第37話 静寂の中で交わす言葉
ならず者たちが撤退した後の蓮華の市は、一時的に静けさを取り戻していた。戦いの喧騒は収まり、街にはほのかに安堵の空気が漂い始めていたが、その裏では人々の疲労と不安が見え隠れしていた。
玲蘭は警備隊の報告を受けながら、市内の被害状況を確認していた。いくつかの建物は破壊され、人々の生活が脅かされている。しかし、予想以上の被害が出なかったのは、警備隊の迅速な対応のおかげだった。
「皆、お疲れさま。市民を守り切れたのは、皆の働きがあってこそだわ。ありがとう」
玲蘭は、隊員たちに感謝の言葉をかけた。彼らは疲れ切っていたが、満足そうに頷いた。
(これで、少しの間でも平和が戻った……)
玲蘭はそう思いながらも、ならず者たちが再び襲ってこないという保証はないことを理解していた。彼女の心の中には、今後の街の防衛についての考えがぐるぐると回り続けていた。
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その夜、玲蘭は一息つく間もなく、涼王に呼ばれた。彼の滞在している邸宅に足を運び、部屋に通されると、涼王は静かに待っていた。彼の姿を見た瞬間、玲蘭は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「陛下、お呼びでしょうか」
玲蘭が深く一礼すると、涼王は窓辺に立ったまま、彼女に微笑みかけた。
「来てくれてありがとう、玲蘭。座ってくれ」
涼王の声には優しさがあり、その一言で玲蘭の緊張は少し和らいだ。玲蘭は彼の言葉に従い、静かに席に座った。
涼王はしばらく沈黙を保っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「今日、君と共に戦ったことで、私は改めて思った。君はこの街にとって、私にとって、欠かせない存在だ」
玲蘭はその言葉に戸惑いを覚えた。彼女の中には、自分がただの女官に過ぎないという思いが常にあったからだ。
「陛下……私はただ、務めを果たしただけです。私にできることは限られています」
玲蘭は少し視線を落としながら答えた。しかし、涼王はその言葉に反論するように、彼女をじっと見つめた。
「違う。君がどれほど強く、そして賢明であるかを私は見てきた。君はただの女官ではない。君の力が、私やこの国を支えることができる」
その言葉に、玲蘭の胸は大きく揺れた。涼王が彼女をただの部下としてではなく、もっと特別な存在として見ていることが明確だった。しかし、玲蘭はその感情を受け入れることができずにいた。
(私は陛下のそばにいることができるのだろうか……?)
玲蘭の心の中には、涼王への強い想いが次第に芽生え始めていたが、彼女はその感情を素直に受け入れることをためらっていた。彼は皇帝であり、自分はあくまで一介の女官。そんな自分が彼の隣に立つ資格があるのかという疑念が、玲蘭の心を縛りつけていた。
「陛下、私は……ただの女官です。これ以上、陛下のお側にいることは……」
玲蘭がそう口を開きかけた瞬間、涼王は彼女の言葉を静かに遮った。
「玲蘭、私は君に何度も伝えている。君が私にとってどれほど特別な存在かを。もうその事実を否定しないでほしい」
涼王の真剣な言葉に、玲蘭は思わず息を呑んだ。彼の瞳には揺るぎない信念と優しさが宿っており、それが玲蘭の心を強く揺さぶった。
「陛下……」
玲蘭は何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。ただ、涼王の言葉を胸に刻み込み、その場に静かに佇んでいた。
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その時、部屋の外で護衛が控えめに声をかけた。
「陛下、失礼いたします。急な報告がございます」
涼王は玲蘭に一瞥をくれ、静かに護衛に向き直った。
「何があった?」
「ならず者たちが撤退した後、再び街の外で動きがあるようです。彼らが再集結し、さらなる襲撃を計画している可能性があります」
報告を受けた涼王は険しい表情を浮かべた。玲蘭もすぐに緊張が走り、次の対策を考え始めた。
「玲蘭、君と共にこの街を守るための準備を進めなければならない。敵はすぐに動くだろう」
涼王の言葉には決意が込められており、玲蘭もまた気持ちを引き締めた。
「わかりました、陛下。すぐに対応に動きます」
玲蘭はその場を離れ、警備隊に次の指示を出すために立ち上がった。
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玲蘭が邸宅を出た後、涼王は一人静かに窓の外を見つめた。彼の心の中には、玲蘭に対する特別な感情がますます強く根付いていた。
(私は……彼女を守らなければならない。そして、この国を……)
涼王は心の中で玲蘭への想いを抱きながら、同時に皇帝としての責務を強く感じていた。彼にとって、玲蘭はもはや単なる女官ではなく、共に未来を築いていく存在となりつつあった。
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