第13話 秘密の裏世界
本校舎三階から階段を一つ降り、美術室や音楽室も並ぶ公社への廊下を渡ると向かった先は図書室。
広さはあれど場所が校舎の端のためあまり利用者が多いとは言えない。
俺自身も今日初めて入ったくらいだ。
「本当にここにいるのか? 俺が会ったのは普通に三年の教室だったが……あとその子包帯してるけど大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。いつも通りだし。まぁ、入れば分かるでしょ」
「開門の時……」
図書室の前で合流した俺・シュガーさんペアと
中を覗くと静けさが立ち込めており本来の用途通り読書を楽しむには最適な空間と言えるだろう。
唯一姿を見ている早海を頼りに俺たちは図書室の中を歩く。
「見当たらないな」
「一目で占い師ってわかる風貌の人はいないもんな」
生徒は居れど目的の人物ではなく、男二人は立ち止まりもう一度辺りを見渡す。
何度見てもそれらしい人は見当たらず俺はシュガーさんに確認を取った。
「シュガーさん。本当に図書室で間違いないんだよね」
「無論。でもこの空間に預言者が姿を見せていないのも事実……。つまり……」
そういって現在不在の図書委員用のスペースへ侵入したシュガーさんは手慣れた手つきで鍵を一つくすねて見せた。
「ちょっと何やって」
「裏世界への鍵。預言者はあそこね」
そうして指さした先には図書準備室と描かれた扉がある。
本来図書委員と職員以外入ろうとも思わないそこに目的の占い師がいるのだとシュガーさんは言った。
「試すだけならタダか」
「おいおい未来、本当に入るのか?」
早くも同好会メンバーに毒されている俺に待ったをかける早海。
だが俺は友人の制止も聞かず包帯をなびかせる彼女の後ろに続いた。
「さぁ……、永劫の眠りへと我々を導く暗雲よ。今こそその内なる力を開放し、」
「目立つと恥ずかしいから早く開けちゃって」
「ちょ、ちょっとまだ詠唱が」
自分の世界を形成していたシュガーさんから鍵をぶん捕ると俺は素早く鍵を開け中へと入っていった。
「暗いな」
「えぇ……」
部屋の明かりはついておらず、掃除はされているとはいえ流石に少し埃っぽい。
後からゆっくり続いた早海が部屋の電気をつけるとそこには黒の衣装を羽織ったまさしく占い師がいた。
「迷える子羊よ、お待ちしておりました。今宵は星の占いへお越しいただきありがとうございます。何を占いましょう」
本当にいたんだ。
正直半信半疑ではあった学生占い師の存在に俺は驚きを隠せない。
そしてそこはかとなくシュガーさんと共鳴してしまいそうな占い師を見て、周りにばれないようにとゆっくりと扉の鍵を閉めた。
「あなたが……第七の
やはり反応してしまったシュガーさんは占い師さんのことを第七選定者に任命した。
確か俺は第六だったが第一から第五までも存在しているのだろうか。
「第七の選ばれしものですか? 身に覚えがございませんが私にそのような御力があったとは」
「誰しも最初は己の力に気づかない。覚醒してようやく自分という存在を認知できるのよ」
「これどういう状況」
決め顔で語り合う女性陣に困惑の様子を見せる早海。俺もよくわからない。
「早海の時も占い師さんはこんな感じだったのか?」
「まぁ……こんな感じではあったな」
俺たちが探していた占い師がこの人で間違いないなら何の問題もない、そういうことにしておこう。
一通り挨拶? を交わしていた二人だがそういえばこの後はどうしようか。
最初こそ占いをしてもらうつもりではいたが今は目的が違う。その目的も明確には分かっていない訳だが。
「それで今回はどなたを占えばよろしいのですか?」
咳払いをして本来の仕事へと戻った占い師さんは俺たち三人の顔を伺う。
回答に口澱む俺をよそにシュガーさんは包帯の巻いていない右腕を天に掲げると私を占えと言わんばかりに一歩前に出た。
「おい、今回って未来を占ってもらうためじゃなかったか?」
「まぁ俺も何占ってもらうか決めてなかったし。早海には悪いけど今回は彼女に譲ろうと思う」
「お前がいいならいいが」
付き合ってもらった早海には悪いがシュガーさんがここまで主張するということはきっと妃衣さんからの何かしらの令あってのことだろう。
「では何を占いましょうか」
「フッ……。私の左眼の封印について」
あ、これ多分私怨だ。
左目にかかる眼帯を誇張するようにポーズをとる彼女に俺は先程までの考えを改めた。
戸惑う様子を見せた占い師さんだったがプロ根性からなのか占いを全うする。
ところどころ意味不明な会話が飛び交ったが要約すると今はまだ転機ではないので挑戦をする時ではない(眼帯を取る時ではない)ということらしい……
何を聞かされていたんだろう。
「貴方はやはり素晴らしい才の持ち主。覚醒の時が待ち遠しいわ」
「本日は満足いただけて幸いです。付き添いの方々もお気をつけてお帰り下さい」
本当に何の時間か分からなかった時間が過ぎ去り、扉に一番近かった早海が鍵を開けるとシュガーさんは彼にだけ見えないタイミングで制服の内ポケットに隠していた封筒を占い師に手渡す。
「私たちは再び出会う運命にあるということ……。月影が落ち、時が満ちたらまた会いましょう」
この図書準備室での出来事が盛大な茶番だったと知る。
あの封の中身を渡すことこそが妃衣さんが俺たちと占い師を接触させた理由なのだろう。
シュガーさんも言っていた通りきっとこの後事情を知らされる。
だからこそこの瞬間まで誰にも悟らせなかったシュガーさんにカップル爆散同好会のメンバーでいることの何たるかを伝えられた……そんな気がした。
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