「紅蓮の女官」

第45話 動き出す陰謀

　楊大人の陰謀が静かに進行していることを知った玲蘭は、宮廷内で一層の警戒を強めていた。彼女に対する陰謀が涼王の立場にも悪影響を及ぼす可能性があると感じたからだ。涼王を守るため、そして自分自身を守るため、玲蘭は賢明に立ち回らねばならない。

　ある日、玲蘭は涼王の執務室で報告書を整理していたが、ふと心の中で何かが引っかかっていた。楊大人が何か大きな策を仕掛ける準備をしているのではないかという不安が頭をよぎる。

　その時、涼王が部屋に入ってきた。彼は玲蘭の隣に立ち、書簡を手渡しながら彼女の顔を見つめた。

「玲蘭、今日は何か様子がおかしいな。考え事をしているように見えるが、何かあったのか？」

　玲蘭は涼王に心配をかけたくないと思いつつも、彼には隠し事はできないと感じ、素直に口を開いた。

「楊大人の動きが気になります。彼が私を失脚させようとしているのは明らかですが、その計画が具体的にどのようなものなのか、まだ把握できていません……」

　玲蘭の声には、不安と緊張が混ざっていた。涼王は一瞬表情を曇らせたが、すぐに玲蘭に優しく語りかけた。

「君が心配するのも無理はない。だが、私は君を信じている。何があっても、君を守ると約束しただろう？」

　涼王のその言葉に、玲蘭の心は少しだけ安堵した。だが、彼女の中で湧き上がる警戒心は消えなかった。涼王を守るためにも、自らが冷静に対応しなければならないという責任感が強くあったからだ。

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　その日の午後、玲蘭は涼王の指示で大広間に向かい、宮廷内の会議に参加していた。彼女は重臣たちの視線を感じながらも、涼王の隣で毅然とした態度を崩さずにいた。

　すると、会議が始まって間もなく、楊大人が立ち上がり、涼王に向かって深く一礼した後、静かに口を開いた。

「陛下、失礼ながら一つ申し上げたいことがございます」

　涼王は表情を変えずに楊大人を見つめ、その言葉に耳を傾けた。楊大人は落ち着いた様子で続けた。

「玲蘭殿は確かに優秀な女官であり、陛下に多大な助力をされております。しかし、近頃の宮廷内の噂では、彼女が陛下に対して不正な影響を与えているという声が上がっております。これは、宮廷内の均衡を崩す恐れがあるかと存じます」

　その言葉が広間に響いた瞬間、重臣たちの間にさざ波が立った。玲蘭はその言葉を聞きながらも、冷静さを失わないように心を落ち着けていた。

（ついに動き出した……）

　楊大人の言葉は、玲蘭を失脚させるための第一歩であり、その策略の一部であることは明らかだった。

「楊大人、それは一部の噂に過ぎません。玲蘭は私に対して、忠実かつ誠実に仕えてくれている。彼女を疑う理由など何もない」

　涼王の冷静で力強い言葉が広間に響いた。彼は玲蘭を全面的に信頼し、その信念を誰にも揺るがせることはなかった。

　しかし、楊大人は微笑を浮かべながら、さらに言葉を続けた。

「陛下のおっしゃる通り、ただの噂に過ぎないかもしれません。ですが、玲蘭殿がこれほどの影響力を持つようになった今、何か問題が生じれば、宮廷全体に混乱を招く恐れがあります。慎重に対処されることをお勧めいたします」

　楊大人の言葉には明らかな挑発が含まれていた。玲蘭はその場で涼王に視線を送った。彼がどう反応するかによって、彼女の立場が今後大きく左右されることは明らかだった。

　涼王は一瞬だけ目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。

「楊大人、君の忠告には感謝する。しかし、私は玲蘭を信頼している。彼女を失脚させようとする者がいれば、それは私に対する挑戦であることを忘れてはならない」

　涼王の言葉に、広間は静まり返った。楊大人もまた、涼王の決意に圧倒され、言葉を失っていた。玲蘭はその時、涼王の信頼が自分に向けられていることを改めて実感した。

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　会議が終わった後、玲蘭は涼王と二人きりで話す機会を得た。彼女は涼王の強い意志に感謝しつつも、自分が彼に迷惑をかけているのではないかという不安を感じていた。

「陛下、今日の件で、私はますます敵を作ってしまったかもしれません。どうか私が原因で、陛下に負担をかけたくないのです……」

　玲蘭は涼王に向かって静かにそう言った。しかし、涼王はすぐに玲蘭の手を取って優しく答えた。

「玲蘭、君は何も間違っていない。君を守ることが、私にとって最も重要なことだ。宮廷の陰謀に負けるつもりはない。君と共に戦う」

　涼王のその言葉に、玲蘭は胸が熱くなった。彼女は、涼王が全力で自分を守ろうとしてくれていることに感謝し、同時に彼を支えるためにもっと強くなりたいと思った。

「陛下、ありがとうございます。私は陛下のお傍で、これからも支えていきます」

　玲蘭の決意は固まり、彼女はこれからも涼王と共に宮廷内の困難に立ち向かう覚悟を新たにした。