第10話 最後の舞台

 涼王から麗妃を捕らえるという最終的な任務を与えられた玲蘭は、決意を胸に後宮内の闇を進んでいた。夜の後宮は静寂に包まれていたが、その静けさの裏には陰謀の最後の幕が上がろうとしていた。


 彼女は自室に戻ると、目を閉じて深く息を吸い込んだ。


(私は、この手で麗妃を止める……)


 玲蘭は剣を手に取り、自らの役割を改めて自覚した。今や彼女は、後宮を揺るがす大陰謀を阻止する唯一の存在となっていた。


 その夜、涼王と蒼斉は共に作戦を練っていた。彼らは、麗妃が陰謀を実行する準備を整えつつあることを確信していた。


「麗妃がこのまま動けば、後宮は大混乱に陥る。それを避けるためには、彼女の行動を一刻も早く止めなければならない」


 涼王は冷静に状況を整理しながら、蒼斉に話しかけた。


「麗妃を捕らえるには、玲蘭を中心に動くべきでしょう。彼女が最も麗妃の動きを掴んでいます」


 蒼斉は涼王にそう進言し、玲蘭の重要性を再確認していた。涼王もまた、玲蘭の役割がこの陰謀の鍵を握っていることを理解していた。


「そうだ。玲蘭にはこの陰謀を終わらせるための最後の仕上げを任せる」


 涼王の言葉には、玲蘭への深い信頼が込められていた。


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 その夜、玲蘭は麗妃を追うために静かに動き出した。後宮内の警備が強化され、涼王の命を受けた護衛たちが各所に配置されている。彼女は一刻も早く、麗妃の陰謀を阻止しなければならなかった。


 やがて、麗妃が最後の行動に移るという情報が届いた。彼女は今夜、皇后を失脚させるための最後の一手を打つ予定だという。玲蘭はそれを阻止するため、全ての力を注ぐ覚悟を固めた。


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 後宮の奥深く、夜の帳に包まれた離れの一室で、麗妃は最後の計画を進めていた。彼女の表情には確信に満ちた笑みが浮かんでいた。皇后を失脚させ、涼王をも支配するという彼女の野望が、今まさに現実のものになろうとしていた。


「これで、後宮も私のもの……」


 麗妃は低く呟いた。その目には冷たい光が宿っていた。


 だが、その時――。


「麗妃様、もう終わりです」


 玲蘭の声が部屋の中に響き渡った。彼女は静かに部屋に入り、剣を構えて麗妃の前に立ちはだかった。


「玲蘭……!?」


 麗妃は驚きの声を上げたが、すぐに冷静さを取り戻した。彼女は余裕を見せつつ、玲蘭を見据えた。


「何をしに来たのかしら? 私を止めるつもり?」


「あなたの陰謀はもう明らかです。皇后様を失脚させ、後宮を掌握しようとしていることも、涼王陛下を狙っていることもすべて」


 玲蘭は剣を構えたまま、麗妃に向かって静かに言い放った。彼女の声には揺るぎない決意が込められていた。


「そう……。だが、あなた一人で私を止められると思って?」


 麗妃は余裕を見せながら、微笑みを浮かべた。彼女の後ろには、何人かの護衛が控えていた。彼らは、麗妃の計画を支えるために動いている者たちだった。


「私は一人ではありません」


 玲蘭は静かに答えた。そして、その瞬間、部屋の外から蒼斉と涼王の護衛たちが一斉に駆け込んできた。


「麗妃、これで終わりだ」


 蒼斉がそう言い放ち、彼女に向かって剣を突きつけた。麗妃の表情は一瞬にして変わり、冷たい憤りを見せた。


「あなたたち……」


 麗妃は怒りに震えながらも、最後の抵抗を試みようとした。だが、玲蘭と蒼斉の連携により、彼女の護衛たちは次々と制圧されていった。


 玲蘭は剣を握り締め、麗妃に向かって最後の一言を放った。


「後宮を支配しようとするあなたの野望は、ここで終わりです」


 その言葉と共に、麗妃はついに膝をついた。彼女の陰謀はここに完全に潰えたのだった。


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 後宮内に漂っていた不穏な空気が、次第に和らいでいくのを玲蘭は感じていた。麗妃の陰謀が阻止されたことで、後宮は再び平穏を取り戻しつつあった。


 玲蘭は涼王の元に戻り、任務を無事に果たしたことを報告した。


「よくやった、玲蘭」


 涼王は静かに玲蘭を見つめ、その目には深い感謝と信頼が宿っていた。


「全ては、陛下のために……」


 玲蘭は深く礼をし、その場を去ろうとしたが、涼王の声が彼女を引き止めた。


「玲蘭、お前にはまだ果たすべき役割が残っている。これからも、後宮を守るために私の側にいてくれ」


 その言葉に、玲蘭は一瞬戸惑ったが、やがて静かに頷いた。彼女は、後宮と涼王を守るためにこれからも生きていく決意を新たにしたのだった。


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