2話『再会』
全速力で森を駆け降りて数分が経った。
道を見つけてそこを歩いているが、一向に村が見えて来ない。
「この水晶玉・・・壊れてないよな・・・。」
左手に握っているコンパスを見るが、未だ東を指している。
あり得ることは村がかなり遠いか、この水晶玉が機能してないかだ。
前者なら歩き続ければまだ希望はあるが、後者なら絶望的すぎる。
バッグの中にパンが5個入っていたのは運がいいかと思ったが、今はそれ以上に水が欲しい。
意識が朦朧とする中、後ろからパカパカと音がした。
振り返ると、荷車を引く馬車がこちらへ向かっていた。
「すいませ〜ん。」
馬車に向かって手を振ると、馬車を操っていらしいおじさんが馬車を止めた。
「どうかしたか坊主?見たところかなり疲れているっぽいが。」
高校3年にもなって坊主呼びされるとは思わなかったが、とりあえず話を進める。
「すいません、俺このあたりで村を探しているんですが、道なりに歩いているんですがあまり見当たらなくて疲れてしまいまして、馬車に乗っけてもらってもいいですか?」
人にものを頼む態度を間違えてないか不安だったが、おじさんの気前の良さそうな笑顔を見て安堵した。
「乗りな坊主、さっきおまえさんと同じくらいのガキが寝ているから静かにしてやれよ?」
そう言いながら、おじさんは馬車の荷車まで肩を貸してくれた。
おじさんに感謝しながら荷車に乗ると、白いジャケットを着た少年が眠っていた。
「あれ、おまえ・・・。」
「坊主、今は寝かせてやれ。」
声をかけようとした俺の肩をおじさんがポンと肩をたたいてきた。
馬車が動き始め、心地よい揺れを感じながら目の前で眠っている少年を見る。
少年は間違いなく、俺の悪友の一人である小畑竜也だ。
高校1年から毎日学校で馬鹿騒ぎしていた友人で、他の悪友たちと共に誰がコンビニのおやつを買ってくるかのトランプ勝負で無敗の記録を持っていた。
それと同時に、この世界に来てようやく会えた学校の知り合いだ。
「そういえば坊主、おまえさんあそこで何してたんだ?」
仲間に会えた安堵感に浸っていると、おじさんが話しかけてきた。
「実は俺もよく分かってなくて・・・。これ読めばわかると思うんですが。」
そう言っておじさんにカバンの中に入っていたラーグルの手紙を見せる。
おじさんはその手紙を手に持って読んでいくうちに、どんどん目が見開かれていった。
「なあ坊主、ここに書いてあるのは本当のことか?」
質問に首を盾に振ると、おじさんは物珍しそうに俺と竜也を見始めた。
おじさんが俺たちを見ていると、荷車に石が引っかかったらしく、荷車が大きめに揺れた。
「おっとすまねえな坊主、ちょっと馬車に集中しなきゃな。」
おじさんは手紙を俺に返すと馬車を再び丁寧に動かし始めた。
ふと前を見ると、タツヤがあくびをしている。
「よおタツヤ、元気か?」
目の前に座っている俺を見て、タツヤの顔がもう目覚めたと言わんばかりに目を見開いた。
そのまま全く動かないので、肩をポンと叩いてみる。
タツヤはハッとしたかと思うと、俺の手を両手で勢いよく握った。
「ショウ!よかった!ようやく他の奴に会えた!」
タツヤがガッツポーズをとりながら荷車の上で踊り始めた。
おじさんが何か言いたげな表情でこっちを見ているがあえて無視した。
「タツヤ、何があったか詳しく教えてくれないか?」
喜んでいる竜也に手紙を見せる。
竜也はこれか〜と言いながら手に取った。
「まあ俺が覚えている限りにのことを思い出して話すよ。」
そう言うと、竜也が話し始めた。
「目を開けた時、白い空間が広がっていて他の学校の奴らも皆いた。
俺は寝ているショウの元に早川と釧路と一緒に集まって話してた。
何が起こったのか話し合っていると白い空間に一瞬周りが見えないくらい強い光が差し込んできた。
光が弱まって顔を上げると、3人の知らない人が俺たちの前に現れたんだ。
