第43話 圧力と信頼の狭間

 宮廷での日々が続く中、玲蘭は涼王のそばでその務めを全うしていた。だが、彼女に対する宮廷内の嫉妬と不満は日に日に強まっていた。特に、玲蘭が涼王の信頼を得ていることに反発する者たちは、彼女を排除しようと陰で動き始めていた。


 その日、玲蘭は涼王に同行して執務を手伝っていたが、重臣たちとの議論が終わった後、彼女を呼び止める一人の官僚がいた。彼は宮廷内でも特に影響力のある人物で、その冷ややかな視線が玲蘭に注がれた。


「玲蘭殿、少しお話ししたいことがあるのだが、お時間をいただけますか?」


 彼の丁寧な言葉遣いに隠された鋭い意図を感じながらも、玲蘭は一礼して彼の言葉に応じた。


「はい、何でしょうか?」


 玲蘭が静かに答えると、官僚は彼女を人目の少ない庭の片隅に誘った。涼王がその場にいないことを確認した上で、彼は低い声で語り始めた。


「君が涼王陛下に信頼されていることは誰もが知っている。しかし、君の立場を考えると、あまりにも影響力を持ちすぎるのではないかと懸念している者がいるのだ」


 その言葉は、明確に玲蘭への警告であった。玲蘭は心の中で緊張が走るのを感じながらも、表情を変えずに彼の言葉を聞き続けた。


「私は、ただ陛下に忠誠を尽くし、そのお力添えをしているだけです。私自身の影響力など考えておりません」


 玲蘭の言葉には揺るぎない誠実さがあったが、官僚はその答えに満足していない様子だった。


「それならば、君がもっと控えめに振る舞うことを勧める。陛下を支える存在として、これ以上、宮廷内の均衡を乱すことは避けるべきだ」


 官僚の声には、玲蘭に対する明確な警告が含まれていた。彼は玲蘭が涼王に近づきすぎることが、宮廷内での勢力争いに影響を及ぼすことを恐れていたのだ。


 玲蘭はその言葉をしっかりと受け止め、冷静に一礼した。


「ご忠告ありがとうございます。しかし、私は涼王陛下の信頼に応えるために、これからも尽力する所存です」


 玲蘭の言葉は、強い決意と共に伝えられた。官僚はそれ以上追及することなく、軽く頷いてその場を去ったが、その後ろ姿にはまだ不満が残っているようだった。


(これから、私の立場はさらに厳しくなる……だが、私は引き下がるわけにはいかない)


 玲蘭はその場で深呼吸をし、自らの心を再び強く奮い立たせた。涼王を支えるために、彼女はどんな圧力にも屈しない覚悟を固めた。


 ---


 その夜、玲蘭は涼王の元へ戻り、日々の報告をしていた。涼王は彼女の様子を見て、何か心に引っかかるものがあると感じたようだった。


「玲蘭、今日の様子は少し違うな。何かあったのか?」


 涼王の優しい言葉に、玲蘭は一瞬迷ったが、最終的には素直に答えることにした。


「実は、宮廷内で私が陛下のお側にいることを不満に思う者が増えているようです。私は、陛下のために尽力しているだけですが、それが周囲にとって好ましくない影響を与えているかもしれません」


 玲蘭の声には心配の色がにじんでいた。彼女は、涼王に迷惑をかけることを恐れていた。


 しかし、涼王はそんな玲蘭の不安を包み込むように、落ち着いた声で答えた。


「玲蘭、心配することはない。私が君を信頼している限り、誰にもその信頼を揺るがすことはできない」


 涼王の言葉は、玲蘭の心をすぐに落ち着かせた。彼の信頼が自分にある限り、何も恐れることはないのだと、彼女は再び確信した。


「ありがとうございます、陛下。私は陛下のお傍で、これからも力を尽くしてまいります」


 玲蘭は涼王の言葉に感謝しながら、再び強い決意を固めた。


 ---


 その後、涼王と玲蘭は宮廷内の静かな庭を歩いた。夜空に浮かぶ月が二人を照らし、その穏やかな光が周囲を優しく包んでいた。


「玲蘭、君が私のそばにいることで、私は強くなれる。君がどれほどの力を持っているか、誰よりも私が理解している」


 涼王の言葉には、玲蘭への深い感謝と信頼が込められていた。彼女はその言葉に胸がいっぱいになり、涼王の隣に立つことがどれほど自分にとって重要かを改めて感じていた。


「私は、陛下のために……これからもどんなことがあってもお傍におります」


 玲蘭の言葉には、迷いのない強い意志が宿っていた。彼女は涼王と共に歩むために、どんな困難にも立ち向かう覚悟ができていた。

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