第21話 交渉の幕開け

 貿易交渉の日が訪れた。宮廷内はいつにも増して緊張感に包まれ、高官たちも隣国からの使者たちも、互いの動向を警戒しながら席についた。


 玲蘭は蒼斉と共に、涼王のすぐ傍で緊張した面持ちで状況を見守っていた。今日、この交渉の場で高官たちが涼王を陥れようとする計画が実行される。それを未然に防ぎ、逆に彼らを追い詰めるためには、玲蘭たちの素早い対応が求められる。


(陛下を守り、この陰謀を暴くためには、すべてが今日決まる……)


 玲蘭は心の中で強く決意し、涼王の後ろに控えながら鋭い視線を周囲に走らせた。


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 交渉が始まり、隣国の使者たちが慎重に意見を述べ始めた。涼王は冷静に対応し、相手の発言を丁寧に受け止めながらも、背後で展開されている陰謀に対する警戒を解かなかった。


 高官たちもまた、一見普通の態度で交渉に参加しているが、玲蘭はその裏に隠された意図を見逃さなかった。彼らの視線や言葉の端々に、涼王を貶めようとする策謀が見え隠れしている。


「今回の貿易交渉について、我々は両国の関係をさらに強固にするため、より有利な条件を求めたいと考えています」


 高官の一人がそう言い、涼王の方を見ずに隣国の使者に向かって言葉を続けた。その発言には、明らかに涼王の立場を揺るがそうとする意図が込められていた。


「しかし、現状では我が国は十分に安定しておらず、適切な指導者が必要です。今の指導者が、本当にこの国を率いるにふさわしいのか、再考するべきではないでしょうか」


 玲蘭はその言葉に反応し、体が一瞬硬直した。高官たちは、涼王の正当性を疑わせる発言を交渉の場で行い、彼を弱体化させようとしていたのだ。


(これが彼らの狙い……)


 玲蘭はすぐに涼王の方に視線を送ったが、涼王は冷静な表情を崩さなかった。彼はこの挑発に対して動じることなく、静かに応じた。


「我が国は隣国との協力を強化し、繁栄を続けている。指導者としての責任を全うするために、私はこれからも両国の利益を守る覚悟だ」


 涼王の言葉には揺るぎない決意が込められていた。だが、高官たちはそれに屈することなく、さらなる揺さぶりをかけようとした。


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 その時、蒼斉が玲蘭に耳打ちした。


「彼らは間もなく証拠を使って涼王を攻撃するつもりです。ここで動かないと、陛下の信用が傷つけられます」


 蒼斉の言葉に、玲蘭は頷き、すぐに行動に移ることを決意した。高官たちが隠し持っている証拠――それは捏造されたものであり、涼王の信用を失墜させるための罠であるとわかっていた。


(これ以上、彼らの計画を進めさせるわけにはいかない)


 玲蘭は立ち上がり、涼王に向かって低く礼をしながら言葉を発した。


「陛下、私にお任せください。今こそ、彼らの陰謀を暴く時です」


 涼王は玲蘭に目を向け、静かに頷いた。


「玲蘭、頼んだぞ」


 玲蘭はその言葉を受け、蒼斉と共に高官たちの元へと歩み寄った。会場内が緊張に包まれ、高官たちも不安そうな表情を見せ始めた。


「貿易交渉における我が国の立場を強化するため、皆様が提出しようとしている証拠について、ぜひ確認させていただきたい」


 玲蘭の言葉に、高官たちは一瞬言葉を失った。だが、すぐに一人の高官が口を開き、冷ややかに笑った。


「この証拠は正当なものであり、我々がこれまでに集めた事実を基にしています。あなたに確認される筋合いはありません」


 玲蘭はその言葉を受け流し、冷静に続けた。


「それが本当に正当なものであるかどうか、ここで明らかにしましょう。陛下の信用を貶めようとする証拠が、どのようにして作られたのかを」


 玲蘭がそう言った瞬間、蒼斉が手早くその証拠を取り上げ、全員の前で広げた。そこには、捏造された文書や改ざんされた証拠が含まれており、それが高官たちの手によって用意されたものであることが一目瞭然だった。


 会場内は静まり返り、全員が驚きの表情を浮かべた。高官たちはその場で一気に動揺し始め、言葉を失った。


「これは……!」


 玲蘭はその場で証拠を高々と掲げ、全員に向けて言葉を発した。


「これが、彼らが用意した陛下を陥れるための捏造された証拠です。彼らは自らの利益を守るため、国全体を混乱に陥れようとしていたのです」


 玲蘭の言葉に、高官たちは完全に追い詰められ、隣国の使者たちもその場で何も言い返せなくなった。涼王は立ち上がり、静かに高官たちに視線を向けた。


「この陰謀はここで終わりだ。お前たちは、この国の未来を混乱させようとした。その責任は重い」


 涼王の言葉に、誰も反論することができなかった。高官たちはその場で捕らえられ、陰謀は完全に終わりを告げた。


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 その夜、玲蘭は再び涼王の元に戻り、彼に深く礼をした。


「陛下、これで陰謀は完全に終わりました」


 涼王は微笑み、玲蘭を見つめながら言った。


「よくやってくれた、玲蘭。お前の冷静な判断と行動が、この国を救った」


 玲蘭はその言葉に胸がいっぱいになり、改めて涼王に対する忠誠を誓った。


「私はこれからも、陛下をお守りいたします」


 玲蘭の決意は揺るがなかった。彼女はこれからも、涼王と共に歩み、国を守り続けることを心に誓った。

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