左には全身を赤一色のローブを着た女、右には革製の服を着た髪の長い男、真ん中には神々しい光輪が背中にある白い女性だった。
白い女性は俺たちを一通り見渡して、俺たちに状況を説明した。
白い女性こと軍神ラーグル伝えたのは
神の間でいざこざが起こっており、そのいざこざのせいで俺たちを元の世界に戻すのに必要な鏡を魔族の王が奪ってしまったこと、
そして、俺たちに魔族の王から鏡を取り返すのを手伝って欲しいこと、
武器とか力をここにいる2人からもらうこと、この3つのことだったんだ。
その後1人の空間に飛ばされて、兵種とか言うのを選ばされてこっちの世界に飛ばされたって感じだ。
要は俺たちがあっちに帰るために必要な道具を魔王が持っているから奪い返せってことだ。」
タツヤが長い説明を終えて一息ついた。
「まだ俺たちあまり戦闘経験ないのに行けるのか?」
俺の質問に竜也は頭を抱える。
何か思い出したくないことでも思い出したのだろう。
体を縮こませているタツヤを見ていると、突然馬車が急停止した。
「どうしたんですか?」
おじさんの荷車から顔を上げておじさんの方を見る。おじさんは腰から斧を取り出しながらこっちを向いた。
「コバルトンたちが道を塞いでいる。坊主たちは隠れていた方がいい。」
そう言うとおじさんが道の方を向いた。
道の先には、青い毛並みのイノシシが5匹、馬車を凝視している。
「俺たちも手伝いましょうか?」
俺が聞くと、おじさんは少し考えてからこっちを向いた。
「戦闘はあまり得意じゃないから3体頼んでいいか?」
「俺とタツヤで4体倒します。おじさんは馬車を守りながら1体でお願いします。」
俺の提案を荷車で聞いていたタツヤが驚いた表情で俺を見る。
無理とでも言いたげに首を振り始めるまでの流れが読めた。
「頼む、俺でも4対は厳しいからお互い2体ずつでいこう!」
「無理だよおじさんに拾われる前に1度モンスターと戦ったけどもうあんなやつと戦うの二度とごめんだ!」
タツヤは荷車に捕まって一向に離れようとしない。
「じゃあ一度戦ったことあるならあのイノシシの弱点を教えてくれないか?」
イノシシという単語を聞いてタツヤが涙で充血した目を見開きながら俺を見てくる。
俺が指差した先のイノシシを見て、竜也の顔に安堵の表情が戻った。
「良かった・・・あの人面犬じゃない・・・。」
竜也の言葉を聞いて、なんとなく何があったのかを察した。
だがヒューマンヘッドとは違いとは違い、目の前のイノシシたちは現世と同じような獣だ。
「2体いけるか?」
俺の問いかけにタツヤはあれならいけると言いたげに首を縦に振った。
「じゃあおじさんは馬車を守ってください!」
おじさんに一言告げてから、背中の紐を外して槍を持つ。
タツヤも白いジャケットの裏ポケットあたりから青いダガーと刃が矢印みたいな形をしたダガーを取り出した。
イノシシの一体が馬車に向かって突撃してくる。
その後を追うように残りのイノシシも勢いよく向かってきた。おじさんが最初に突撃してきたイノシシの突進を斧で受け止める。
おじさんが一体を押さえてる間に荷車からタツヤと共に飛び出した。
俺は2番目に早く突撃してくるイノシシに槍の穂先を向けた。
ヒューマンヘッドの時とは違って突進するだけなら待ち構えていればいい。
このまま突っ込んできたら串刺しになるはずだ。
イノシシは止まる気配を見せずに俺の構えた槍の穂先が額に沈んでいく。
ガッツポーズを取ろうとした瞬間、腹部に衝撃が襲いかかった。
何が起こったのかわからないまま背中に衝撃が走る。
視界が暗転しそうになりながらも立ち上がる。
イノシシは額に槍が刺さってから動かなくなっている。
「坊主、コバルトンの突進は捨て身に近い攻撃だ、待ち構えるんじゃなくて横から攻撃を加えろ!」
おじさんは最初に突撃してきたイノシシの突進を避けながら斧を振るっている。
