おかえりありすちゃん

「みんな知ってる~? 配信者ってライブや動画の投稿サボると……チャンネル登録者数がどんどん減ってくってこと」


 その日のありすちゃんの配信は、おもむろにそんなセリフから始まった。

 前回の配信から、ゆうに1ヵ月以上経過してからの配信であった。


 心なしか、彼女のアバターもどこか気まずそうな表情である。

 ここまで配信に穴が空いたことはない。それだけに、口調からも微妙な煮え切らなさが感じられる。


「いやびっくりしちゃったよね……いやこう、色々……色々とあんのよ! 機材ぶっ壊れたりとか修理めんどくさいとかソロでゲームやんのもそれはそれで楽しかったっていうか……はい、配信サボってました……機材ぶっ壊れたンゴ……ソロ狩り楽しいべ~って言ってる間に登録者二万人ぐらい外れてたの面白すぎんだろ」


【コメント】

クリスティーナ:機材がやられていたのか……

猛獣八号:ドンマイすぎる。しゃーない

Mr.ラウンドレル:騙されるなみんな。このアマ修理がめんどかったとか言ってるぞ

ガールーダ:機材壊れたのをいいことにソロ活楽しんでたわけか有罪


 ――そして一ヶ月の配信サボりをものともしない猛者たちのコメントがこちらである。


 そんな推し仲間ありすフレンズたちのコメントを温かい気持ちで眺めつつ、俺もカタカタとキーボードを鳴らす。


Rinta:心配してたけど配信再開してよかった! おかえりありすちゃん!


 俺がそうコメントを打ち込んだその瞬間。

 ありすちゃんの目が、キラーン、と光った。そんな気がした。


「ん? んんん? 凛くん、今君、『おかえり』って言ったねぇ……?」


 ニィィ、とありすちゃんが口端を釣り上げる。そんな表情まで準備してあるのかよ最近のライブ2Dできよすぎるな?


【コメント】

ナナコオリ:あっ(察し

猛獣八号:ざわ……ざわ……

ガルボん:ざわ……ざわ……

ガールーダ:ざわ……

Mr.ラウンドレル:機材もやっちまったし、裏でもヤっちまってたってことぉ?

UMAFY:ざわわーざわわーざわわー


 コメント欄の雲行きもどうやら怪しい。

 はて、俺は何か変なことを言っただろうか? ファンとして当たり前の気持ちを打ち込んだだけだというのに……。


「『おかえり』って言ったってことはぁ……あーしが凛くんところにってことだよねぇ? んふふー?」


 なんでそうなるの!?


「はぁー早く帰りたいなー。おうち帰りたいなー? あ、配信終わったら帰ろっかなーおうちに。ん-、ふふ♡ 凛くんちにー、リア凸♡ あ、凸じゃないか。帰宅♡」


【コメント】

猛獣八号:前々から思ってたけど、この二人って……

あるんこす:ガチ感やっべw

UMAFY:ありすちゃんはガチ恋勢ですからねぇ……逆の意味で

ナナコオリ:ファンにガチ恋してリア凸しようとしてるやべぇ女がいるってマ?


Rinta:ちょ待って!? そんなつもりでおかえりって言ったわけじゃないんですけど!?


「えー? そんなそんなぁ。照れなくていいよぉ」


 照れてませんけど!?


 心の中で突っ込んだそのタイミングで、スマホが鳴る。

 メッセージアプリを開いてみると……。


有菜:東京都〇〇区××町△△△△△305号室


 ……無言で俺の家の住所が送りつけられていた。


 一応あなた、配信者でしょ?

 やめてね、マジで。

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