第8話 いつだって悪いのは

 決行時間が来た。砂浜の上に、目的のシニミが出現する。一時間以内に倒さないと、俺は死ぬ。そうならないように、対策を考えて準備し終えた。


『作戦名は「糞シャワー」。その名の通り、あらゆる糞のボールを乱れ打ちする。汚れ切ったクソ悪夢の、脳天をブチ抜いて終わりです』


「ナイトメア本人じゃないけど、木っ端微塵にしてやりますよ」


 俺は正式入団してから、まだ一週間も経っていない。けれど、着実に親交を深められている気がする。異端だからという理由で、小馬鹿にする輩もいなくなった。

 すでに、ゼントム国民として生き始めている。これからは、他国にも足を運ぶ予定だ。だがそれを阻止しようと、悪夢はすでに動き始めている。


「まぁ、こんなことになったのは、俺のせいですけれど……これからは、安易に開けないようにしますよ」


『必要以上に落ち込むのも、身体に悪いですって。いつだって悪いのは、ナイトメア。それもこれも、クソ悪夢のせい。おれが出たら、性器も含めてズタズタにしますよ』


「前から聞こうと思っていたんですけれど、シニミに性器なんてあるんですか?」


『元は誰かの肉体ですし。機能するかは分かりませんが、ついてはいると思いますよ。でも、おれの知る限りだと。シニミのまぐわいから生まれた生物というのは、聞いたことがありません。奴ら、生きてる人たちを食いますからね』


「シニミ同士だったら、子も怪物でしょうけれど。片方が今を生きる存在だったら、半分シニミということですか。それはそれで、グロい話ですね……」


 勇者さんが会ったことが無いと言うのだから、存在しないと信じたい。奴らが繫殖するのは、強いランクがいるからだ。親玉を叩けば、消滅する。

 今から対峙するのは、どれほどの強さだろうか。時間がかかると、部下を呼ばれてしまう可能性がある。ゼントム国の住民を巻き込まないために、砂浜で仕留める。


 文章には「夜」としか書かれていなかった。何時に出現するかは分からないので、早速ソーリヒ森へ向かった。木の陰から大砲を設置し、標準を合わせる。円形の模様はそのままなので、まだ出て来ていないようだ。


『良いですか、千道。シニミが出て来る時は、模様が光ります。その瞬間、フルスロットルでブッ放してください。奴が糞まみれになり、大砲の紐が切れたら蹴り飛ばして逃げるのです。自爆する訳にはいきませんからね。騒音が収まった直後、両眼を強化してシニミを捉えて、ブッ叩きまくるだけです』


「シニミを倒した直後に、俺の呪いも解けるんですかね?」


『いいえ、あの箱の所まで戻らないといけません。まぁつまり、いつものように家へ帰れば良いのですよ』


 計画のおさらいをし、出現するのを待つ。後ろから、茂みを漁る音が聞こえた。振り向くと、猪が出てきた。内心驚いたが、声を上げずに凝視するだけに収まった。

 しばらくうろついていたが、やがてどこかへ向かって行った。後ろからは、何匹かの子供も出て来た。親について行く姿は、ヒヨコのようにも見える。


『野生の勘でも働いたのですかね。あの親子、どこか遠くへ行こうとしていやがりますよ』


「森へ侵攻されないようにしますが……爆発音には、驚かれるかもしれませんね」


 逃げる際に、驚いたクマに嚙みつかれないかが心配だ。猿のように、木を飛び移って行けば良いか。時々振り向いて、逃げ道を確認しながら待つ。

 だいぶ夜が深まって来た。周りに時計はないが、大体九時くらいだろう。影で模様が見えなくなったが、動きはしないと勇者さんが教えてくれた。


 胡坐をかき、顎を手に乗せて呆然と待機していた。視線の先にある召喚陣が、光り出した。一気に目が覚めた俺は、大砲を構える。

 最初に出てきたのは、手だった。這い上がるようにして、身体を地上に伸ばしていく。とても大きな腹を持っており、目玉はそこに埋め込まれている。誰が見ても、人間離れした姿だった。


『行け、千道! 糞シャワーを浴びせてやれ!!』


 勇者さんの合図と共に、紐を引っ張る。中にあるリボルバーが回り出し、順番に糞で出来たボールが飛んでいく。標的は大きい図体をしているので、次々と当たる。

 敵は臭いのが不快なのか、雄叫びを上げた。だが豪速球を避ける暇もなく、薄っぺらい部分には穴も開いて血が出始めた。


『良い命中率ですねぇ、千道! アイツ、糞まみれになっちまっている! あれだけ手の凝った、派手な登場をしたというのに、なんて無様なんでしょうかねぇ!! もっと凶悪な呪いじゃないと、手応えも感じませんよ! あーっははははははははぁぁぁ!! !!』


 隣で伝説の片割れが、楽しそうに煽り散らかしている。もちろん、あのシニミには聞こえていない。まだ彼の姿を見たこと無いけれど、良い笑顔を浮かべているに違いない。

「楽しそうでなによりです」と、大砲を蹴り飛ばしたと同時に、俺は歯を剝き出しにして微笑んだ。

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