第15話 初めての壁

 玲蘭が涼王から任された新たな任務に取り組み始めてから数週間が経った。宮廷内での役割は、後宮での生活とは全く異なるもので、玲蘭は日々新しい知識や経験を積みながら、自らの成長を感じていた。しかし、それと同時に、後宮では見られなかった複雑な人間関係や、国家の行く末を左右するような決断が絡み合う世界に不安も覚えていた。


(これまでとは違う……私はもっと強くならなければならない)


 玲蘭はそう自分に言い聞かせながら、日々の任務に取り組んでいた。


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 ある日、玲蘭は宮廷内の高官たちとの会合に呼ばれた。今回の議題は、隣国との貿易交渉に関する重要な話し合いであり、玲蘭にとってはこれまで以上に重い任務だった。


 会議の場に入ると、すでに高官たちが集まり、緊張感のある空気が漂っていた。玲蘭は静かに席につき、周囲の様子を見渡した。


「今回の交渉は、我が国の未来を大きく左右するものです。慎重に検討しなければなりません」


 一人の高官がそう言い、周囲が頷いた。玲蘭は彼らの意見を聞きながら、これが国家全体に関わる重大な決断であることを改めて実感した。


「玲蘭殿、あなたは後宮での経験を活かし、この交渉について何か意見はありますか?」


 突然、高官の一人が玲蘭に問いかけた。その声に、玲蘭は一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻して答えた。


「貿易交渉は双方の利益を尊重しつつ、慎重に進めるべきです。隣国との関係を長期的に安定させることが重要です」


 玲蘭は後宮で培った冷静な判断力を基に、自分の意見を述べた。高官たちはその答えに耳を傾けたが、彼らの反応はまちまちだった。


「確かに、それも一理ありますが、現実的な利益を優先するべきではないでしょうか? 我々は、すぐに成果を上げる必要があります」


 別の高官がそう言い放つと、会場内はざわめき始めた。玲蘭は、その空気の変化に戸惑いを隠せなかった。宮廷内では、後宮とは違う緊張感が常に漂っている。彼女は、自分がこの新しい世界でまだ未熟であることを痛感した。


(私は、もっと宮廷内のことを理解しなければ……)


 玲蘭は心の中でそう決意した。涼王の信頼に応えるためにも、この壁を乗り越えなければならない。


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 会議の後、玲蘭は一人静かに宮廷内の庭を歩いていた。涼王や秋蘭の言葉が頭の中で巡りながらも、彼女は自分の力不足を感じていた。


(私は、まだこの場所で本当に役に立っているのだろうか……)


 その時、後ろから涼王が静かに近づいてきた。彼は玲蘭の様子に気づき、優しく声をかけた。


「玲蘭、悩んでいるようだな」


 その声に、玲蘭は驚いて振り返った。涼王の表情は穏やかでありながら、彼女の心情を見透かすような鋭さもあった。


「陛下……私は、宮廷での任務がまだ未熟で、うまく役目を果たせていないのではないかと感じています」


 玲蘭は率直に自分の不安を打ち明けた。涼王に対しては、隠し事をする必要がないと感じていた。


「お前が感じている不安は、誰もが通る道だ。宮廷は後宮と同じようで、実際には異なる世界だ。だが、そこで自分を見失うことなく、前に進むことが重要だ」


 涼王の言葉には、玲蘭を励ます力強さが込められていた。


「お前はこれまで、後宮で数々の困難を乗り越えてきた。それと同じように、宮廷でも成長できるはずだ。焦らず、まずは自分の役割を見極めることだ」


 涼王の言葉に、玲蘭は少しだけ心が軽くなるのを感じた。彼の信頼と励ましが、玲蘭に新たな勇気を与えていた。


「ありがとうございます、陛下。私は、もっと努力します」


 玲蘭は深く頭を下げた。彼女の中に、新たな決意が湧き上がってきた。


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 翌日、玲蘭は再び宮廷内の仕事に取り組んだ。今回は、貿易交渉の詳細をまとめるため、資料を整理し、過去の事例を調べることに専念した。彼女は、表面的な情報だけでなく、より深く理解するために多くの時間を費やし、少しずつではあるが、自分の役割を果たせるようになっていった。


「玲蘭様、最近とても集中されているご様子ですね」


 秋蘭がそう言って、玲蘭にお茶を差し出した。玲蘭は笑顔で感謝しつつも、まだまだ自分が目指すべきところには遠いと感じていた。


「ありがとう、秋蘭。でも、まだまだこれからが大事なの」


 玲蘭はそう言って微笑んだが、その目には決意が込められていた。彼女は涼王から託された新たな任務を果たすために、さらに努力を続けるつもりだった。


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 その夜、玲蘭は一人自室で、再び資料に目を通していた。宮廷での仕事は後宮のそれよりも複雑で、求められる知識も広範囲に及ぶ。しかし、彼女はその困難に立ち向かい、少しずつではあるが成長している自分を感じていた。


(私は、必ずこの任務を果たしてみせる……)


 玲蘭はそう心に誓い、夜の静寂の中で、さらなる成長に向けた一歩を踏み出したのだった。

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