友達100人見つけなきゃ! 〜気がつけば学年規模で異世界転生されていた。

@Kitunekuro

プロローグ&第1話『はじめの一歩』

「・・・きなさい。起きなさい。」

声が聞こえてきて目を開けると、眩しい光が差し込んで視界に入ってきた。

ぼやけた視界が徐々に戻るのを感じて体を起こした。

声の主を探そうと周囲を確認するが、見渡す限りどこまでも続く真っ白な空間には自分以外の誰かは見当たらない。

「一体、何がどうなって・・・。」

「目覚めましたか?蒼山翔さん。」

再び聞こえてきた声は俺の足元から聞こえた。

足元には俺の影しかない。

足元を見続けていると、俺の影の顔部分に三日月型の光が見えた。

「影?」

「そうです。今あなたの影から私は喋りかけています。」

三日月みたいな口から影が俺に喋りかけてきた。

「なんなんだこの空間?夢か?だとしても明晰夢なんて試してないぞ?」

「夢ではありませんよ。あなたは元いた世界からこちらへ転生させました。」

転生という言葉は聞いたことある。

学校の友人がよく読んでいる本のジャンルに異世界転生ものとかいうのがあったがそれと同じような現象が起こっているということか。

「けど転生って言われても、俺全くゲームとかしないぞ?なんで転生とかさせられているんだ?」

俺の発言に影が呆れたように頭をさすっている。

俺の影なのに一人でに動いていることに違和感を感じていると、影が三日月みたいな口を動かし始めた。

「あなたは多くの人と共に大型の乗り物に乗っている時、その乗り物が三台全てが地震の後に起こった土石流に巻き込まれる形でここへ転生されました。」

影の言葉を聞いて徐々に前の記憶を思い出した。

高校3年生の修学旅行の最終日、旅行先から帰る時にバスに乗って、その後すやすやと眠り始めて・・・。

「もしかして俺寝てる間に死んだのか?」

「あなたに記憶がないならそうなるでしょうね。他の皆さんは覚えてましたし・・・。」

「ちょっと待って、皆さん?」

俺の問いかけに影は首を傾げる仕草をしてから話す。

「ええ、あなた以外のバスに乗っていた教員4名、バスガイドと運転手3名、生徒100名の計110名がこちらへ転生されています。」

影の答えを聞いた後、頭の中に一人の顔が思い浮かんだ。

紅葉で真っ赤になった森の中で満面の笑みでこちらに振り返りピースサインをする彼女の姿が。

「カエデもあっちにいるのか?」

「早川楓さんのことですか?すでに転生されていると思います。」

影が答え終わると同時に俺は膝をついて影の胸元に手を置いた。

影からグエッと音を出しながらジタバタしている。

「俺もいますぐ転生させろ。」

「おちついて・・・まずはあなたのへいしゅを・・・。」

影は胸元を抑えられて苦しいらしく呂律が回っていない。

抑えている手を外すと、影は荒い息を吐きながら喋り始めた。

「この世界ではあなたも兵種、あなたの世界でいう『職業』についてもらう必要があります。まずはそれを選んでください。」

影はそういうと横からボトンと音がした。

横を見ると、一冊の辞典くらいの分厚さのある本が落ちてる。

表紙には『下級兵種一覧』と書かれている。

「ここから選べばいいのか?」

ページをめくりながら影に問いかける。

しかし、影は俺と同じ動きをしながら一言も声を発さない。

おそらく影の中からいなくなったのだろう。

とりあえずページをめくって読んでいく。

ソードファイター、アーマーナイト、ファイター、アーチャー、メイジ、テイマー・・・。

学校の悪友たちとやったRPGで見たことある名前が多い。

「じゃあランサーで。」

俺が自分の兵種を決めると、目の前でストンと音がした。

前を見ると、顔が見えないくらい髪が伸びた人が目の前にいた。

「誰!?」

「さっきの者です。」

聞き慣れた声が目の前から聞こえてきた。

「選ばれた兵種はランサーですね。では今からあなたの槍を作ります。」

そういうと、目の前の男が黒い空間を作り出した。

男はその黒い空間の中に手を慎重に突っ込んでいく。

「あの、何をやっているんだ?」

「材料調達です。」

男が慎重に手探りで空間の中を弄っていると、目の前で男が痙攣し始めた。

何が起こっているか聞きたいが、痙攣の仕方からして近づいたらいけない気がした。

数分間、男は痙攣した後、空間から腕がすっぽ抜けて後ろへ尻餅をついた。

男の手には黄色い尖った何かがあった。

黄色いそれはパチパチと音を鳴らして火花みたいなものを散らしている。

「ではこれを素体にして貴方の槍を作っておきます。それでは我々の世界へ行ってらっしゃい。」

男がそういうと同時に、足元の感覚が消えた。真下には先ほど男が手を入れていたのと同じ黒い空間が浮かんでいる。

不意に真下へ落ちていくすんでのところで白い空間にしがみついた。

「ちょっと待て!普通こういう時って槍貰ってから落とすだろ!なんで唐突に落とすんだよ!それとお前はなんなんだよ!」

「あなたは先ほどすぐに転生させろと言ったからすぐに落とすんです。槍は後から降ろします。あと私はキュクロと申します。」

キュクロという男が名乗り終わると同時に黒い空間がしがみついてる腕にまで広がって俺は奈落へと落ちていった。



