第3話 類は友を呼ぶって言いえて妙だよな
『本日13:00時頃。軟式野球部旧部室の中でお待ちしております。なるべく人目につかないようにお気をつけていらして下さい。』
そのメールは公園での騒動の翌日である今日、土曜日の朝方送られてきた。
差出人は
昨日のグラサン少女と比べると幾分かおとなしめの文章が映し出されるスマホを片手に片道20分ほどの電車に揺られていたのが数分前。
現在は目的地へ向けて
「でも何で軟式野球部の部室なんだ? あそこってほとんど物置状態で誰も使ってないって聞いたけど」
突っ込みたくなる要素は他にもある文字列に返ってくることのない質問を投げかける。
昨日妃衣さんと別れる前に足早に教えられたLINEと今日の予定。
半ば強引に決められた休日の予定だが、聞きたいことは昨日の時点でも大量にあったため素直に指示に従うことにした。
「ていうか、人目につかずにって結構難しいんだけど」
目的地である部室はその他の今も活発に使われている部室が並ぶ部活棟の一角。
休日で部活動に
「あれ
「え? 俺なま言って殴られたって聞いたけど」
「3年の先輩に寝取られたって話じゃないっけ?」
なるほど。視線が集まる理由は制服ではなかったらしい。恐るべし高校生の情報アンテナ。
たった一夜でこの広まりようだ。
「これで実は違う部屋でしたとか言われたらそれこそ爆散させてやるからな……」
お忍びで侵入することは既に不可能だと悟った俺はこれ以上生き恥を晒さずに済むようにという願いを込め目の前の錆び付いた扉のドアノブを捻った。
ギギィという耳に悪い音の中に入るとその埃っぽさに顔をしかめる。
「マジでここなのか? ほんとに物置じゃん」
扉を閉め顔につく埃を手で払いながら暗闇を進むとすぐに壁にぶつかった。
斜め右下、部室の端に視線をやると下へと降りられそうな階段が覗くハッチが開いた状態で鎮座している。
そこには蛍光色のマジックで【カップル爆散同窓会】と書かれた張り紙が。
目的地は間違いなくここであっているだろう。
「同窓会だったんだ……」
何故こんな地下空間が存続しているかは謎だが一人の男としてこういった秘密基地のような場所というのはワクワクしてしまう。
「ここか」
暫く暗闇を進んだ後に明かりの灯った空間へと辿り着いた。
先程の扉とは打って変わって目新しいそれを目の前に一息つくとゆっくりとノブを回した。
「時間ぴったり。ちゃんと来てくれると思ってましたよ」
謎部屋の中央奥。いかにもといった少しお洒落な椅子に腰掛ける少女が第一声をあげる。
昨日と変わらずサングラスが神々しいがここは室内でしかも地下だ。
「彼が……第六の
向かって左側。一言で表すなら趣味の悪い禍々しい椅子に足を組み伏す見知らぬ眼帯少女。
綺麗な黒髪を肩の位置まで伸ばしたボブカットの柔らかな雰囲気とは対照的に左腕には何故か包帯が巻かれている。
「あぁゆさぴょん……今日もかあいいよぉぉ」
向かって右側。犬を抱えて自分の世界に入り混んでいる大柄な男子生徒が吠える。見た目がこの学校の生徒会長と酷似しているように見えるのはきっと気のせいだ
部屋の真ん中を占拠する長机の三方を位置取る生徒たちは一度見れば忘れられぬ異彩を放っている。
昨日こそ普段のギャップに驚かされた妃衣さんのインパクトが霞んで見えるほどなので相当だろう。
「えっと……個性的な方々ですね、妃衣さん」
「そうね、でもみんな面白くて良い人よ。まずはお互いに自己紹介から始めましょう」
でもという逆接を挟んだということは妃衣さんも俺の言った個性的には心当たりがあるのだろうか。
「まずは私から。しっかり面と向かって話すのは昨日が初めてでしたね。1年2組妃衣花火です。ここカップル爆散同好会の会長をやらせてもらっているわ! 改めてよろしく、
何か物騒な言葉が聞こえた気がするがまぁいい。
普段喋っていなかったせいかすっかり慣れてしまった妃衣花火陽の姿(勝手に命名)の挨拶が終わると次は自分と右側の男性が抱きかかえていた犬を下ろし咳払いから語りだす。
「俺は3年の
気のせいではなかったらしい。
「え、と。生徒会長ってどっちが素なんですか?」
「あぁ~さっきのな。俺は別に妃衣みたいに超意識して仮面を被ってるわけじゃないぞ。ただ俺は犬に目がないっていうだけだ」
俺の失礼な質問にもしっかりと受け答えしている。
入学式の上級生代表スピーチの印象しかないが俺に挨拶した彼はまさしくその時見た生徒会長そのものだ。
随分と砕けた様子だったので別人と勘違いしてしまったがそういう訳ではなかったらしい。
「じゃあ佐藤さんもお願い」
「フレイ……その名は捨てたといったはずよ」
ファーストインパクトと比べると拍子抜けしてしまうほど順調な自己紹介もここで亀裂が入る。
佐藤と妃衣さんに呼ばれて席を立った少女は、左目を隠す眼帯に左手を乗せ空いた右腕を地面と平行に力強く伸ばし喋りだす。
「
最後に凄いのが来た。
ご丁寧に『プリンセス・F・シュガー』と書かれた椅子の上部にある銀のプレートを指さしてくれる。
「この娘は1年5組の
「フレイ、同情は不要。あとそれは仮の名よ」
困惑を隠さない俺に
仮の名ということはあれだ。妃衣さんと同様に世を忍ぶ仮の姿という訳か。
それにしても凄い徹底ぶりだ。
「ちなみに彼女は普段もこんな感じですよ」
あ、普通にすごい人かこの人。
場の雰囲気に呑まれながらもそれでは最後にという掛け声に反応し無難な自己紹介を終えた俺。
類は友を呼ぶとかいうけど、呼ばれた友が異常すぎるとその限りでもないのかと思った今日この頃だった。
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