第23話 見つめる未来
涼王との貿易交渉が成功裏に終わり、宮廷は再び安定した日常を取り戻していた。だが、玲蘭の心は静かではなかった。陰謀を防ぎ、国を守るという大きな役割を果たしたものの、心の奥底にはまだ解決しきれない葛藤が残っていた。
(これからも涼王の側にいて、ずっと宮廷を守るべきなのか、それとも……)
玲蘭は、かつて涼王が語った言葉――「もっと広い世界を見てほしい」という言葉が胸に響いていた。これまでの人生は涼王を守ることだけを目的としていたが、彼の信頼を得た今、玲蘭は自らの生き方を考え始めていた。
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その日、玲蘭は一人で宮廷の図書館へ向かった。彼女はこれまでの戦いの記録や、過去の貿易交渉に関する書物を読みながら、国を支えるために何ができるのかを考え続けていた。
静かな図書館の中で、玲蘭は一冊の書物を手に取った。それは、かつての偉大な将軍が国家を守るためにどのようにして戦い、そしてその後どのような道を選んだかが記されているものだった。
(自分を支え続けたものが、いつか新たな道に繋がる……)
玲蘭はその書物の一節に心を打たれた。彼女自身もまた、これまで涼王を支え、陰謀を防ぐために戦ってきたが、その先に何が待っているのか、まだはっきりとした答えを見つけることはできていなかった。
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その夜、玲蘭は自室で静かに瞑想しながら、自分の未来について考え続けていた。
(私は、ずっと後宮と涼王のために生きてきた。でも、これからもそれでいいのだろうか?)
自問自答する日々が続いたが、答えはすぐには見つからなかった。玲蘭は涼王への忠誠心と、自分自身の成長への欲求との間で揺れ動いていた。
そんな時、扉の外から静かな足音が聞こえた。玲蘭が顔を上げると、そこには蒼斉が立っていた。
「玲蘭様、少しお話しできるでしょうか?」
蒼斉は優しく微笑みながら、玲蘭に声をかけた。彼もまた、玲蘭の心の中に何か悩みがあることを察していたのだ。
「もちろんです、どうぞお入りください」
玲蘭は静かに頷き、蒼斉を部屋に招き入れた。
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二人はしばらく黙って座り、夜の静寂の中でお互いの存在を感じていた。そして、蒼斉が口を開いた。
「玲蘭様、あなたがこれまでしてきたことは素晴らしい功績です。しかし、最近のあなたを見ていると、何か考え込んでいるように感じます」
蒼斉は、玲蘭の心の中にある迷いを感じ取っていた。玲蘭はその言葉に一瞬戸惑ったが、正直に自分の心情を打ち明けることにした。
「私……最近、自分の道について考えることが増えてきました。涼王陛下を守ることが私の全てだと思っていましたが、もっと広い世界を見てみたいという気持ちもあります」
玲蘭は、自分の心の内を初めて誰かに言葉にして伝えた。蒼斉はそれを静かに聞き、深く頷いた。
「それは自然なことです。玲蘭様がこれまで尽くしてきた道は、誰もが尊敬すべきものです。しかし、あなた自身が新たな道を求めることは、決して間違っているわけではありません」
蒼斉の言葉は、玲蘭にとって心強いものだった。彼もまた、玲蘭がこれまでと違う生き方を模索することを肯定してくれたのだ。
「では、私がこの後宮を離れ、新たな道を選ぶことがあっても……それを間違いとは思わないでしょうか?」
玲蘭の問いに、蒼斉は静かに微笑みを浮かべて答えた。
「間違いではありません。むしろ、それが玲蘭様にとっての新たな成長の道であるならば、それを選ぶことは賢明です。私も、陛下も、それを理解してくださるでしょう」
玲蘭はその言葉に胸を打たれた。自分が歩んできた道を超えて、新たな未来を模索することが自分にとって必要だという気持ちが、さらに強くなっていった。
「ありがとうございます、蒼斉。私ももう少し、自分の未来について考えてみようと思います」
玲蘭はそう言い、蒼斉に感謝の意を示した。蒼斉は静かに礼をし、再び夜の静けさの中に消えていった。
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その夜、玲蘭は再び星空を見上げた。
(私は新たな道を選ぶことができる……)
涼王と蒼斉の言葉を胸に、玲蘭は自分の未来に向けた決意をさらに強めていった。後宮の中での役割は終わりではなく、新たな始まりの一歩に過ぎないのだと感じるようになった。
玲蘭は静かに深呼吸し、自分の進むべき道を心の中で見つめ始めた。
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