第4話 だから偽善者にすらなれない

「そろそろ本題に入りましょう」


 それぞれ名前を名乗り個人を再認識する時間が終わるとようやくへと入る。

 ここでいう本題とは俺も無関係とは決して言えない昨日の出来事の深堀だろう。

 メンツは非常に濃いが一体どんな話し合いがされるのか。

 爆散についてもあまり詳しくないので協力するにしてもまずはしっかり情報を仕入れそれから判断したいところだ。


「まず今回のターゲット、そちらの三永未来みえみらいくんの元カノである咲楽茜さくらあかねとその現恋人、西上高校3年4組潮田信二うしおだしんじ。以降 竿待さおまちと竿だけはお互いに恋人がいる状態で体の関係となっていた。竿待ちに関しては竿だけに彼女がいることは知らない様子だったがヤってしまったので関係はない。私たちの調べでは昨月の三永くんの誕生日時点で既に2回は性交に成功しているもよう」


「え? そうだったの」


 知らされた爆弾発言。

 俺普通にニッコニコで誕プレ貰ってたんだけど……


「気持ちはわかりますが質問は読み上げ終えてからにしていただくようお願いします」


「あ、はい。ごめんなさい」


 思っていた以上に本格的な会議に驚きここのルールに乗っ取って押し黙る。

 郷に入れば何とやらだ。


「続けます。他にも竿だけは複数人の女生徒と関係を持っており、ここまででカップル爆散同好会規約……通称爆約ばくやくの第四項と第十二項に抵触しているため、爆散の対象となる馬鹿ップルの認定をいたします。これに異論のある方はいますか」


「俺は異論はないぞ」


「私が罰を下すのにふさわしい穢れた存在かと」


 妃衣さんの確認に筋肉マッチョとゴスロリ制服少女が頷く。

 俺は会話に出てきた爆約なるものを確認するため自己紹介を終えた後手元に置かれた冊子をめくる。


[第四項] S〇Xしててもいいけどバレんなよ。バラすのはもってのほかだろ!? 普通にウザいって

[第十二項] 寝取りとかハーレムってフィクションだから許されてるもんでしょ。持て余してんなら一人くらい分けろよ


 ……誰が書いたんだろう、これ。

 規約に抵触とか言っていたがこの紙切れにはズラリと主観で語られたカップルへの妬み嫉みがつづられている。

 なるほど、妃衣さんの言っていた偽善的でないというのは選定理由が本当に純度100%の感情論だからか。

 会話の内容とは反して用地すぎる規約に俺は何かままごとみたいだなと思って、思うだけに留める。 


「三永くんも大丈夫ですか?」


「あ~~……爆散の対象になったとして具体的に何するの? 別れさせるって言ってるけど力ずくでどうにかなる問題でもなさそうだし」


「今回ですと私が竿だけの浮気写真を確認できた全女性分持っていますのでそちらをご本人たちに見せることが第一ですね。竿待ち含めてあくまで恋人は自分だけと思っている女性がほとんどですのでそういった方たちの関係は切れるかと。見せてどうにもならないのでしたら今回は複数の学校が関わっていますので一旦本校の生徒指導に預かってもらって様子見です」


 思ったよりも作戦自体は練られているようだ。

 恐るべし高校生の情報網。

 ともなると余計にあまりに浅すぎる動機が引っかかるが本当に意味はないのだろうか。


「作戦はわかったんだけどシンプルに俺を誘った理由が分からないんだよね。俺がいなかったとしても実行できそうじゃない?」


「ちゃんとラブラブであったあなたが関わった方が竿待ちにはダメージがデカそうだと思って。彼女も自分がセフレ同然の扱いをされているとは思っていないようですし」


 取り繕わず正直に答える妃衣さん。

 本当にシンプルにカップルが嫌いなんだな。


「それと、つい一か月前まで教室でデレデレしてたあなたになら元々少ない罪悪感も芽生えないかなと」


 本当にカップルが嫌いなようだ。


「もろもろ理解した。いい様に利用されてるみたいでちょっと癪に障るけど俺も異論はないよ」


 昨日一晩考えて出た結輪。それはどこまでいってもムカつくの一言だった。

 自分でもびっくりするくらい未練とか復讐心とかが芽生えることはなくただ単にあの馬鹿ップルにムカついた。

 だからこそ自分の胸に残る何かを払うため確認する。


「もう一度聞きたいんだけど、妃衣さんが爆散するのはムカつくっていう理由だけなの」


「そうですね。ムカつくからというよりもムカつく以外の理由では爆散しないようにしているといった方が正しいかな」


 少し考えたような表情で彼女は言う。


「あくまで私たちの行いは善意ではなく悪意。自己満足のための悪事に過ぎないので、誰かのためとか何かあったからとかそんな言い訳ぶいた正当化はしたくないだけです……ちゃんと答えになったかな?」


 俺が何で迷っているのかを言い当てるような笑みで目で俺を呑む。

 未練はない。だからこそ一度好いた女性をおとしいれる行為に後ろ向きだった。

 ムカつくという感情はあれどそれをぶつけるだけの理由を求めていた。

 俺が正しいという理由を。

 だが彼女はそんなものはないと言い切った。

 どれだけ御託を並べても他人から見ればお互いさまで同情はされど偽善者にはなれない。

 だから悪と理解してエゴを通す。

 学生の恋愛など精々その程度の関係なのだから。


「…………あいつらマジでムカつくな」


「でしょ?」


 俺はそう言い鞄に飾られたキーホルダーをそっと中にしまった。

 



 












 



 

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