第28話 運命の出会い

 盗賊を退けてから数日が経ち、蓮華の市は再び平穏を取り戻していた。玲蘭と琳音も市場での日々を楽しみながら、着実に自分たちの生活を築き上げていた。


 しかし、玲蘭の心の中には、再び大きな変化が訪れようとしていた。蓮華の市での新しい生活は順調で、街の人々とも信頼関係が生まれ始めていたものの、玲蘭の心はまだ落ち着きを取り戻していなかった。彼女は自分の「道」を見つけたいという欲求を抱き続けていたのだ。


(私はこの街で何を成すべきなのだろう……)


 玲蘭は市場で商売をしながらも、時折、遠くを見つめながら自分の未来について考えていた。琳音と一緒に過ごす日々は楽しく、街での生活は充実していたが、それでも彼女の心の中には満たされない何かがあった。


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 そんなある日、玲蘭は市場を歩いていると、ふと遠くから目を引くような人物を見かけた。高貴な装いをした男が、街の広場で何かを見ていたのだ。彼の姿は、玲蘭にとってどこか懐かしさを感じさせた。


(あの人……どこかで見たことがあるような気がする)


 玲蘭はその男に強く惹かれ、無意識に彼の方へ歩み寄っていった。


 男は、広場で行われている商売や芸を楽しんでいるように見えたが、時折、周囲を鋭い目で観察していた。玲蘭はその姿にただの貴族ではない、何か特別な使命を持つ者のような印象を受けた。


「……」


 玲蘭が男に近づこうとしたその時、男が急に振り返り、玲蘭に鋭い視線を向けた。二人の視線が交わった瞬間、玲蘭は何か強い力を感じた。


「あなたは……」


 男が低い声で問いかけてきた。その声には、どこか重みと威厳が感じられた。玲蘭は少し戸惑いながらも、彼の視線を真っ直ぐに受け止め、言葉を返した。


「私はただの旅人です。この街に来てから、しばらく滞在しています」


 玲蘭は簡単に自己紹介をしたが、男の表情は変わらず、彼女をじっと見つめていた。そして、しばらくの沈黙の後、男は少し笑みを浮かべた。


「なるほど……だが、あなたのような旅人は、そう簡単には見かけない。まるで後宮で鍛えられた者のようだ」


 玲蘭はその言葉に驚きを隠せなかった。男が後宮について言及したことで、彼がただの旅人ではないことが明らかになった。


「あなたは……誰なのですか?」


 玲蘭が問いかけると、男は微笑みながら答えた。


「私は剣一族の流派を受け継ぐ者だ。名前は陽翔(ようしょう)と言う。あなたが気づいた通り、私もただの商人ではない」


 陽翔の言葉に、玲蘭はさらに驚きながらも、何か運命的なものを感じた。彼の雰囲気と自信には、後宮で感じていた権威や責任感と同じものが感じられた。


「剣一族……」


 玲蘭はその名を聞いて、記憶の中からその一族について思い出した。彼らは古くから国を守り続けてきた戦士たちであり、涼王の側近とも関わりが深かった一族だった。


「あなたが剣一族の者ならば、どうしてこの街に?」


 玲蘭はその理由を尋ねた。陽翔のような人物が、蓮華の市のような街にいるのは不思議だった。


「私はこの街で、ある重要な取引を行うために来た。そして、あなたのような人物に出会うとは思ってもみなかった」


 陽翔は真剣な表情で玲蘭を見つめ続けていた。その視線には、何か期待や興味が込められているように思えた。


「取引……?」


 玲蘭がその言葉に疑問を抱いていると、陽翔は続けた。


「この街には、我が一族にとって重要な品がある。それを取り戻すために来たのだが……どうやら、君にも少し興味が湧いてきた」


 玲蘭はその言葉に少し警戒しつつも、陽翔の真意を探ろうとした。


「興味……?」


「そうだ。あなたの強さ、そして後宮で培ったものを見て、私はあることを確信した。あなたは、まだ自分の本当の力を完全には理解していない」


 陽翔の言葉に、玲蘭は少し驚きを隠せなかった。自分が後宮で鍛え上げた能力は、十分だと思っていた。しかし、彼の目には、まだ玲蘭が成長する余地があると映っているようだった。


「私は自分の道を探している最中です。だから、まだ自分が何をすべきか、完全には見つけられていません」


 玲蘭は正直に自分の現状を話した。陽翔はそれを聞いて、ゆっくりと頷いた。


「ならば、私と共に来るか?私はあなたの力をさらに引き出すことができる。そして、あなたが探している答えも見つけられるかもしれない」


 陽翔の誘いに、玲蘭は一瞬戸惑った。彼と共に行動することは、彼女にとって新たな冒険となるだろう。しかし、それは自分の成長に繋がるかもしれないと感じた。


「……考えさせてください」


 玲蘭はそう言って一礼し、その場を後にした。心の中で葛藤が渦巻いていた。


(陽翔と共に行くべきなのか……私はまだ、自分の道を見つけていない。でも、彼と一緒にいれば何かが変わるのかもしれない)


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その夜、玲蘭は宿で静かに瞑想しながら、陽翔との出会いについて考えていた。彼が言った「本当の力」という言葉が頭の中で響いていた。玲蘭はこれまでの経験を振り返り、自分が何を求めているのかをもう一度問い直していた。


(私は……さらに強くなる必要があるのだろうか?それとも、別の道を探すべきなのか)


 玲蘭の心はまだ揺れていたが、陽翔との出会いが彼女にとって新たな扉を開く可能性を秘めていることは明らかだった。彼と共に行くことで、玲蘭は自分自身をさらに深く知り、新たな道を見つけるかもしれない。


---


 翌朝、玲蘭は決意を胸に宿を出て、陽翔の元へ向かった。彼女はこれからの旅に向けて、一歩を踏み出そうとしていた。

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