彼女の左眼は真実を映し出している

第11話 腐れ縁とでもいうのかな

 雨の匂いと春の終わりが近づく五月の終わり。

 カップル爆散同好会というそれはそれは大それた名の同好会の一員となった俺はこれまでとは一味違う日常が訪れて……いることもなく、クラス内の振られた可哀そうな奴というのも三年生の悪評で上書きされ薄くなっていた。


未来みらいさぁ。お前って何かついてないよな」


「何だよ藪から棒に」


 西上せいじょう高校1年2組で隣の席に座る男子生徒、安立早海あだちはやみは俺に気さくに失礼をはたらく。

 中学からの仲のこいつに刺されるのも俺の日常と言え、斜め後ろの方の席で読書にいそしみクラスの空気に溶け込んでいる彼女の姿も既に見慣れたものとなっていた。


「いやさぁ。あかねちゃんといろいろあったのは聞いたんだけど、それ抜きにしても何だろうな…………占い師でも紹介しよっか?」


「無理なら慰めなんてしない方がいいぞ。むしろ効く」


 元カノである竿待ち、もとい咲楽茜との一件を終わらせて数日がたった俺を未だに心配してくれるのは嬉しいがそれにしてもフォローが下手すぎる。

 それと占い師の紹介というのもよくわからん。


「お前……次は妃衣ひごろもさん狙ってんのか? 随分角度が違うようだが俺は応援するぞ」


 視線でバレたのか決して小さくない声量で俺の耳に疑いを向ける。

 その仕草は小声でやるものではないのだろうか。耳がキーンとする。


「そんなんじゃないよ。いつも静かだから気になっただけ」


 いつもとはクラス内のことだけを指すわけだが早海にそれを知る術はない。

 わざわざオンとオフを分けている妃衣さんの意図を組むためにもクラスではあまり関わらないように気を付けていたつもりだったが、こういう妙に疑ってくるやつもいるのでもう少し注意しなければならないな。

 そんなことを思い俺は無理に話題を変える。


「それで、占い師って何なんだ?」


 しまった。これは踏み込むと面倒くさい話題だ、絶対。

 俺の感がアラートを出しているが時すでに遅く、咄嗟に変更してしまった話題の内容に後悔する。


「気になるか! 実は同じ西高の一年生に凄腕の占い師がいて、俺も占ってもらったんだがそれが当たる当たる。野球部の中でもちょっと噂なってるくらいなんだ」


「へぇ、そんなに当たるんだ」


 彼の所属している硬式野球部の中でも噂になっているらしい。

 かくある部活の中でもトップクラスの所属人数を誇る野球部で噂になっている学生占い師。不覚にもちょっと気になる。

 日焼けを窓際の太陽でテカらせる彼の術中に見事に嵌ったわけだ。


「やっぱり会うべきだって。うん、それがいい」


「おい勝手に決めるなっt……」


 自分のペースだけで話を進めていく早海に待ったをかけようとすると俺のスマホは光る。

『彼の誘いに乗ってみてください』

 俺宛に送られてきたシンプルな文は妃衣花火からのものだ。

 現状と同じく口数少ないそれは怪しさ満載だが、会長からの令ということは恐らく爆散に関することの可能性が高い。

 興味がわいてしまった自分自身を呪いながら俺は早海の提案に乗る。


「分かったよ。会うだけなら……」


 チラッと見た妃衣さんはどこか可笑しそうに笑っているようにも見える。

 本当に大丈夫なんだろうか。

 不安は残りつつもバレないように彼女への返信を済ませた俺は早海と予定の話をする。


「で、いつ会えるんだその占い師の人? 噂になってるっていてるけど俺は見たことも聞いたこともないし」


「それがなぁ結構なレアキャラみたいで放課後の決まった時間にしか占い師をやってないらしい。しかも時間は同じでも場所は校舎の何処かはわからない。毎回変わってるっぽい」


「それ本当に会えるの?」


「問題ない。丁度今日野球部は休みだし放課後校舎をくまなく探せば見つかるだろう」


 何だろう上手くいかない予感がプンプンする。

 手を振りながら走るジェスチャーを送っているが俺は君ほど早くは走れないぞ。


「放課後楽しみだな!」


 彼の期待に愛想笑いだけで返すと放課後の予定は確約された。

 そこそこ長い付き合いだがこいつのこの強引さは中々に苦労させられる。

 俺は放課後への懸念を残しながら一時間目の開始を告げる鐘が鳴るのを待つのだった。

 

 


 

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