3話『囲われた村にて』
「もうそろそろ村に着くぞ。」
馬車を操るおじさんが荷車の俺たちに話しかける。
タツヤが相槌を打って俺の方に向き直る。
「まあ、村に鍛冶屋とかでもあるだろうし、そこで直してもらえると思うぞ。」
タツヤが俺の手元の2本に分かれた槍を見ながら言う。
別に、槍が折れたことにショックを受けたわけではない。
ただキュクロが槍をくれるタイミングがちょうど今の槍を修理し終えてすぐとかだと勿体無いだけだ。
どうするべきか考えながら荷車から顔をだす。
目の前に伸びる道の奥に、木製の柵が見えてきた。
「あれが村ですか?」
「そうだ。四方を山で囲まれているところから『囲いの村』と言われている。」
おじさんはそう言いながら村の門の前で馬を宥める。
門の横に建てられている建物から背中に剣を携えた門番らしい男が出てきた。
「荷物を改めさせてもらう。先に言っとくことはあるか?」
「丁度村を探していた坊主が2人乗っているくらいだな。それ以外は全部商品だ。」
おじさんに案内されて門番が荷車に乗ってきた。
門番は俺たちに一礼して、荷車に乗った袋を一つずつ開けて中身を確認していく。
「商品は全て確認した。今門を開ける。」
全ての袋を確認し終えて門番は荷車を降りておじさんに一言話した後、門番は柵の上にある見張り台に手を振った。
見張り台にいる男が見張り台を降りた十数秒後、門が内側に開いていった。
おじさんが馬を歩かせて村の中に入っていく。
タツヤと共に荷車から顔を出して村の中を見回す。
周囲にはさまざまな出店が開かれていて、新鮮そうな果物や野菜が並んでいる。
おじさんは一つの出店の前で止まると、荷車に入っている商品を取り出し始めた。
「おっさん手伝おうか?」
タツヤが商品の入った袋を手に持ちながらおじさんに話しかける。
「じゃあそこの袋4つを頼む。」
おじさんはそう言いながら4袋抱えて出店の収納棚にしまっていく。
唖然としながらも俺とタツヤは2つずつ持って収納棚に入れていった。
中が空っぽになった荷車を見て、引越しバイトした時の全部運び終えた時みたいな達成感を感じる。
「ありがとな坊主たち、これでうまいものでも食ってきな。」
おじさんはそう言うと俺たちの手に銅貨を5枚ずつ渡してきた。
おじさんに別れを告げてから、タツヤと一緒に街の中を歩いていく。
「さて、タツヤはどこか行きたい店あるか?」
「まずお前の槍を直しに行かないか?」
タツヤが俺の両腰についた槍を見ながら提案をしてくる。
頭の中で修理された槍を持った瞬間にキュクロから新しい槍が渡されるイメージが湧いてくる。
頭を抱えていると、タツヤが肩を叩いてきた。
タツヤが焼き菓子を売っている出店に指を指してこっちを見つめる。
さっきおじさんからもらった銅貨で買った揚げパンみたいな焼き菓子を食べながら街を散策する。
周りをキョロキョロ見ていたタツヤが再び肩を叩いてある看板に指をさした。
「早めに直しておいて損はないと思うぜ。」
そういうと竜也は俺を連れて剣が描かれた看板が掲げられた店の中に入る。
「おういらっしゃい、品揃えのいい武器がたくさんあるぜ!」
禿げた店主らしき人物が綺麗に磨かれた剣を壁に掛けながら喋り掛けてきた。
「どんな武器をお探しだい?」
店主が俺に近づいてきて、剣を掲げてきた。
俺は腰につけた折れた槍を見せる。
「この槍を直して欲しいのですが。」
店主は俺の槍を手に持って、槍を隈なく見ている。
「基本的に柄が中央から折れていること以外、目立った傷は無いか。銀貨一枚で直すが柄に使われている素材が変わってしまうがいいか?」
店主の質問に首を縦に振る。
「任せとけ、柄の素材は重くなるがその分丈夫にしといてやるさ!1時間後に取りに来てくれ!」
そう言うと、店主は俺の折れた槍を持って店の奥へと入っていった。
ダガーの並んでいる棚を見ると、タツヤが一本の短剣と貨幣の入った袋を交互に見て考え事をしている。
「銀貨20枚か・・・。」
考え込んでいるタツヤの後ろから短剣の値段を見る。
銀貨20枚と書かれた短剣は持ち手の部分が金箔で彩られていているなど豪華な装飾がされている。
正直言って、ダサい気がする。
「趣味悪くないか、その短剣?」
「わかってる、けどすごくカッコいいんだよ・・・。」
タツヤは残念そうな顔をして、カバンに貨幣袋をしまった。
落ち込んでいるタツヤを慰めていると、再び武器屋の扉が開いた。
「すみません!この店で1番質のいい短剣をください!」
店の中に入ってきた赤髪の女は活発な声を放ちながら机の前で立ち止まった。
俺とタツヤはその女から目を離せないでいる。
「ショウ、あいつお前の彼女に似てないか?」
タツヤの言葉に、俺は首を縦に振った。
大声で驚いて奥から出てきた店主はダガーの置いてある棚を指差した。
「あっちに貴族の方がお作りなさった豪華な短剣が売ってある。銀貨20枚とちょいと高めだが・・・。」
店主が言い終わるよりも先に、赤髪の女は貨幣袋から銀貨を数十枚、乱雑に机に落とす。
「えーと、ここから1234・・・20枚、こちらいいですか!」
女が店主の手に20枚の銀貨を手に乗せ、ダガーの置いてある棚、俺たちの方を向いた。
こちらを見た赤髪の女がこちらを見て驚いた表情を見せる。
「早川、走るの早いって・・・。」
店に小さなローブを抱えた帽子の女の子が入ってきた。
俺は、赤髪の女が何か言うより先に、口を開いていた。
「カエデなのか?」
「あ〜・・・おひさ、ショウ。」
驚いた表情からいつもの笑顔を振りまえて、俺の彼女、早川楓が俺に手を振っていた。
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