再び目を開けると、目の前には草が生い茂っていた。

立ち上がって自分の体を見る。

黄色い長袖の服の上から鉄製の胸当てが、左手の二の腕から手首までに鉄製の甲みたいなものが付いている。足元の水たまりを見ると、髪は毛先の部分が黄色く染まっていた。

これが転生かと思いながら地面を見ると、肩にかけるタイプのバッグと長い棒状のものが落ちていた。

バッグを肩にかけて棒状のものをとる。それは簡素な木と青っぽい色味の金属の穂先でできた槍だった。

あの男が使っていた素材が使われた形跡がないと思いながらバッグを探る。

バッグの中には銀貨が20枚くらい入った袋(多分財布だろう)と手の平に収まるサイズの水晶玉、布で包まれたパン5個、それと3枚の紙だ。

早速1枚目の紙を広げる。

『翔さま、あなた専用の槍は完成次第下界のあなたの元に下ろすのでしばらく青銅の槍で冒険してください。』

頭の中で黄色い素材を持って痙攣していた男がよぎった。

あいつなりに苦労しているのだろうと思いながら2枚目の紙を開いた。

『この世界に降り立った者へ

まず何も知らないあなたたちをこの世界へ招いたことをここに詫びる。

この世界からあなた方の現世へ戻る手段はこの世界に一つだけ存在する【常世の鏡】を使用することのみである。しかし、我々神の間でいざこざが起きており、その鏡を持っている神が魔族の王に渡している。

我々もどうにかしてその王を殺そうとしたが、我々は魔族に肩入れしている神たちによって阻まれてしまっている。

そのためこの世界に降り立ったあなた方には魔族の王を倒してもらいたい。さすれば元の世界に戻れるだろう。

我々も微量ではあるが鍛治の神キュクロに神器を、力の神レングから異端なる力を授けるように申し出ておく。

ご武運を。

 軍神 ラーグル』

紙に書かれた達筆な文字の文を読んで一息付く。

紙に書かれている内容は全く理解できない。

「俺に国語力があれば・・・。」

理解できない手紙を繰り返し読んでいると、近く茂みが揺れる音がした。

風も吹いてないのに不思議だと顔を上げると、可愛らしい女の子の顔が茂みの中から出てきている。

「君はこの辺の村の子かな?ちょっと聞きたいんだけ・・・。」

俺が尋ねるよりも先に女の子が茂みから体を這い出した。

首から下が狼の体の女の子が・・・。

「え?」

目の前の異形を見て動けないでいると、女の子が口から人のものとは思えない牙を剥き出した。

「モンスターってことかよ!」

後ろに立てかけてた槍を手に取ると同時に、モンスターは飛びかかってきた。

モンスターの牙は避けた俺の肩を掠めて背後の木に深々と刺さった。

モンスターは牙を木から抜きながらこっちに目を輝かせている。

両手で槍を持って構えるがさっきから震えが止まらない。

モンスターは再び俺に向き直り、攻撃のチャンスを伺い始めている。

正直言って背中を向けて逃げたいが、さっきの襲いかかる速度を見るに追いつかれるのは目に見える。

つまりここで倒すしかないということだ。

槍の穂先を少し下げると、モンスターは飛び上がって襲いかかってきた。

モンスター腹部を攻撃するように槍を横に振るった。

だいぶ長めにリーチを取っていたせいで槍の柄が横っ腹に当たっただけでダメージはそれほど入ってないようだ。

起き上がったモンスターが目を見開いて顔に似合わない低い唸り声を上げる。

怖くて今も体が震えるが、モンスターの攻撃にしっかり対応できてることを実感して落ち着きを取り戻す。

「俺はやれる・・・。」

一言呟いて再びモンスターの目をみる。

慎重に槍の穂先を体に寄せて、縦に構える。

モンスターは瞬きをすると、素早く足元に駆け寄ってきた。

今度は剣のように持ってリーチを短くしている。

牙を向けて飛びあがろうとするモンスターに向かって槍を勢いよく振り下ろす。

モンスターの可愛らしい顔に縦に赤い線が浮かぶ。遅れて血飛沫が吹き上がると共にモンスターは真っ二つになって倒れこんだ。

モンスターを倒せた安堵感でその場に倒れ込むと、カバンが唐突に光り始めた。

中を探ると、水晶玉が光っていて文字が浮かび上がっていた。

『モンスター【ヒューマンヘッド】討伐報酬:銅貨5枚』

おそらく、この水晶玉が情報などを見るためのアイテムなのだろう。

とりあえず、さっきのモンスター(ヒューマンヘッドと言うらしい)がこの辺りにまだいるかもしれない。

「とりあえず、まずは他のみんなに会いに行くか・・・。」

バッグに付いている紐(多分武器を背中に背負う用)を槍に結びつけて、水晶を手に持つ。

この水晶玉なら地図機能ぐらいついているだろうと思って喋りかけてみる。

「地図を見たい。」

水晶玉に喋るが、反応しない。

「マップを見たい。」

言い直してみるが、水晶玉は反応しない。

「近くの村の方向。」

水晶玉の中に菱形の赤と黒の見たことある針が浮かび上がり、東の方角を刺す。

水晶玉の不便さを感じながら、東に向かって走り出した。

俺の異世界での冒険は始まったばかりだ。

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