第12話 平穏と影
麗妃の陰謀が完全に打ち砕かれ、後宮は一時的に平穏を取り戻した。皇后はその地位を守り、涼王の信頼も厚くなり、後宮内の不安は表面的には解消された。しかし、玲蘭の胸の中には、まだ拭えない疑念と緊張感が残っていた。
後宮は表面的には静かであっても、その奥底には常に権力争いの種が隠れている。麗妃が倒れたことで、次に動き出す者がいないとは限らない。
(この平穏がいつまで続くのかは分からない……でも、今はただ、目の前のことに集中しなければ)
玲蘭は、今自分ができることに焦点を合わせ、後宮の安定を見守ることにした。彼女には、涼王から受けた信頼がある。その期待に応えるため、玲蘭は日々を懸命に生きていた。
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ある朝、玲蘭は涼王の命を受けて、後宮内を見回っていた。女官たちや護衛たちも、事件が一段落した後、少しずつ元の生活に戻りつつあった。
「玲蘭様、おはようございます」
女官たちが丁寧に頭を下げ、玲蘭に挨拶をする。かつては目立たぬ存在であった玲蘭が、今では後宮全体を見守る立場としての信頼を得ていることを感じ取れた。彼女自身も、その責任を重く感じながらも、誇りに思っていた。
そんな中、玲蘭はふと、誰かの視線を感じた。振り返ると、少し離れた場所で秋蘭が立っていた。彼女は微笑みながら、玲蘭に歩み寄ってきた。
「玲蘭様、最近はお忙しいご様子ですね。でも、少し肩の力を抜いてくださいね」
秋蘭は玲蘭を気遣うように優しく声をかけた。彼女は、常に玲蘭の側にいて、支え続けてくれた存在だ。
「ありがとう、秋蘭。でも、今はまだ気を抜くわけにはいかないわ」
玲蘭は微笑んで答えたが、その目にはまだ鋭い緊張が宿っていた。後宮の中には、まだ隠された何かがあると感じていたのだ。
「あなたは本当に強くなったわ、玲蘭様」
秋蘭は少し寂しそうに微笑んだ。
「でも、いつか少しは自分のためにも生きてください。後宮の中で、すべてを守ろうとするのは難しいことですから……」
その言葉に、玲蘭は一瞬だけ表情を曇らせた。自分のために生きる――それは、後宮の中で忘れがちなことだった。彼女は涼王のために、後宮を守るために、常に全力を尽くしてきたが、確かに自分のことを考える余裕はなかった。
「私がすべきことを果たしたら、少しは考えてみるわ」
玲蘭は静かにそう答え、秋蘭に微笑みかけた。
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その日の夕方、玲蘭は涼王から再び呼ばれた。彼の元へ向かうと、彼はすでに書類を片付け、静かに瞳を閉じていた。玲蘭が部屋に入ると、涼王はゆっくりと目を開け、彼女に微笑んだ。
「玲蘭、お前には感謝している。後宮がここまで安定したのも、お前の尽力があってのことだ」
涼王の言葉に、玲蘭は頭を下げた。彼の信頼が、玲蘭を支えていることを彼女も感じていた。
「陛下のお力になれて、光栄です」
玲蘭は心からそう思っていたが、涼王の次の言葉は予想外のものだった。
「お前には、もっと広い世界を見てほしいと思っている。後宮だけでなく、国全体を見渡し、自分の道を選ぶ時が来るだろう」
その言葉に、玲蘭は一瞬息を呑んだ。涼王の言葉が意味するのは、後宮だけでなく、もっと大きな世界で彼女が果たすべき役割があるということだった。
「ですが、私は……」
玲蘭は一瞬、戸惑いを見せたが、涼王は静かに首を振った。
「私の側でお前が守ってくれていることはありがたい。しかし、玲蘭、お前にはもっと広い世界でできることがあるかもしれない。それを見つけるのは、お前自身の選択だ」
涼王の言葉は、玲蘭に大きな影響を与えた。これまで彼女は後宮を守ることに全てを捧げてきたが、涼王は彼女に別の可能性を示唆していたのだ。
(私には、別の道がある……?)
玲蘭は心の中でその言葉を繰り返した。涼王の元で、後宮を守る役割は彼女にとって大切なものであった。しかし、涼王が言うように、それだけが自分の道ではないのかもしれないと考え始めていた。
「まだ考える時間はある。お前の決断は急ぐ必要はない」
涼王の声は穏やかで、玲蘭の心に優しく響いた。彼の信頼を感じながらも、玲蘭は自分の未来に思いを馳せた。
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その夜、玲蘭は一人で中庭を歩いていた。静かな夜風が頬を撫で、満月が空に輝いていた。
(私は……これからどうすればいいのだろう)
これまで後宮の中で必死に生き抜いてきた彼女は、今、初めて自分の未来について深く考えた。涼王の側で後宮を守るという役割に満足していたはずだが、涼王の言葉が彼女の心に小さな波を立てていた。
(私にはもっとできることがあるのかもしれない……でも、それが何なのかは、まだわからない)
玲蘭は空を見上げ、深く息を吸い込んだ。彼女は今後も涼王を支えることを続けるつもりだったが、その先に何が待っているのかを考える時が来ていたのかもしれない。
(いつか、自分の道を見つける時が来る。それまで私は……)
玲蘭はそっと瞳を閉じ、心の中で決意を新たにした。
(今は、涼王陛下をお守りする。そして、その先にある未来を、いつか見つけ出す)
そう心に誓い、玲蘭は静かに歩みを進めた。彼女の未来には、まだ見ぬ新たな試練と希望が待っているかもしれない。そして、その未来を選ぶのは、彼女自身の手にかかっていた。
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