第12話 助っ人は夕日に映る
6つの教科の学習を終えると学園は放課後へと突入する。
俺含め、高校生になって初となる定期テストの影も迫ってきている一年生は普段よりも授業の要点を理解するのに集中力を使う。
それは俺も例外ではなく本来なら帰宅して復習作業に取り掛かりたいところだが今日はそうもいかない。
「もしもし。一階と二階は見て回ったけどそっちはどうだ」
「こっちも見つかってない」
電話越しに息を早めながら確認を取ってくる早海は朝のうちに決まった人探しの最中だ。
体力の差と時間を考慮し彼が一階と二階を見て回り俺が三階を探す。
あくまで西高生なのだから直ぐに見つかると思っていたが意外とそうもいかないらしい。
謎の占い師を探して早数分。俺たちはその足取りすらつかめないでいた。
「一回会ってるんだろ? どんな人だったとか覚えてないのか」
「それが顔を隠していたし、身長も座っていてあまり分らんかったから……。でも見た目はいかにも占い師って格好だったぞ」
想像していたよりも重労働となったこの人探しに早くも俺は切り上げたく思っていたが、妃衣さんも何かしら噛んでるっぽいのでそう簡単には終わらせられない。
いや? 本当にそうか。
勝手に妃衣さんには逆らえないと思い込んでいたがこんな人探しくらいならサボってしまってもいいんではなかろうか。
そんな魔が差した俺に良すぎるタイミングで通知音が鳴る。
『助っ人を送っておきました』
どうやら途中下車は許してくれないらしい。
「マジで、何で占い師なんて探す羽目になったんだ……」
「何か言ってか?」
「何でもないよ」
通話が繋がったまま独り言と自身への後悔を吐く俺に早海は聞き返す。
今こうしているのはかなり自業自得なところがあるが正直もう帰りたい。
助っ人さん、早く来てほしい。
「希望を閉ざした冷徹なる
内心面倒くさいと思っていた俺の気持ちはそれを見てさらに膨れ上がる。
どこから現れたのかいつの間にか俺の前で夕日を浴びるように立ちすくむ彼女は見慣れた左腕の包帯で眼帯を隠しながらそう呼応する。
「もしかして妃衣さんの言ってた助っ人ってシュガーさん?」
「いかにも。私はフレイの頼みを聞きあなたを助けに来たのよ」
俺がシュガーさんの眷属になったというのも初耳だがまさか助っ人がシュガーさんとは。
助っ人て助ける人って書くんだけど本当に間違ってないのだろうか。この人むしろ場をかき乱す側では……。
「あ~俺たち今人探ししてるんだけど……具体的には何を手助けしてくれるの?」
頭に浮かんだ無礼を押しとどめ俺は話を進める。
正直なところまだシュガーさんとはそこまで関わりが深いとは言えないと思っている。
ただの人探しなら彼女よりも適任はいただろう。
だが、この場にシュガーさんが派遣されたことで俺の疑問は確信へと変わった。
この件は爆散と関係しているのだと。
「私は人間の
前も思ったがこの人の連絡網は凄まじい。
前件でも他校の女子生徒四名との連絡要員となっていた訳で、今回も正体不明の生徒の居場所の特定に成功。
なるほど、俺が及第点の烙印を押された理由に合点がいった。
「じゃあ早速向かおう。時間制限もあるみたいだし。案内できる?」
「おい未来。だっきから誰と会話してるんだ?」
スマホ越しに漏れ出す声。すっかり通話中なのを忘れていた。
占い師の姿を見たことがあるという点では是非とも同行してほしいわけだが、もしこれが爆散の計画の一部ならこれ以上早海を関わらせるのは互いにデメリットしかないだろう。
「私はプリンセス・F・シュガー。安立早海、オペレーターもあなたの同行を許可している。貴方が深淵を臨むのなら、二階の図書室に来なさい」
「え、えっと……君は……」
「図書室だって。早海もそこ集合で、じゃ」
俺のスマホを取り上げ口上を語りだした彼女からスマホを取り返し颯爽と通話を切る。
用件と場所は伝えたし問題ないだろう。
「妃衣さんが早海の同行を許可したのってなんで?」
またも仕組まれたように事が進んでいく現状に、俺よりも真相を知っていそうな目の前の彼女に聞く。
「私も預言者の姿を見た訳ではないから、その確認のため。あくまで彼は今回だけの査定人、心配は無用とのことよ」
「預言者じゃなくて占い師なんだけどね」
「些細な事……」
無理やりメンバーに入れられたといっても過言ではない俺のように早海も同行会への加入の道をズルズルと歩まされると思っていたがそういうことではないらしい。
「やっぱりシュガーさんまで出て来たってことは爆散と関係があるの?」
俺は関係者しかいなくなったこの場で核心を突く。
俺の質問にシュガーさんはニヤリと笑うと左腕を広げて夕日を切る。
「肯定。でも詳細はこの後フレイから指示が出るはず。私も今回はあなたを手伝い預言者と会うことまでしか言われていないから」
二人きりで話したのは初会合の後の電車以来だが、言葉選びがあれなだけでまともに会話が繋がる。
まともそんな失礼な考えに至る俺を置いてシュガーさんは歩き出す。
「行きましょうフューチャー。約束の地へ」
階段へと消えていった彼女の背中を追うように俺も図書室に向け歩きだす。
道中、フレイと比べたフューチャーという語感のダサさに俺は俺の真名の変更が行われることを密かに願っていた。
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