にあったのに占い師の人は中にいた訳だろ。あれってどうやって鍵を閉めて外に鍵を置いておいたんだろう」
「おそらく協力者がいるわね。焦らなくとも真実は時間が教えてくれるわ」
多分それに関してもこの後開かれるであろう会議で聞けるということだろう。
段々とシュガーさんの言っていることへの理解が早まっていることは怖いが、距離が縮まっているという解釈をしておこう。
『生徒会室の中の人は全員移動したぞ。鍵はいつものところにスペアを隠しておいたからよろしく。』
生徒会室へ向かう途中、グループチャットに会長からのメールが届く。
部屋の鍵の隠し場所であるいつもの場所というのはシュガーさんが知っているはずなので深くは考えない。
「観測者が多いわ。少し安寧の地で羽を閉じるとしましょう」
「分かった。確かに生徒会室へ侵入するところを見られるのは避けたいしな」
放課後とはいえまだ生徒の数は多く中々流れは途絶えない。
俺とシュガーさんは人の気配が消えた一瞬の隙をついて生徒会室への侵入を果たした。
「まさか隠し場所が床に直置きとは……。普通にばれるだろ」
「廊下に落としておくことでそれを拾い上げるときも違和感は起きにくい。会長考案の奇策よ」
奇策と言われれば奇策だが絶対にもっといい場所はある、と思う。
ただここまでスムーズに侵入できたのも事実なため頭ごなしに否定することもできない。この同好会は結果で黙らせてくることが多いので凡人の俺に取ったらもやもやすることも多い。
そんな誰にも漏れない不満を垂れると俺たちは地下通路へと姿をくらました。
「毎回思うけど、ここ広すぎない?」
「原初は太古の時代に創られた通路らしいわ。それを使いやすい様に改良したの、私のパパが」
今しれっと凄いこと言わなかったか、この人。
チラッと会長からも聞いていたけどシュガーさんって本当に大物なのかもしれない。
結構失礼な態度をとってきたけど何かの機関から消されたりしないだろうか。
「私も同志達もここの全容は掌握しきれていない。いつかは全てを我々のものにしたいものね」
「それは随分と大きく出たね」
「どうせ何かを成すのなら、それは大きい方がいいわ」
これまであまり聞いてこなかったシュガーさんの心に響くようなセリフに一瞬戸惑ってしまう。
これが否認可の隠れた組織の秘密の通路の話でなければなおよかっただろう。
「そいえばシュガーさんっていつごろ妃衣さんと知り合ったの」
距離のある通路で俺はここぞとばかりに質問を繰り返す。
クラスも違いあまり話す機会もなかったので、せっかく同じ同好会のメンバーとなったのならお互いを知っていきたい。
「私たちは高校入学前には知り合ってたわ。私がまだ力を行使できなかったあの春に、フレイは私を救ってくれた。私が同好会にてこの瞳を奮うのもそれが理由」
思ったよりも芯が通っていたその声はきっと
妃衣さんは否定してくるだろうが、彼女の行動によって結果救われている者は多いだろう。
かくいう俺もその一人で、あの件で俺は彼女の意図も俺の意図も違ったが最終的に手にしたい答え的なものに近づけたと思っている。
妃衣花火の根底も、佐藤姫華の本心も俺はまだまだ知らないことは多いんだなと感じた。
「そろそろ到着の時。血塗られた宴の準備が始まるわ」
関わったことがない者からすれば気づく余地もない些細な変化のあったシュガーさんは元のシュガーさんへと戻っていく。
「今回はどんなターゲットなのやら」
「あら? 怯えているのフューチャー。あなたはあなたの力を発揮すればいいわ」
俺の一瞬の心配も無視して心配を返すシュガーさん。
どうもこの人たちは俺の調子を乱すのが上手いらしい。
「まさか。参加して初の爆散だぜ。俺だってもう立派ないかれ野郎だよ」
「清々しいほどに失礼ね」
ニヤリと微笑むシュガーさんに俺も同じ表情でお返しする。
上手く言葉にはできないが何だか心地の良い空間だ。
「自覚はしてるよ。割とお互い様だとも思うけどね」
まだ距離のある俺たちの間を埋められたら、俺たちの関係には何て名前が付けられるのか。
厨二病な彼女の影響か俺もたまにはそんなノスタルジックな事でも考えてみるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます