第8話 帰るまでの時間

「さっき話してた別の彼女って茜のことでしょ?」


 呼び出した四人との話を終え解散した俺たちはそれぞれの帰路に立つところだったが、妃衣ひごろもさんがエスカレータを降りる前に呼び止め声をかけた。


「正解です。……さっきの会話、私のやり方は不満でしたか?」


 俺が何を思ったのか、何を聞きたいのかも彼女は事前にわかっていたのだろう。

 さきほどの話し合いでも思った妃衣花火ひごろもはなびという人間の底の知れなさに、その感情に対する答えだと言わんばかりに彼女は頷いた。


「不満はないよ。部室の作戦会議の段階で俺を上手く利用したいってのは伝わってきてたし。俺もウィンウィンの関係で問題ないと思ってたからね。ただ、」


「ただ?」


 妃衣さんは聞き返し微笑む。


「そうだな……。簡単に言うとここまでする理由が分からない。何だろうな、妃衣さんをこうさせたって言ったらあれだけど……君の目的意識が凄いから」


「つまりさっき途中で止めた会話の続きを聞きたいんですね」


「そうだね」


 俺が向ける疑念の目に察したのか妃衣さんはエスカレータから離れベンチに俺を誘導した。


「さっきも言ったんですが隠すほどのことでもないんです、本当に。でもさっきの会話の切り替え方で分かってしまったかもしれないんですけど今三永君に教えることは出来ません」


「それは今俺が事情を知ると爆散に支障が出るから?」


「そう思ってもらって構わないです」


 どこかいつもよりも弱気に思える返事を聞く。

 彼女の反応を見るに他にも疑問はあるのだがそれも今追求しない方がいいのだろう。


「分かった。ごめんね呼び止めて。俺たちも帰ろっか」


 僅か数分に満たない俺と妃衣さんの密談は俺の勝手な思い込みを残したまま終わる。

 時間も時間ということで俺たちはエスカレーターを降り駅へと向かった。

 

「どうしたの……」


 道を歩く途中仕返しと言わんばかりの目でこちらを影が覗く。


「いえ。三永君ってただの馬鹿ップルだと思ってたんだけど以外に鋭いなと思いまして」


「え? 何か失礼じゃないそれ」


 突然の罵倒に思わず声が漏れる。

 

「もしかして俺と茜が破局してなかったら俺も爆散同好会のターゲットになってたなんてことは……」


「まさかまさか。そんなことあるわけじゃないですか」


 そんな訳あったんだなきっと。

 彼女の対応に少しの身震いを覚えると俺たちはそれぞれ反対のホームへ向かう。

 

「それではまた明日、三永君」


「あぁ。また学校で」


 俺より先に来た電車に乗り込むと彼女は窓越しにもう一度礼をして遠ざかっていっく。

 数分と経たないうちに俺も電車に乗り込むと手元のスマホが光っているのに気づく。

『騙していて申し訳ないです。』

 送られてきた文はいつも見るそれよりどこか砕けていて、文字の意味も自分の中で落とし込めたが今は吐き出すべきではないのだろうとホームまでの彼女に感じた。

 

「やっぱり……」


 スマホの液晶を見つめ考えにふけっているとそんな音が出る。

 俺の頭に浮かんで彼女に確認を取らなかった心の疑問はシンプルだった。

 妃衣花火と最初に出会ったあの公園。あそこでの出来事は偶然で終わらないのだということ。 

 彼女が竿待ちこと咲楽茜さくらあかねが既に浮気をしている情報を掴んでいて、それを使って俺を爆散させなかったのは竿だけを釣りたかったからだと俺は推察した。あれだけ明確に俺に対しても敵視していたという発言をしていて、尚且つ一撃で俺たち馬鹿ップルを爆散できる弾があったのにそれを妃衣花火が不発に終わらせたとは考えずらい。

 どうやってセッティングをしたのか、どこまで爆散のスケジュールの内なのかは分からないが今回の話し合いまでの段取りの良さや最後の一分を見るに遠からず当たっていて、俺が察したのを彼女も感じたんだろう。


「ま、事実確認を取ったところで俺の考えも変わらないし。それが彼女の言うところの今じゃないともつながるのかな……」


 俺はたった四日で構成された絆的なメルヘンチックなものが偽りだったかもしれないという悲しみを覚えながら電車に揺られる。

『今後の予定はこちらです。今日の四名との確認が取れ次第決行に映します。皆さん今日はお疲れさまでした。』


 グループチャットに送られたいつも通りの彼女の文体に、やはり俺は少し身震いするのだった。

 




 













 


 

 

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