第6話 日常と日常
週も明けて月曜日。
俺は期待とも違うよくわからない感情を持って自身の通うクラスである
俺は大抵登校時間ギリギリの電車に乗って来ているのでクラスには既にほとんど生徒が揃っていることが多い。
この日も例にもれず中から聞こえる声音は多様で、人の多さが伺える。
俺は何気ない素振りで扉を開けると見慣れた教室へと入っていった。
「……やっぱ凄い変わりようだ」
開口一番
つい数日前なら違和感すらも感じなかったであろうその姿は俺に強烈なインパクトを与える。
部活棟で聞こえたヒソヒソ話の再臨に歯痒さを覚えながら俺は彼女の席を横切る。
「おはよう妃衣さん」
「あ…………。おはようございます……」
本当に別人のようだ。
サングラスは当たり前にかけていないし声も他の音にボリュームで負けている。
先週まで交わされることのなかった不自然な挨拶よりも色恋話に興が乗っている様子のクラスの空気はそのまま俺たちを日常に戻す。
「まぁクラスにいる間はあんまり話さない方がいいか」
席に着くと彼女が変装している理由を思い出し誰にも聞かれぬようにぼそっと呟く。
近くの席のクラスメイトは俺に同情してか普段より優しく接っしてくれてる気もするが何事もなく学園生活が始まる。
――
――――
――――――――
そして終わる。
ここで言う終わりとは放課後に突入したこととこれまでの日常の終わりを意味するわけだが、俺はクラスメイトから茶々を入れられていた数時間前の普通を噛みしめながら例の地下部屋へと足を運んでいた。
「みんな集まったようですね! ではさっそく昨日佐藤さんが仕込んでくれた種と、今日の予定について話します」
「フレイ。その名は捨てたと何度言ったr……」
「佐藤さんの中学校時の友人数名と連絡が取れて、その言伝で竿だけの彼女候補4名を今日呼び出すことに成功しました。今日会う四人は比較的常識的な方々で浮気の写真を見せれば間違いなく竿だけとの関係を立ってくれることでしょう」
「今日会う候補が決まってたから俺と竿待ちとの連絡をやめさせてたのか?」
シュガーさんの構文を遮り作戦を語り始めた妃衣さんに質問する。
『作戦決行まで竿待ちとの連絡の一切を禁じます』
という勝手に決められた脅迫文が綴られていた。
こちらもわざわざ連絡することもなかったので問題なかったが。
「そうね。彼女は本作戦の取りだからというのもあるんだけど、今日はあくまで前準備の延長のようなものだからリスクになりえることは避けたかったんです」
「リスク?」
意識しなければ早くもこっちが普通に感じてしまう妃衣と何の違和感もなく会話を続ける。
「いろいろあるけど……これは申し訳ないんだけどまだみんなにも話さないでおきたいの」
「まぁ俺は別に構わないけど」
どこか歯切れが悪い様に言葉に詰まる彼女を部屋の生徒は気に留めない。
それが彼女への信頼感からなのかは日の浅い俺には計り知れないが、少なくとも俺もそれで構わないと思ったのだからそれ相応の説得力が彼女自身にあるのだろう。
「さっさく今からでも私が事前に指定しておいた集合場所に行きたいのだけどみんなは大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「時は満ちた……」
「俺も生徒会の面々には今日は顔を出せないと断っているから問題ない」
三者三葉の相違をリーダーに送ると彼女は一つ頷き昨日とは違う四人軟式野球部部室からの脱出を指示する。
そういえば勝手に妃衣さんがリーダーだと決めつけているが恐らくそうだろう。
「じゃあ佐藤さんと
怖いほどスムーズに駅のホームまでたどり着けた否認可同好会メンバーに妃衣さんは再び指示を出す。
「分かった」
「揺らめく静寂……」
今日以前で既に足を踏み込んではいた訳だが、この日を境に俺の日常が一変していくんだろうという期待と不安が電車の窓越しに見る二人の生徒から感じられた。
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