第27話 試練の影

 玲蘭と琳音が蓮華の市での日々を共に過ごしてから、数週間が経った。二人は市場での生活にも慣れ、お互いに助け合いながら、街の人々とも次第に打ち解けていった。琳音は商売に少しずつ慣れ、玲蘭も新たな生活に適応し、街での平穏な時間が流れていた。


 しかし、そんな平和な日々の中、街には不穏な影が忍び寄っていた。貿易が盛んになるにつれて、蓮華の市には盗賊やならず者たちが増え、商人たちの間で警戒心が高まっていた。彼らは、無防備な商人を狙い、物資を奪い去っていくことが増えていたのだ。


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 その日、玲蘭と琳音は市場で一日の仕事を終え、帰路につこうとしていた。夕暮れが街を染め、商人たちが店を閉め始める中、二人は笑いながらその日の出来事を話していた。


「玲蘭、今日はたくさんの品物が売れて良かったわね!」


「ええ、琳音のおかげよ。あなたの商才には驚かされるわ」


 二人がそんな風に楽しく話していると、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。二人は立ち止まり、声の方に目を向けると、数人の男たちが商人たちを取り囲んでいるのが見えた。


「どうしたんでしょう……」


 玲蘭が様子を見守っていると、その男たちが無理やり商人から荷物を奪い取り、馬車に積み込んでいる姿が目に入った。


「盗賊……!」


 琳音が驚いた声を上げた。街で噂になっていた盗賊たちが、目の前で商人を襲っていたのだ。


「私たちも、気をつけないと……」


 琳音が警戒しながら言ったその時、盗賊の一人が玲蘭たちに目を向け、ニヤリと笑った。


「おい、あの二人もだ!さあ、こっちに来い!」


 盗賊たちは玲蘭たちにも手を出そうと近づいてきた。琳音は怯えて後ろに下がったが、玲蘭はすぐに前に出て、盗賊たちを睨みつけた。


「やめなさい。これ以上、無関係な人々を巻き込むのは許されない」


 玲蘭の声は冷静で力強かった。だが、盗賊たちはその言葉に耳を貸すどころか、ますます彼女たちに迫ってきた。


「何だ、こいつは。女が偉そうに!さあ、おとなしく荷物を渡せ!」


 盗賊たちは武器をちらつかせながら、玲蘭に向かって手を伸ばした。琳音は後ろで怯えていたが、玲蘭はその場を動じることなく、盗賊たちに立ち向かった。


「ここは、私が何とかするわ」


 玲蘭は静かに琳音に言い残すと、盗賊の一人が振り下ろした手を素早く避け、その勢いで男の腕を掴み返した。


「お前……!」


 盗賊が驚いた隙に、玲蘭は彼の手首をひねり、武器を地面に落とさせた。彼女の動きは素早く、後宮で培った鍛錬の成果がはっきりと現れていた。


「この街で、悪事を働くのはもう終わりにしなさい」


 玲蘭は低くそう告げると、次々に近づいてくる盗賊たちに対しても的確な動きで対処していった。彼女は後宮での戦いを思い出しながら、次々に盗賊たちを倒していく。


 琳音はその光景を息を飲んで見守っていた。玲蘭がこれほど強い人物であることを、彼女はまだ完全に理解していなかったのだ。


「玲蘭、すごい……」


 玲蘭は全ての盗賊たちを無力化し、辺りが静かになった。彼女はゆっくりと立ち上がり、琳音に向かって微笑んだ。


「もう大丈夫よ。彼らは二度とこの街で悪事を働けないでしょう」


 琳音は感動した様子で玲蘭に近づき、深く頭を下げた。


「玲蘭、本当にありがとう……こんなことができるなんて、あなたはただの旅人じゃないわね」


 玲蘭は少し恥ずかしそうに微笑みながら、琳音の肩に手を置いた。


「私には、かつての生活で学んだことがたくさんあるの。それが今、役に立って良かったわ」


 二人はその場を離れ、街の警備隊に盗賊たちを引き渡した後、再び市場を歩き出した。


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 その夜、玲蘭と琳音は静かな宿屋で食事を取りながら、昼間の出来事について話していた。


「玲蘭、どうしてあなたはあんなに強いの?あなたの過去を聞けば聞くほど、不思議な気持ちになるわ」


 琳音は興味深そうに玲蘭を見つめながら尋ねた。玲蘭は一瞬迷ったが、彼女に心を開き、少しずつ自分の過去を話すことにした。


「私は、もともと後宮で涼王陛下に仕えていたの。そこでは、常に周囲の陰謀や危険と向き合わなければならなかった」


 玲蘭の言葉に、琳音は目を丸くした。


「後宮に……!すごい、そんな大事な役目を果たしていたなんて、全然想像できないわ」


 玲蘭は微笑みながら続けた。


「でも、今はそれを超えて、自分の道を探しているところよ。今の私には、まだ何が本当に自分にとっての道なのか、わからないけれど」


 琳音は静かに頷き、玲蘭の言葉に共感を示した。


「私も、自分の道を探している最中よ。商人として成功したいけれど、それが本当に私のやりたいことなのか、正直わからないの。でも、こうして玲蘭と出会えて、私も少しずつ成長している気がするわ」


 二人はお互いの気持ちを打ち明け合い、友情をさらに深めていった。玲蘭は自分一人ではなく、こうして支え合える仲間がいることに感謝の気持ちを抱いた。


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 その夜、玲蘭は宿屋の窓から外を見つめながら、今日の出来事を思い返していた。盗賊たちに立ち向かった時、彼女は自分の過去を思い出しつつも、今の自分がどれだけ成長したかを実感していた。


(私の力は、誰かを守るためにある……)


 玲蘭は再びその思いを胸に刻み、自分の進むべき道をもう少しだけ、はっきりと見つけられたような気がした。

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