槍を抜き取ってタツヤの方を見る。
タツヤは青いダガーで一頭を相手している。
もう一体は左脚に白いダガーが刺さったまま硬直している。
「なんだ、強いじゃねえか。」
タツヤの強さに安心してからもう一頭の突撃してきてるイノシシの方を向く。
突撃してくるイノシシがもう曲がらないと確信したところで横にステップする。
イノシシの目が俺に向くが、方向を変えれそうにない。
槍をイノシシの進行方向に添える。
止まれなくなったイノシシの右脚が添えられた槍の穂先で切り落とされる。
そのままイノシシは転がっていき、横たわるように倒れた。
安堵しながらタツヤの方を見ると1頭は倒れていて、もう1頭はさっきと同じ姿勢で固まっているままで、タツヤがダガーで刺し続けていても悲鳴を上げずにいた。
「タツヤ、何しているんだ?」
「これくらい刺せば行けるはずだ!」
そういうとタツヤがイノシシの左脚に刺さった白いダガーを抜いた。
途端にイノシシは大量の血飛沫を吹き上げて動かなくなった。
イノシシが死んだことを確認したタツヤが俺に向かってグッドサインをする。
これで全部かと思っていると、タツヤが横からぶつかってきたイノシシに吹き飛ばされる。
おじさんの方を見ると、肩を抑えて呻き声を上げている。
「タツヤ無事か!」
「なんとか・・・翔危ない!」
竜也が顔を上げて叫んだのを見て、イノシシの方を見る。
イノシシは俺に向かって突進の構えをした。
避けようと思ったが、後ろにはおじさんがいる。
俺が避けたらおじさんが死にかねない。
槍を高々と掲げ、穂先をイノシシに向ける。
イノシシが後ろ足を蹴り出した。
後ろに下がるがすでに目の前まできている。
勢いよく突進してくるイノシシの牙が俺の腹部に刺さるかと思った瞬間、イノシシの動きがピタリと止まった。
さっきの突進は止まらなかったのにと思いながら横に避ける。
イノシシの腹部を見ると、タツヤが持っていた白いダガーが浅く刺さっている。
「ショウ、今のうちに!」
タツヤの声を聞いて後ろのおじさんの元に向かう。
おじさんをイノシシの突進方向から避けるために肩を貸す。
イノシシの突進先に何もないことを確認してから再び槍を掲げる。
勢いよく槍を放り投げるが、槍はイノシシの右前脚の付け根に刺さった。
槍が刺さった衝撃でダガーが抜けた瞬間、イノシシがさっきの速度で誰もいないところへ走り始めた。
イノシシに刺さった槍は突然の加速でイノシシの体に深々と入っていく。
槍の柄が見えなくなるまで入り込んだところで、イノシシは悲鳴をあげて倒れた。
遠目で見て、死んだことを確認すると、カバンの中が光った。
おそらくイノシシを倒したことを知らせるために水晶が光ったのだろうと思いながら、イノシシから抜け落ちたタツヤのダガーを拾う。
「ショウ、無事か!」
タツヤが激突された腰を抑えながら俺の方に向かってくる。
「お前のおかげで無事だった。これお前のだろ?」
俺はタツヤに感謝しながらダガーを返した。
タツヤがダガーをしまったところでおじさんが起き上がる。
「すまないな坊主たち。俺がヘマしちまったばっかりに・・・。」
「問題ないぜ。おっさんは?」
タツヤがおじさんに手を貸している間に最後に倒したイノシシに近づいていく。
イノシシの右脚部分に槍の石突部分が見えた。
引っこ抜こうと掴むと、違和感を感じた。
石突の近くの柄を掴んでいるはずなのに、やけに軽い。
嫌な予感を感じながらイノシシの腹から槍を引き抜く。
槍は穂先が木製に変わり、柄の長さも半分になっている。
馬車に戻ると、荷車の上からタツヤが顔を覗かせている。
「あれ、槍は?」
「折れた。」
俺は荷車に乗って、両手にある2本の槍を見ることしかできなかった。
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