第38話 迫り来る嵐

 蓮華の市に戻った玲蘭は、警備隊を集め、再びならず者たちの襲撃に備えるための準備を整えていた。彼女の顔には、戦いへの覚悟が宿っている一方で、涼王への複雑な感情も胸中に渦巻いていた。


(陛下のそばにいることが、私の使命だ……でも、それ以上を望んでしまっていいのだろうか?)


 玲蘭は自分に問いかけながらも、涼王に対する強い想いを抑えきれない自分に気づいていた。彼の言葉、そして彼の隣に立つ度に、彼女の心は揺れ動く。


「玲蘭、次の防衛体制は万全にする必要がある」


 涼王が静かに彼女の横に立ち、指示を出す声が聞こえた。玲蘭は彼を見上げ、その鋭い眼差しの中に信頼と決意を感じた。


「はい、陛下。すでに警備隊と連携し、周囲の見張りを強化しています。敵が再び襲ってきたとしても、前回のような状況にはならないよう、全力で備えています」


 玲蘭の声は自信に満ちていた。涼王も彼女の報告に頷き、彼女の成長と力強さを感じ取った。


「君がいてくれて、私も安心して戦いに臨める。だが、無理はするな。君が倒れたら、この街も、私も立ち行かなくなる」


 涼王のその言葉に、玲蘭は一瞬胸が熱くなった。彼が自分を大切に思ってくれていることを強く感じる一方で、自分もまた涼王を守りたいという思いがさらに強くなっていく。


 ---


 夜が深まるにつれ、街の中には静寂が広がっていた。しかし、その静けさの裏には、戦いの前の緊張感が漂っていた。ならず者たちが再び攻撃を仕掛けてくることは間違いない。警備隊は緊張した面持ちで、街の各所に配置され、常に周囲に目を光らせていた。


 玲蘭もまた、涼王のそばで警備の状況を確認しつつ、自らの剣を手にしていた。


「玲蘭、少し話せるか」


 涼王が突然静かな声でそう言った。玲蘭は驚きつつも、彼の真剣な表情を見てすぐに頷いた。


「もちろんです、陛下」


 二人は少し離れた静かな場所に向かい、短いながらも二人きりの時間が訪れた。涼王は夜空を見上げながら、玲蘭に語りかけた。


「私は、皇帝としての役割を果たさねばならない。だが、君の存在が今、私にとってどれほど大きいかを否定することはできない。君が私の傍にいることで、私は自分の使命を全うできていると感じている」


 玲蘭は涼王のその言葉に、心を強く揺さぶられた。彼の本心が、隠しきれない形で伝わってくる。彼女にとっても、涼王はただの主君ではなく、かけがえのない存在になりつつあった。


「陛下……私は、これまで陛下に忠誠を尽くすことが私の全てだと思っていました。ですが、今は違います。私は、陛下を守りたいと心から思っています」


 玲蘭の声には、迷いが消え、涼王に対する強い思いが込められていた。彼女は涼王のために命を懸ける覚悟ができていた。


 涼王は玲蘭の言葉に微笑みを浮かべ、そっと彼女の肩に手を置いた。


「玲蘭、お前がいてくれて、私は救われている。私もまた、君を守る。これからも、共に歩んでくれるか」


 その言葉は、涼王の真剣な想いを表していた。彼の心には、玲蘭に対する信頼と愛情が確かに存在していた。


 玲蘭はその言葉に、胸が熱くなり、涙がこみ上げてくるのを感じた。しかし、彼女は強く頷き、涼王の前でその涙をこらえた。


「陛下、私はどこまでもお供します。陛下のお傍で、この国を守り続けます」


 玲蘭の声は確かで、二人の間には確固たる絆が築かれた。


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 その時、遠くから再び騒がしい音が聞こえてきた。ならず者たちが再び攻撃を仕掛けてきたようだった。涼王と玲蘭はすぐに顔を引き締め、戦いの準備に戻った。


「陛下、すぐに皆に知らせます!」


 玲蘭は急いでその場を離れ、警備隊に指示を出した。涼王もまた、剣を握り、戦いに備える姿勢を整えた。


「今夜もまた、共に戦おう」


 涼王が玲蘭にそう言い、二人は再び立ち上がった。


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 夜空の下、戦いの火花が再び散り始めた。ならず者たちの動きはさらに激しくなっていたが、玲蘭と涼王は共に立ち向かう覚悟を決めていた。


(私は陛下を守る……そして、この街を守り抜く)


 玲蘭の決意は固く、涼王の隣で戦うことが、彼女にとって最も大切な使命であると感じていた。

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