ありすちゃんとのデート疑惑

「うわーみんな久しぶりー! っべーこうして配信すんのチョー久しぶりじゃんねーマジご無沙汰してましたぁー」


 その日も、仕事から帰ってきた俺はありすちゃんの配信を視聴していた。

 前回の配信からは、随分と間が空いている。アーカイブを確認してみたところ、十五日前……実に二週間ぶりの配信であった。


 配信期間がこれだけ空いた、その理由。それは……。


「マージでやる気起こんなくてぇ、くーねる遊ぶ三昧の自堕落生活送ってましたぁー。いや我ながら草」


【コメント】

猛獣八号:この自堕落野郎がよwww

UMAFY:これまでの傾向から見てもありすちゃんがだらしない生活を送っているのは確定的に明らかですからね

ナナコオリ:相変わらず意外性の欠片もない女である


「えーいやみんな酷くね? あーしがもし怪我や病気で入院中だったー、みたいな感じだったらどうしたわけよ。ちょっとは心配ぐらいしてもいいじゃんよー」


 などとありすちゃんのアバターが唇を尖らせる……が、これで心配するようなリスナーであるならばそれはアリスナー(ありすちゃんのファン)なんかではない。

 ありすちゃんの配信者としての問題行動は今に始まったわけではなく、配信中に掃除機をかけるだとか、配信をほったらかしにして好きな人と通話(俺のことである)をするとか、配信宣言をしていたのにそれを完全に忘れてボイチャで徹夜ゲームに他人を巻き込む(俺のことである)とか、そんなことをこれまでも繰り返してきたのである。


 それに比べれば、二週間ぐらいの配信ボイコットなど、アリスナーにとっては可愛いもの。

 おまけに配信ボイコット中でもTwitterはずっと稼働していたのだから、ファンにとっては彼女の生存確認などたやすいものである。


【コメント】

ガルボん:で、この二週間ずっと何してたわけ?


 ありすちゃんが言い訳にもなってない言い訳を口にしている最中、そんなコメントが流れてくる。

 ありすちゃんはそのコメントを拾い上げた。


「えー、大した事してないよ。凛くんと通話したり、ゲームしたり、あとデートしたりー……それ以外の時は基本家でだらだら動画見てお絵描きして~、みたいな。ね、普通でしょ?」


「……」


 ありすちゃんのセリフに俺は絶句した。

 匂わせどころではない、あからさまな発言である。通話やゲームならいざ知らず、デートという単語を持ち出したのは配信者的に明らかにマズい。


 思わず冷や汗を俺がかいていると、一瞬でコメント欄が盛り上がる。


【コメント】

猛獣八号:デート! 言質! はい解散!

ナナコオリ:これはヤってるメスの顔

豚トロ豆腐:え、凛くんって架空の存在じゃなかったんですか?

クリスティーナ:(セッセセの)宴の始まりだ!

Mr.ラウンドレル:kwsk

どれみふぁどん:ビッチがよ

ミミ@アリスナー:そういうのもっとちょうだいりあるでーとですかですよね? ね?


「わぁぁぁぁぁとんでもないことになってるじゃないか!」


 どんどんありすちゃんの誤解が広がっていく。

 これではまるで、俺が実際にありすちゃんと会ってデートをした、みたいな感じではないか。


 そんなことを思って焦っていると、さらにありすちゃんがのろけガソリンを注いでいく。


「やーほんとベッドとか超ふっかふかのでさー、マジ最高にきもちぃいー、みたいな。まあそんなこんなで、恋に遊びに忙しくしてたらあんたらのことどーでもよくなっちゃってたんですけどー、凛くんに配信もしろって怒られたので仕方なく今日配信してます」


【コメント】

UMAFY:ベッド……ふかふか……気持ちいい……ついに男をキメたんですね、凛太朗氏

ミヤミヤ:失望しましたファンやめます

輿 総一郎:冗談にしてもキツい

ねねこ:最低ですね。軽蔑しました


 そんなコメントと共に、視聴者数もリアルタイムでどんどん減っていく。

 ありすちゃんのチャンネルの方も確認しに行ったら、このわずかな時間で数千人単位で登録者数が減少していた。


【コメント】

Rinta:いやいやいやいやどう森だからね!? デートはデートでもどう森内デートだからね!? ゲームだからね!?!?!?!?


 これ以上のアリスナー離脱を防ごうと、慌ててそう書き込むが、一度火のついた流れはそれだけではなかなか止められない。


【コメント】

UMAFY:つまりどう森の中で……致したと!?

ナナコオリ:変態レベルが高すぎてさすがのワイも震えが止まらないナリ~

猛獣八号:来月か再来月辺りに妊娠報告待ってますね死ね

ガルボん:いつかこうなると思ってました

Rinta:だから違うってぇぇぇえええええ!


 コメントを打ち込みながら、並行して叫ぶ。


「だから違うってえええええええ!!」


 こんなんじゃ、またありすちゃんが炎上してしまいそうな勢いである。

 俺はありすちゃんをただ応援したいだけなのに、なんでこうなってしまうんだ? そんな風に頭を抱えていると……。


有菜:なんか面白いからリアルでやらかしちゃいましたってことにしない?


 ありすちゃん(の中の人)からそんなメッセージが送られてきた。

 物凄い脱力感を覚えながら、ぽちぽちとメッセージを返す。


凛太朗:そんな風に煽ったらさすがにもうファンやめます

有菜:しかし、アイワナ既成事実!

凛太朗:永遠に生えないからその事実

有菜:気合で生やせばワンチャン……

凛太朗:そのチャンスもないんだよ……

凛太朗:とにかく、頼むから弁解なりなんなりして誤解を解いてください。あなたのファンとしての心からのお願いです

有菜:えー……はーい……


 いかにも渋々、といった感じでそんな返事があってからほどなくして、配信でもありすちゃんが、「いやさっきのはマジ冗談で~、デートってのはただゲームの中で一緒に――」と、訂正をし始めてくれていた。


 その訂正で、とりあえずコメント欄も少しずつだが鎮火していってくれている。それを見てホッとする一方で、こんなことを俺は考えていた。


 ――こんなにたくさんのファンがいるのに、なんで俺なんかにありすちゃんはこんなに執着するんだろう、と。

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