第14話 試練の始まり

 玲蘭は自室で静かに息を整えていた。涼王から新たに与えられた任務――それは、後宮内の安定だけでなく、宮廷全体の調和を見守るという、これまでとは異なる大きな責任だった。彼女はその重大さを強く感じながらも、同時に涼王からの信頼に応えたいという思いが胸を熱くしていた。


(私は、後宮だけでなく、もっと広い世界を見渡さなければならない)


 そう自分に言い聞かせながら、玲蘭は新たな一歩を踏み出す準備をしていた。涼王は彼女に信頼を寄せ、宮廷内のさまざまな問題にも目を向けるよう期待している。玲蘭にとっては初めての経験であり、未知の世界だったが、彼女はその任務を全うする覚悟を固めていた。


---


 数日後、玲蘭は涼王の命を受けて、宮廷内の会合に出席することになった。そこには、後宮とは異なる宮廷の高官たちが集まっており、国政に関わる重要な議論が行われる場だった。


 玲蘭は緊張しながらも、涼王の側近として静かにその場に立っていた。彼女は、後宮の陰謀や権力闘争に慣れていたが、こうした国家の大きな流れに関わる場にはまだ不慣れだった。


「本日の議題は、隣国との貿易協定に関する件です」


 会合が始まり、高官たちは次々と意見を述べ始めた。玲蘭はその話を聞きながら、これが宮廷内の世界であり、国全体の運命に関わる重要な決定が行われる場所であることを強く感じた。


(私にはまだ、学ぶことがたくさんある……)


 玲蘭はその場で静かに周囲の動きを見守っていた。涼王は彼女に特に発言を求めることはなかったが、玲蘭は自らの役割を果たすために、これまで以上に観察力を研ぎ澄ませていた。


---


 会合が終わった後、涼王は玲蘭に近づき、静かに声をかけた。


「玲蘭、どうだった? 初めての宮廷での会合は」


 涼王の問いに、玲蘭は少し戸惑いながらも答えた。


「とても勉強になりました。ただ、後宮とは違って、国全体の運命を左右するような議論が行われていることに、改めて責任の重さを感じました」


 玲蘭の言葉に、涼王は静かに頷いた。


「そうだ。宮廷は後宮とは異なり、国家そのものを動かす力が集まる場所だ。だが、後宮で見たことも決して無駄にはならない。お前の経験はここでも生きてくる」


 涼王の言葉には、玲蘭への深い信頼が込められていた。彼は、玲蘭が後宮で培ってきた経験を宮廷でも活かせると信じていたのだ。


「これからもお前には、後宮だけでなく、宮廷全体の調和を見守る役割を担ってほしい。お前にはそれができる」


 涼王の言葉は玲蘭にとって大きな励ましであり、彼女は再び決意を新たにした。


「陛下、私は全力を尽くします。宮廷でも、後宮でも、陛下のお力になれるように」


 玲蘭は深く頭を下げ、その場を去った。彼女はこれからの新たな任務に向けて、さらに自分を高める必要があることを痛感していた。


---


 玲蘭が自室に戻り、ふと窓の外を見ると、秋蘭が庭を歩いているのが見えた。玲蘭は微笑みながら、すぐに部屋を出て彼女に近づいた。


「秋蘭、最近どう?」


 秋蘭は玲蘭の声に気づき、優しく微笑んで答えた。


「お疲れ様です、玲蘭様。少し落ち着かれましたか?」


「ええ、でもまだこれからが本番ね。涼王陛下から新たな任務をいただいたの」


 玲蘭は秋蘭にこれまでのことを話しながら、少しずつ心の重荷を軽くしていった。秋蘭はいつも、玲蘭の話を優しく聞いてくれる存在であり、彼女にとっての安らぎだった。


「玲蘭様なら大丈夫です。これまで、どんな困難も乗り越えてきましたから」


 秋蘭は玲蘭を励まし、優しい微笑みを見せた。その言葉に、玲蘭も少し気持ちが軽くなった。


「ありがとう、秋蘭。私も、私にできることを精一杯やってみるわ」


 玲蘭は微笑んで秋蘭に礼を言い、再び新たな気持ちで歩み始めた。彼女の心にはまだ不安があったが、それでも涼王や秋蘭、そして周囲の支えが彼女を前に進ませていた。


---


 その夜、玲蘭は宮廷内での新たな任務を果たすため、資料を整理していた。これまで以上に多くのことを学ばなければならないと感じていたが、彼女には涼王の期待に応えたいという強い意志があった。


(私は……もっと強くならなければ)


 玲蘭はそう自分に言い聞かせながら、静かに書簡に目を通していた。涼王から与えられた任務は大きな責任を伴うものだが、玲蘭はその重さに押しつぶされることなく、前向きに取り組もうとしていた。


(宮廷でも、後宮でも……私は、すべてを守る)


 玲蘭はその決意を胸に、深く息を吸い込んだ。そして、新たな試練に向かう覚悟を固めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る