第26話 新たな出会い
玲蘭が「蓮華の市」での生活に少しずつ慣れてきた頃、彼女はこの街での生活にますます魅了されていた。商人たちの活気、異国から訪れる旅人たちとの交流、そして街の中で交わされる多様な価値観に触れることで、玲蘭は自分自身が広い世界に生きていることを実感していた。
(この世界には、私が知らないことがまだまだたくさんある)
玲蘭はこれまでの後宮の狭い世界から飛び出し、さらに広い視野で物事を見つめるようになっていた。そして彼女は、この街でどのようにして自分の役割を見つけていくのかを考え続けていた。
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ある日、玲蘭が市場を歩いていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。彼女が声の方に近づいてみると、そこには強そうな男たちに囲まれた若い女性が立っていた。彼女は商人に詰め寄られ、何かを巡って口論になっているようだった。
「嘘をつくな!お前がこの品を盗んだに違いない!」
商人が大声で怒鳴り、その女性に詰め寄った。
「盗んだんじゃない!それは私が自分で買ったんだ!」
女性は必死に自分の無実を主張していたが、周囲の男たちは彼女の言葉を信じていない様子だった。
(また誰かが誤解されている……)
玲蘭はすぐにその場に駆け寄り、商人たちに向かって声を上げた。
「待ってください。彼女が何をしたのか、もう少し詳しく話を聞くべきではありませんか?」
玲蘭の冷静で堂々とした態度に、周囲の商人たちは一瞬驚いたように目を見張った。
「何者だ、お前は?」
「私はただの旅人です。でも、人をすぐに疑うのは良くないと思います」
玲蘭の毅然とした態度に、商人は少しずつ冷静さを取り戻し、しぶしぶ話を続けた。
「この女が、私の店から高価な品物を盗んだんだ。それを見たやつもいる」
商人は、盗みを働いたという証拠があると主張したが、玲蘭はその言葉に違和感を感じた。彼女は若い女性の顔をじっと見つめたが、その表情には怯えはあるものの、嘘をついている様子はなかった。
「本当に彼女が盗んだのかどうか、きちんと確認するべきです。ここで早合点してはいけません」
玲蘭がそう言うと、周囲にいた人々も次第に興味を持ち、騒ぎは少しずつ収まり始めた。
「盗んだなんて、絶対にない!私はこの街に来たばかりで、そんなことをする理由なんてないわ」
若い女性の言葉に、玲蘭はさらに疑いを抱かなくなった。彼女は何かの誤解で巻き込まれてしまっただけのようだった。
「では、もう少し冷静に話をして、真実を明らかにしましょう。証拠があれば、それを見せていただきたい」
玲蘭の提案に商人たちはしぶしぶ同意し、騒動は収まった。その後、状況を詳しく調べた結果、女性は無実であることが判明し、商人も彼女に謝罪することになった。
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騒動が収まった後、若い女性は玲蘭に深く頭を下げた。
「助けてくれてありがとう……本当に困っていたんだ」
玲蘭は優しく微笑み、彼女に手を差し伸べた。
「大丈夫よ。誤解が解けてよかったわ。でも、どうしてこの街に?」
女性は一瞬躊躇したが、玲蘭の優しさを感じ取り、少しずつ話し始めた。
「私の名前は琳音(りんね)。この街に来たばかりで、商人として働こうと思っていたんだけど、うまくいかなくて……」
琳音は、貿易の仕事を探してこの街に来たが、なかなか仕事が見つからず、困っていたのだという。
「商人として働くのは簡単なことではないのよね。でも、希望を捨てずに頑張りましょう」
玲蘭の言葉に、琳音は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
「あなたは優しい人ね。もしよければ、もう少しこの街で一緒に過ごしてくれない?」
琳音の申し出に、玲蘭は驚いたが、彼女の瞳には真剣な光が宿っていた。
「一緒に? そうね……私もこの街のことをもっと知りたいと思っていたところだし、いいわ」
玲蘭は琳音の申し出を受け入れ、二人はしばらくこの街で共に過ごすことを決めた。
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玲蘭は琳音と共に、街での生活を続けた。琳音は商売を学びながら、玲蘭もまた新しい出会いや経験を通じて、自分の成長を感じていた。二人はお互いに助け合い、励まし合いながら、困難に立ち向かう日々が続いた。
(私が求めていたのは、こうした新たな出会いと経験だったのかもしれない)
玲蘭はそう思いながら、琳音との友情を深めていった。
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ある夜、二人は市場の近くにある小さな居酒屋で夕食を共にしていた。琳音がふと、玲蘭に問いかけた。
「玲蘭、あなたはどうしてここに来たの?あなたみたいな立派な人が、ただ旅をしているとは思えないんだけど……」
玲蘭は少し戸惑いながらも、これまでの自分の人生について少しずつ語り始めた。後宮で涼王を支えていたこと、宮廷での陰謀に立ち向かってきたこと、そして新しい道を探すためにここに来たこと。
琳音はその話を驚いた様子で聞きながら、感心していた。
「すごい……あなたは本当に強い人なんだね。でも、今は自分の道を探しているの?」
玲蘭は静かに頷いた。
「そう。私はまだ、自分が本当に進むべき道を見つけていない。でも、こうして新しい出会いや経験を通じて、少しずつそれが見えてきた気がするの」
琳音は微笑みながら、玲蘭の言葉に耳を傾けていた。
「それなら、きっとすぐに自分の道が見つかるはずよ。あなたなら大丈夫」
玲蘭はその言葉に励まされ、再び強い決意を胸に抱いた。彼女の旅はまだ始まったばかりだが、その旅路には希望が満ち溢れていた。
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