第39話 怠惰な日常
朝はエドワルド様と一緒に起きて、そのまま一緒に朝食を食べてから、二人をお見送り。
そのあとは、食後の休憩としてひと眠りするか、マッテオさんの後ろをついて回って。
昼食後は、晴れていたら芝生の上を一人駆けまわり、雨だったらおとなしくお昼寝をしながら、二人の帰りを待って。
そうして夕方、帰宅したエドワルド様と暗くなる直前まで外でボール遊びをするか、室内で引っ張り合いをするか。とにかく、思いっきり遊び倒して。
ほどよく疲れたところで、エドワルド様が入浴。私は疲れ具合に合わせて、扉の外で待っていたり、ソファーで寝ていたり。
そして時間になれば、食堂へと向かって。以前よりもちょっとだけお肉の割合が増したごはんを、美味しくいただいて。
私が寝るための身支度を整えられている間に、エドワルド様はフォルトゥナート公爵家としてのお仕事を終わらせて。
全て整った状態になったら、ディーノさんに連れられてエドワルド様の自室に向かって。
最後に私がエドワルド様の抱き枕になったら、一日が終了。
そんな日を、一日、二日、三日と過ごしていく内に。
私はふと、気付いてしまった。
(これ、人としてダメじゃない!?)
令嬢としては、非常に
ここ数日を振り返っただけでも、若干の衝撃を受ける。
(そもそも、まだダンスとかちゃんと踊れるかな!?)
数日どころではなく、練習をしていないことにも気が付いてしまった私は。はたして今も正確にステップが踏めるのかどうか、心配になる。
体を動かすことは苦手ではないけれど、人と合わせる必要がある以上、練習は必須なものではあるし。
それ以前に、自分がいなくなったことによるオットリーニ伯爵家の混乱は、いかほどのものなのか。
(私が本物の犬だったら、最高の日々だけど……!)
あいにくと、本来は人間の姿である身としては、何も考えず日々をただ享受することもできない。
野生生物に襲われる危険性も、食事の心配もしなくていいのは、本当にありがたいとは思うけれど。
このままでは、デビュタントを無事迎えることができないのだから。
(でも手掛かりすらないし……!)
焦る私は、とにかく毎日体を動かすことで、その不安を紛らわし。そして同時に、エドワルド様にも動いてもらうことにより、体の疲労を溜めることに成功している。
そこは、成功しているのだけれど。
「昼間に体を動かしすぎたのか? いつもよりも引く力が弱いぞ?」
「うぅぅ~~」
毎日、朝までぐっすりと眠れるようになったからなのか。ここ最近、毎日機嫌が良さそうなエドワルド様。
それに伴って、顔色もすっかり良くなって。目の下のクマも、完全になくなって。
そして、以前よりも力が強くなった。
(私じゃなくて、エドワルド様が健康になって強くなっただけなんですけど~!)
正確に言えば、これが本来の力の差なのだろう。
割と本気で引っ張っているのだけれど、びくともしないのは。本当に普段書類と向き合うお仕事をしている宰相様ですかと、問い詰めたくなる。
しかも。
「以前よりも、こうして運動なさることが増えましたから」
「エドワルド様が健康的に過ごしていらっしゃる証拠ですよ」
マッテオさんとディーノさんからすれば、エドワルド様のこの力の強さは通常らしい。
明言しているわけではないけれど、その嬉しそうな反応を見れば、大体想像はつく。
なぜかは分からないけれど、一応大型犬の姿をしている私が本気を出したところで、エドワルド様に勝てることはないだろうと。二人とも、確実にそう思っている。
ハッキリと言葉にしないのは、全員の共通認識だからなのか。それとも、私に気を遣ってなのか。
(どっちにしても、なんか悔しい……!)
人としては怠惰な生活を送り、犬としては優雅な生活を送っている、悩みの尽きない私と。
人として完璧な生活を送り、飼い主としても充実した生活を送っている、最大の悩みがなくなったエドワルド様。
出会った頃とは、ある意味で逆になってしまったこの状況も。純粋な力では、結局勝てないところも。
「楽しいな、エリザベス」
「わふぅぅぅ~」
大変無邪気に笑う、その表情に。最終的に安心して、この状況を受け入れてしまっているところも。
楽しくて穏やかな空間だからこその悔しさが、私の中にはあった。
単純に、負けず嫌いなだけなのかもしれないけれど。
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