第7話 殺伐カフェ爆散

 学校の最寄駅から電車に揺られること四駅。

 俺と妃衣ひごろもさんは駅から徒歩数分の商業施設にいる。

 琵琶湖の西側をかける京阪坂本本線けいはんさかもとほんせんとJRの両方の駅から近いということもあり定期圏内の学生には重宝されている。


「先輩達と協力者の人たちは一緒に駅から向かってくるそうなのでとりあえず席だけ取って休んでいましょうか」


 そういうと暑さも感じ始める五月の太陽から避難し施設二階にある本屋に併設された雰囲気の良いカフェへと向かった。

 今から行われる話の内容が男女間の腐った群像劇でさえなければ休憩するにはベストなロケーションだっただろう。


「何も頼まずいるのもあれですし何か頼みますか?」


「だね。じゃあ~……俺はアイスコーヒーにしようかな」


「私はオリジナルレモンティーというものを頂きましょうかね」


 レジから並んでドリンクを持って席に向かう俺たちは傍から見れば男女の関係にでも見えているのだろうか。

 実際はそういったカップルに牙をむく存在なのだが。

 

「妃衣さんって何でカップルを爆散させたいって思い始めたの?」


「急にどうしたんですか?」


 普通の高校生がカフェで発さない言葉を混ぜながら俺はこの待ち時間を利用する。


「いや別に言いにくかったらいいんだけど……。熱意っていうのかなぁ。真剣さとか本気度が凄いなって思って」


 妃衣花火ひごろもはなびの思想に賛同したからここにいるわけだが、前々から彼女の原点は気になっていた。 

 俺と同じか似た境遇に合わされたからなのか。全然違う理由なのか。

 俺の質問を受け彼女はストローからドリンクを一口流す。


「隠すようなことでもないから大丈夫ですけど……」


「お待たせ! 合流に時間がかかってしまった」


「あ、会長たち」


 妃衣さんが話し始めた直後後発組の会長とシュガーさんが顔を見せる。

 後ろには見知らぬ他校の女子生徒が四人おり、事情を知らない人が見たら会長の激烈ハーレム展開と勘違いしてしまいそうだ。


「初めまして皆さん。西上せいじょう高校の妃衣花火です。今日は来ていただいてありがとうございます」


 俺との会話を無かったことにするように立ち上がった彼女につられ俺も立ち上がり軽く挨拶を交わす。

 四人別々の制服を着ている女子生徒達も軽く会釈すると俺たち爆散同好会四人の向かい側へと着席した。


「さっそくですが昨日佐藤さんが送ったメールは見ていただけましたか」


「はい。潮田うしおださんが私以外の人とも付き合っているって。今の状況を鑑みれば本当のことのようですが……それを私に、私たちに教えてくださったのには何か理由があるんですか?」


 切り出されたに女子生徒の一人が答える。

 話を聞くにシュガーさんが昨日のうちに連絡を取っていたというのは本当のようだが一体どんな連絡網なのか。あの感じで中学では理解者がたくさんいたのだろうか。

 心の中でそんな失礼なことを考えていると佐藤さんは更に話を進める。


「そうですね。もう疑う余地はないかもしれませんが念のためこれを」


 そう切り出し机の上に出されたのは9枚の写真。

 そこにはそれぞれに同じ男性と度に違う女性のツーショットが映し出されている。

 実物は俺も初めて見たがこれが妃衣さんの言っていた証拠写真だろう。

 はっきりと描かれた二人の男女の正確さもさることながら空撮も含まれており本当にどうやって手に入れたのかわからない十分すぎる浮気の証拠がそこにはあった。


「我々は潮田信二とその彼女を破局させるのが目的なんです。そういう思考に至った理由は話せないのですが皆さんにとっても悪い話ではないと思っています」


「そうですね…………。正直、今朝佐藤ちゃんからメールが届いた時は何のことだと動揺しましたが、今こうしていろんな状況が揃ってしまうと彼との関係を続けるのは……」


「むしろそんなクズ男に引っかかってしまったことが恥ずかしくて……」


 目の前に出された現実にそれぞれの思いを吐露する竿だけの彼女たち。

 四人の表情からの別れるということだけは決定していることが理解でき、部室で聞いた話とも合致した。


「正直に私個人としては何故あのような男性に惹かれるのかは全く理解できませんが、みなさんの心がもてあそばれてしまったというのも事実。私も一人の女性としてそのような人は許せません。ここは協力して潮田に痛い目見せませんか?」


 そう言い切った彼女はニヤリと微笑む。

 本当の妃衣さんと会話してのはまだまだ少ないがそれでもこれが同情ではなく野心のためだと分かってしまう。

 俺は改めて彼女の真っすぐさに少し怯えた。


「協力と言っても何をすれば……」


「そうですね…………」


 女生徒の一人に聞き返され悩んだ様子だけ見せて妃衣さんは少し沈黙する。


「向こうがどういった反応になるか予測しきれないところではあるんですが、実際にみなさんには同じ日にデートの予定を入れるか、ここにいない別の彼女のデート日に知らないていで潮田の前に現れていただきたいです。公衆の面前で複数の女性から言い攻められればさすがの彼でも答えるでしょう。安全面に関しては私の隣の筋肉マッチョの本校生徒会長がついていますので」


「ちょっと考えてもいいですか」


「もちろんです。私たちもすぐに決めて実行できるような作戦ではないですし。また連絡してください。あ、こちら私の連絡先です」


 そうして恐ろしいほどにスムーズに竿だけの彼女四人との初会合は終わる。

 そして改めて気づく。

 妃衣花火の活動原理はどこまで行ってもカップルそのものへのムカつくという気持ちで、例外はないのだと。



 

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