第5話 隠れた才能
パソコンを開き、フィデスを立ち上げる。DVC自体には、最新のネットワークが搭載されている。けれど、俺の家は少し離れているからなのか、絶望的に回線が届いていない。ようやく立ち上がったので、ゼントム国内に絞る。基本的に、冷やかし以外は全て引き受けている。本日は、十四件だった。
中でも一番多いのは、シニミ討伐。危険地帯が消えたからと言って、完全に消滅する訳ではない。どこから出てきているのかは、まだ分からない。取り合えず、毎日鉢遭うのは勘弁したい。
国民たちも度胸があるので、モップやタンスを投げつけている。しかし彼らには、元からやることがあるだろう。怪物たちを倒すのは、俺の仕事である。
決意のソウル――――
右手に魔力を宿し、ランク『2』であるミージを殴る。折れた鉛筆のような形をしている奴は、真ん中を狙うと一撃で倒せる。今回は二体いたので、まとめて相手になってやった。
「うおー! スゲーな、チユキ!」
「ありがとう、スエナリ! これやるよ!」
報酬品である、シャルバナの種をもらった。家の周りを整備すれば庭になりそうなので、時間が出来たら植えてみようかと考えた。依頼人に手を振りながら、次の場所に行く。
狭い国と言えど、歩いたことが無ければ迷子になる。そうならないように、スマホでマップを見て確認する。ちなみに、茶寓さんからの連絡は来ていない。総団長である彼は、やはり忙しいのだろうか。
次の依頼は、ペンギンの整列確認である。ホイッスルを鳴らして、岩場を一周させるのだ。この仕事をしているお爺さんは、最近腰を痛めたらしい。飼っている訳ではないが、それなりに面倒を見てあげているようだ。
波が来ると飲まれやすいので、潮が引いているかを確認しながら進む。岩が削れて出来た下り坂まで行くと、順番に腹で滑り出して泳ぎ始める。二匹同時に出発したら、番なのだろうと思っている。明後日の方向に尻を向けたら、糞を発射する合図なのだと知った。
「ほっほっ。ブッ放すのには、勢いがあるよなぁ。服にかからなかったかな?」
「はい、なんとか避けました。……海の中には落ちたけれど」
「おお、どうりで頭にワカメとヒトデを乗っけている。どれ、お礼に『洗濯魔法』をかけてやろう。あと、アプリに書き込んだモノもあげよう」
頭を撫でられた犬のように、頭を振り回す。水しぶきと共に、海藻たちは海へと吹き飛んだ。手を出してくれと言われたので、言われた通りにする。乗せられたのは、ペンギンの形をした岩だった。彫刻刀を使って、精巧に作り上げたと老人は話す。
お礼を言って、家に持ち帰った。談話室の机の上に置くと、とても浮いてしまった。部屋が綺麗になれば、相応の輝きを放てるだろう。
「依頼も兼ねて放浪できるなんて、幸せだなぁ~」
『呪われているのに、ずいぶん元気になりましたね』
「勇者さんの言う通り、どうにかなるって思っておこうかなって」
未だに、両目が見えるのは眩し過ぎる。目標のシニミを倒したら、それも終了するだろう。勇者さんに、この姿の写真でも撮ったらどうかと言われたので、記念に撮ることにした。自撮りはしたことないので、住民に頼んでシャッターを切ってもらう。
「どうでしょう、綺麗に撮れたと思います……!」
「本当だ、全身映っている。ありがとうございます!」
女性にお礼を言い、仕事の再開をしようとする。どこからか、悲鳴が聞こえた。駆けつけてみると、ランク『3』のドロタウスが出現していた。周りには部下がいて、住民たちは近づけない。
テレスコメモリーを構え、一気に詰め寄る。まずはランク『1』を一掃してから、元凶の脳天を上から叩く。断末魔と同時に、泥が広まっていく。それにも怯まず、もう一撃食らわせる。
全ての化け物が消滅したので、住民たちに知らせる。遭遇率がたったの五パーセントである存在は、対処できなくて当然だろう。汚い液体に触れて皮膚が焼け落ちたが、住民が『回復薬』を渡してくれたので治った。
今のは突発だったが、負傷者が出なかったことに安堵する。くいっと裾を引っ張られたので、下を向く。そこには、男の子がいた。俺をまじまじと見上げているので、目線を合わせるようにしゃがむ。
「なぁなぁ、俺も強くなれる?」
「うん。魔力が無い俺が言うから、間違いないよ」
「うおー! 頑張るぞーー!」
少年は、どこかへ走っていった。彼の友人らしき子供たちも、「待ってー!」と言いながら追いかけていく。特訓でもするのだろうか。不安な気持ちは、背中を押されたら消える。これは、純粋な思想を持つ人の特権だろう。水を差すような行為はしたくない。
『千道は凄いですね。ゼントム国の住民と、すでに仲良くなっている。君って実は、溶け込むのが得意な方なのでは?』
「そうなんですかね? 向こうではマトモに会話した経験がないから、何とも言えません。けれど、それが本当だったら……いわゆる、隠れた才能って奴ですかね!」
確かに、俺は会話をすること自体には嫌悪を抱いていない。ただ、相手の気持ちを汲み取れない時が、あまりにも多かった。それだけのことなのだが、ずっと続くと気が滅入ってしまう。依頼人と仲良くなれるのは、とても心地が良い。
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