第6話 マヌケなんですか
夜になったので、ソーリヒ森へ向かう。ここら一帯は住宅地から離れているので、人も歩いていない。街灯もないので、頼りになるのは月明かりだけである。
スマホはあるが、ライトを使いながら歩くと視野が狭くなるので、却下した。梟の鳴き声を聞きながら、少しずつ進む。
『暗いですね。シニミが隠れているかもしれません』
「遭遇したらブチのめします。取り合えず、一番奥まで行きます」
案の定、小さい怪物たちが背後から襲って来た。しかし茂みから出てきた音が聞こえたので、首を傾げて攻撃を避ける。そのまま振り向いて、テレスコメモリーで殴る。歪な形なのに、どれだけ勢いよく叩いても割れないのが不思議だ。
シニミを排除しながら、最深部まで目指す。この森には遺跡らしき形をした岩や、とても巨大で中が空洞になっている倒木、急な雨が来ても凌げそうな洞穴がある。
「意外と広いですね。迷っちゃいそうです」
『道はおれが覚えているので、安心してください。ここにあるリンゴは、誰でも取って良いんですよ。千道が好きな果物って何です?』
「マスカットです」
『高級ですねぇ』
リンゴも好きなので、帰りに取っていくことにした。洗って食べるのも好きだが、どうせなら調理をしたいと思った。レットゥギャザーに行ったら、レシピブックでもあるだろうか。
ちなみに、勇者さんは苺が好きだと話してくれた。ケーキの上に乗っている、大きな粒を食べるのが楽しみらしい。この武器から出てきたら、お祝いとしてホールケーキを買ってあげると約束した。
先を見ると、木が無くなっていた。森を抜け出した先には、海が広がっていた。目的地まで辿り着いたようだ。とはいえ、目ぼしいモノは何もない。検討違いだっただろうかと思い、戻ろうと背を向ける。
『千道。あれを見てください』
「どこです?」
『崖の下……砂浜です』
言われるがままに見下ろすと、波が押し寄せている地面が見えた。落書きも消えるのが普通なのに、全く消える気配が無い模様が浮き出ている。
円形で細かく文字が入っており、中心に向かって集中線が入っている。どう見ても、何かが出て来る予兆しかない。
『あそこに出るようですね。先に見つけたので、対策するだけです』
「あんなに分かりやすいなんて……ナイトメアって、実はマヌケなんですかね?」
『そうですし、千道を全般的に見下してやがるんでしょう。ルージャ山の一件も、単なるまぐれだと思ってやがる。雑魚を召喚させて倒そうとしているのが、なんとまぁ愚かなことか。返り討ちにしてブッ潰したら、多少は面食らうでしょうね』
クツクツと笑う伝説の片割れから、どこか殺気めいた気配を感じる。ショーダウンの効果は、箱が大きいほど上がるらしい。俺が開けたのは小さかったので、相対的に弱いという推測が立てられる。
「やっぱり、どこかで監視しているんですかね……?」
『本人じゃなくとも、部下がやっている可能性はありますね。知能も、素晴らしく発達してやがるでしょうし。それに加えて、奴を信仰している集団もいやがるでしょう』
「あの極悪夢が、神様のように見えているってことですか? 盲目になると、恐ろしいことしか起きませんね」
その人たちも、いつか俺に襲いかかって来るだろう。出来れば関わりたくないが、必然的に無理な話だろう。けれど、今の俺には勇者さんがいる。茶寓さんが支えてくれる。それだけで、どこへでも行けそうな気がしている。
丸分かりの推理を解き終わったが、油断大敵である。この国には出現しないシニミだろうから、一時間以内に倒せる方法を模索する。
「砂浜から出て来ると考えると、住宅地には行かせたくないですね。というか、森林破壊も阻止したいです」
『そうですね。せっかく平和になって来ているのに、また知らないシニミが出てきたら大騒ぎでしょう。良い迷惑ですよねぇ、クソ悪夢の分際で。千道の怪我も極小にすると考えると、ここから攻めるのが一番ですね』
崖の上から何かを投げつけるのが、最善策だと勇者さんは話す。しかし、俺は魔力砲を飛ばせないので、殴るには近づかないといけない。そう言うと、望遠鏡から笑い声が聞こえた。
『千道。なにも君が近づかなくとも、攻撃する方法なんていくらでもありやがります。例えば、ここから馬の糞を投げつけるとか』
「なるほど……! 馬ではなくて鶏ですが、糞は一袋分あります!」
『庭の整備はまだかかるでしょうし、今回はこっちに使いますか。ドサドサと落とすか、ボール状にして投げるか……迷いますね』
後者を「勢いがあるという点」で、採用した。召喚された瞬間に落とされたら、起き上がれもしないだろう。しかし、この方法だと袋一個分だと足りないのも明白だ。報酬として、住民からおすそ分けしてもらうことにした。聞いてくれるように、説得するのが肝となりそうだ。
『ふふ……あのゴミ野郎が糞まみれになると考えると、一日中は笑い転げれますよ』
「いや、今回はナイトメア本人じゃないですよ?」
『おれは、全てのシニミが奴だと思っています。そうでもしないと、恨みを全力でぶつけられませんから。とはいえ、ずっと負の感情をまとっていると心身ともに壊れちまいますからね。英雄の笑顔を思い出して、勇気をもらっていますよ』
「勇者さんは、本当に英雄さんが大好きなんですね。良い人なんだろうと、俺でも分かりますよ」
『えぇ。語ろうと思えば、三百六十六日ノンストップで出来ますよ。まぁ、それはナイトメアを倒した後にしますが』
彼の口から、どんな話が出て来るのだろうか。俺には想像もつかないことしか、やってこなかったのだろう。不思議と苦痛には思わなかったのも、英雄さんの力だと信じてしまった。
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