第11話 新たな決意

 麗妃の陰謀が阻止され、後宮は再び静けさを取り戻していた。だが、その静寂の中にも緊張感が残り、いつ新たな波乱が起こるとも限らない状態だった。麗妃の逮捕が後宮内に与えた影響は大きく、女官たちや妃たちの間で囁かれる噂は尽きなかった。


「まさか麗妃様が……」


「後宮を掌握しようとしていたなんて……」


 女官たちは不安げに口を噤み、互いに顔を見合わせていた。彼女たちの間では、麗妃の権力がどれほど強大だったかを改めて認識する声が広がっていた。


 玲蘭は、そんなざわつきを背に受けながら、自室に戻っていた。任務を終えたものの、心の中にはまだ消えない緊張感があった。麗妃を捕らえたことで後宮の秩序は保たれたが、玲蘭は感じていた。これで全てが終わったわけではない、と。


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 その夜、玲蘭は涼王の元へと呼ばれた。後宮の闇が一掃されつつある中で、涼王が彼女に伝えることがあるのだろう。彼女は静かに部屋に入り、涼王に一礼した。


「お呼びでしょうか、陛下」


 涼王は、窓の外を見つめたまましばらく沈黙していたが、やがて玲蘭に視線を向けた。その瞳には、いつもの冷静さに加え、何か深い思慮が込められていた。


「玲蘭、今後のことを考えねばならない。麗妃を捕らえたことで後宮は一時の安定を得たが、また新たな波乱が起こる可能性はある」


 涼王の言葉に、玲蘭は静かに頷いた。彼の懸念は正しかった。後宮は常に権力争いの舞台であり、一度波が収まったとしても、次の波が起こるのは時間の問題だった。


「陛下、私はこの後宮に渦巻く陰謀を食い止めるため、これからも力を尽くす覚悟です。陛下をお守りするために、どんな試練にも立ち向かうつもりです」


 玲蘭の言葉には、決意がこもっていた。彼女は、自分がこの後宮で果たすべき役割を自覚し、次に来るべき危機にも備えていた。


「お前は強いな、玲蘭。後宮に入ってきた頃は、静かに生き延びることだけを望んでいたはずだが、今では誰よりもこの場を守ろうとしている」


 涼王は小さく笑みを浮かべた。それは、どこか玲蘭への感謝と賞賛が込められた笑みだった。


「この後宮は私が守るべきものですが、陛下も同じです。私は、陛下をお守りすることが私の役割だと信じています」


 玲蘭の言葉に、涼王は少しだけ驚いたような表情を見せた。しかし、すぐに彼の目は再び冷静さを取り戻し、玲蘭をじっと見つめた。


「では、これからも私の側にいてくれ。お前の力が必要だ」


 その言葉に、玲蘭は深く頭を下げた。涼王からの信頼を感じ、その重さを再確認しながらも、彼女はそれに応えるべく強く生きていく決意を新たにした。


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 翌朝、後宮内は静かな朝を迎えていた。だが、その静けさは、玲蘭にとっては一時的なものに過ぎないように思えた。後宮という場所は、権力と陰謀が絡み合う場所であり、誰もが一瞬の隙を狙っている。今回の事件で、その本質を改めて思い知らされた。


「玲蘭様、お加減はいかがですか?」


 秋蘭が心配そうに尋ねてきた。彼女は、玲蘭がここ数日、ずっと緊張した状態で過ごしていたことを知っていた。


「大丈夫よ、秋蘭。すべてが無事に終わったわけではないけれど、これからが本当の意味での始まりかもしれないわ」


 玲蘭は微笑んで答えたが、その言葉の裏にはさらなる決意が込められていた。秋蘭は何も言わずに頷き、静かに玲蘭を見守った。


 玲蘭は自室に戻り、机に向かって考えを巡らせていた。麗妃の陰謀が終わったことで、表面的には後宮に平穏が訪れたように見える。だが、玲蘭はわかっていた。この後宮には、まだ見えない敵が潜んでいることを。


(私は、この後宮で生きていく。そして、陛下をお守りする。それが私に与えられた使命……)


 玲蘭は剣を手に取り、そっとその刃を見つめた。彼女がこの後宮で生き抜くためには、まだ多くの試練が待っている。しかし、そのすべてに立ち向かう覚悟はできていた。


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 その後、後宮では麗妃の捕縛が公に知らされ、彼女の影響力が完全に断たれた。皇后も再びその地位を強固なものにし、後宮内の力関係は一時的に安定を取り戻した。


 玲蘭は、表面的な平穏が戻った後宮を見つめながら、新たな役割を果たすべく日々を過ごしていた。涼王の信頼を背負い、彼の側で後宮を守る存在となった彼女は、以前のような目立たぬ女官ではなく、後宮全体を見守る存在へと変わっていった。

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