第4話 犬の姿

 とはいえ、叫んでいても仕方がない。

 まずは現状を把握はあくするために、そっと自分の体を見下ろしてみる。


「……」


 そこにあったのは、足の先まで明らかに犬の姿をしているであろう、私の体。

 試しにそっと背中側を振り返ってみれば、白い毛並みの中にところどころ、淡いベージュの色が混ざっている。

 そして当然のように、お尻の先には真っ白でふさふさな尻尾。

 鏡がないので顔は確認できないけれど、おそらく全身余すことなく、完全なる犬の姿になっていることだろう。


「わふぅん……」


 どうするのよ、これから。

 私を犬の姿に変えた張本人は、どこかに消えてしまったし。探したくても、そもそも今自分がどこにいるのかすら分からないし。


(待って。それ以前に、急に私がいなくなったから、おば様たち心配しているんじゃ……?)


「くぅ~ん」


 優しいオットリーニ伯爵家の方々のことを思い出して、急に心細くなってしまったけれど。このままここにいても、何も進展しないのは分かってる。

 それならいっそ、一度伯爵家に向かってみてもいいかもしれない。

 森の中で迷子になると困るし、おば様たちがまだ森の中にいるかどうかも分からないんだし。

 それに、また森の魔女に出くわすのも嫌だから。


(会話はできないけど、もしかしたら保護してくださるかもしれないし)


 伯爵様を筆頭に、本当に優しい方々ばかりだから。迷い犬の可能性も考えて、一時的な保護を考えてくれるかもしれない。

 その間に、自分がアウローラであるという証拠を示せれば、一緒に元に戻る方法だって探せるかもしれないのだから。


「わふっ!」


 「よしっ!」と気合を入れ直して、私はしっかりと四本の足で立ち上がる。

 どうやったって、口からは犬の鳴き声しか出てこないし。二本足で歩くことすらできないけれど。


(森に向かうまでは、馬車の中から外の景色を眺めていたから)


 王都の中に入ってしまえば、伯爵邸までの道のりはある程度分かるはず。

 そこまでの問題は、王都の中に本当に入れるのかどうかと、まずこの森をちゃんと抜け出せるかどうかというところ。


(でも、犬ならきっと)


 私は頭を上に向けて、目に映った黒い鼻先を空に突き出す。そのままヒクヒクと鼻を動かしながら、あちらこちらへと顔を向けていれば。


「わんっ!」


 森とは違う、美味しそうな食べ物の匂い。

 これを辿っていけば、きっと人のいる場所に出るはず。そしてこの周辺で人のいる場所といえば、王都の中しかありえない。

 特に強く感じる、お肉の焼ける香ばしい匂い。これを目印にして、私は強く地面を蹴った。

 目指すは王都! オットリーニ伯爵邸!





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